ロマンチックウォリアーが単勝3番人気以下に評価を落としたのは、キャリアでわずか1度しかない。
2022年の香港クラシックマイル、人気の上ではパッキングヴィクトリーとカリフォルニアスパングルに後塵を拝したが、それでも勝利をもぎ取ってみせた。それ以外のレースでは、常に1番人気か2番人気の支持を守り通してきた。
だが、今回の勝負はゴール板での決着ではない。香港ジョッキークラブ本部の会議室で決着がつく。6人の選考委員が、2024/25年シーズンの香港年度代表馬を選出するのだ。
大方の予想では、カーインライジングが圧倒的な本命とされている。8戦全勝のシーズンを送り、今や世界最強スプリンターと評価される存在だ。しかし、リヴァーヴァードン以来の香港三冠馬となったヴォイッジバブルも有力候補としてその座を狙っている。
一方、G1・香港カップ、G2・ジョッキークラブカップに加え、ドバイでG1・ジェベルハッタを制したロマンチックウォリアーだが、G1・サウジカップとG1・ドバイターフでの連敗が響き、年度代表馬レースでは評価を落としている。
香港ジョッキークラブの選考基準では、他国での成績も評価対象とされている。しかし、限られた選考委員の間では、国内での成績がより重視される傾向は否めない。
実際、海外でG1を制した香港馬はこれまでに17頭。さらに、ローカルグレードの海外G1競走を勝った馬も4頭いる。そのうち、海外G1を制したシーズンに年度代表馬となった馬はわずか5頭しか存在しない。
具体的には、ロマンチックウォリアー(2023/24)、ミリタリーアタック(2012/13)、ヴェンジェンスオブレイン(2006/07)、ブリッシュラック(2005/06)、フェアリーキングプローン(1999/00)の5頭のみだ。
ロマンチックウォリアーとミリタリーアタックはいずれも、海外G1制覇に加えて香港の国内G1を複数勝利していたが、ヴェンジェンスオブレイン、ブリッシュラック、フェアリーキングプローンの3頭はいずれも、香港と海外で1つずつのG1タイトルだった。ロマンチックウォリアーの今季の実績も、まさにこのパターンに重なる。
かつて、同一シーズンに3カ国でG1を制したエアロヴェロシティ、アメリカのダートG1を制したリッチタペストリー、ムーニーバレーとロイヤルアスコットでも出走したケープオブグッドホープといった馬たちの偉業も、最終的には投票で退けられてきた。
いずれも国内での成績が勝敗を分け、エアロヴェロシティとリッチタペストリーはエイブルフレンドに、ケープオブグッドホープは再びサイレントウィットネスの陰に隠れる形となった。
今回のロマンチックウォリアーの状況で、最も近い前例は2006/07年のヴェンジェンスオブレインだろう。同馬はその年、香港ゴールドカップとドバイシーマクラシックを制したが、クイーンエリザベス2世カップとチャンピオンズ&チャターカップではヴィヴァパタカに完敗していた。
当時、香港や海外の評論家たちはヴィヴァパタカこそ本命と見ていたが、最終的に年度代表馬を獲得したのはヴェンジェンスオブレイン。後に「盗まれた勝利」と揶揄されるほど、その選考は多くの予想を覆した。

果たして、今回も選考委員会は評論家たちの予想を裏切り、ロマンチックウォリアーに2年連続の栄冠を与えるのだろうか。
そして、もうひとつの疑問も浮かび上がる。もしロマンチックウォリアーがサウジカップを勝っていたらどうだっただろうか?
世界最高賞金の一戦で、フォーエバーヤングをはじめとするダート最強馬の一角に勝利し、芝とダートの両G1を制していたとすれば……それはかつてない偉業となり、ロマンチックウォリアー自身の “完璧なシーズン” に傷が付くことはなかっただろう。そして、文句なしの満場一致での選出も充分に考えられた。
競馬というスポーツは、時に鼻差で勝負が決まることがある。絶対王者として称えるか、名脇役に甘んじるか。ロマンチックウォリアーにとっては、サウジカップでのフォーエバーヤングとの “首差” が、運命の分かれ道だったのかもしれない。