今季、2024/25年のリーディングトレーナーに輝いたジョン・サイズ調教師は、地元メディアの間で “インタビュー嫌い” として有名だ。自身ではなく管理馬について話すことを好む彼だが、自分自身にスポットが当たる場は得意ではない。
一方で、今季のリーディングジョッキーであるザック・パートン騎手は全くの正反対。歯に衣着せぬ発言とコメントの巧みさで注目を集め、時にはライバル騎手にも臆することなく持論をぶつけるタイプである。
そんな対照的な二人が、先週金曜に開催された香港ジョッキークラブ(HKJC)の年末表彰式で、普段は決して見せない意外な一面を披露し、多くのファンを沸かせた。
最初に会場を盛り上げたのはサイズ。オーストラリア競馬殿堂入りのデヴィッド・ヘイズ調教師と並んでインタビューに応じたサイズは、司会のアンドリュー・ルジューンからの質問に、ユーモアたっぷりの返しで応じた。
2人の軽妙な掛け合いに、ルジューン氏も思わず「もう私は座って見てますね。お二人の漫才が始まりそうです」と冗談を飛ばす。会場は一気にコメディ劇場の様相を呈した。
ヘイズはまず、同郷の先輩に最大級の賛辞を贈る。「私はこれまで多くの名調教師と戦ってきましたが、ジョンが一番の存在だと心から思っています」と語り、アメリカのスポーツ界で広く使われるスラング、『GOAT(史上最高)』の称号をサイズに授けた。
だが、場の空気が重くなりすぎる前に、ヘイズが再び笑いを取りにいく。
「まあ、彼ももう71歳ですし、ここで引退を発表してくれたらありがたいですね。来年は私にチャンスをくれてもいい頃じゃないですか?」
サイズもここでは負けていない。強烈なパンチに、笑いながら応じる。
「彼が私のことを“最高の調教師”と言いたがる理由は簡単です。もし仮に彼が私を倒せたら、『史上最高を倒した』って言えますからね。そういうことですよ」
ヘイズの口撃は止まらない。「ジョン、香港で24年もやって12回チャンピオンを獲ったわけですが、残りの12年は一体何をしていたんですか?」
サイズは淡々と返す。「どの年にも言い訳はありますよ。翌年になると馬のレーティングが高くなって、簡単には勝てないんですよ」
「またその話ですか」とヘイズが口を挟む。
「最初は3連覇して、そのあと4連覇もしたんですよ。だからずっとサボってたわけじゃありません」とサイズが言えば、ヘイズは「じゃあ、来年もまた『空白の一年』をお願いしますよ」と笑いを誘った。
会場が笑いに包まれた後、表彰式はより感動的なムードへと切り替わる。通算8度目のリーディングに輝いたパートンが、トロフィーを手にしたスピーチでは、先ほどの調教師2人のやり取りに触れながら静かに話し始めた。
「あの2人の後だと、さすがに荷が重いですね。あの雰囲気を保てる自信は正直ないです」
パートンがまず語ったのは、過去10年で著しく改善されたジョッキークラブの医療体制とサポート体制への感謝である。42歳を迎え「この歳になると、いろいろなことが難しくなります」と率直に語り、医師や専門家、サポートスタッフの名前を一人ひとり丁寧に挙げ、深い感謝の意を表した。
しかし、この夜で最も印象的だったのは、パートンがライバルたちに向けて発した言葉だった。
「毎週、毎日、自分を磨くために私を後押し続けてくれた仲間たちに、心から感謝しています。皆がいなければ、今の私はありません。本当に、ロッカールームでも馬上でも、皆と過ごした時間は一生忘れません」
その最後の一言は、静かに、だが確かに会場を包んだ。
「もしこれが、私がこの壇上に立つ最後の機会になるとしても……皆さん、本当にありがとう。ずっと支えてくれて感謝しています」