ここ香港にやって来る海外ジョッキーは皆、それぞれの評判を背負っている。
G1制覇の実績を引っ提げてやって来る者もいれば、鳴り物入りで迎えられる者もいるし、中には「最初から格の違いを見せられる」と信じている者さえいる。
だが、香港は必ずと言っていいほど、そんな騎手たちに試練を与えてくる。精神的にも、職業的にも、感情的にも試される。誰であろうと、どこで騎乗してきたかは関係ない。この場所は、あなたの弱点をあっという間に見つけ出すのだ。
今、その最たる例がジェームズ・マクドナルド騎手だろう。彼は今年もロンジン・ワールドベストジョッキーのタイトル争いを独走しており、それは当然の評価だ。
ただ今回の短期騎乗では、いきなり怪我をしてもおかしくない落馬があり(幸いにも騎乗を休むことにはならなかったが)、香港到着後の最初の2開催で13戦0勝と白星がない。
だからといって、彼の騎乗が悪いわけではない。どう乗っても勝ち目のないような厳しい枠順が続き、前に行っても下げてもどうしようもないレースがいくつもあった。
私はこれまで、自信満々で香港に来て、疑念に満ちて香港を去っていく世界レベルのジョッキーを何人も見てきた。香港ではレースのスタートからペースが速く、競馬はよりタイトで、トラックの内外でプレッシャーは常にかかり続ける。
どのタイミングでも、最大27人のジョッキーが番組表に名を連ね、14頭立てや12頭立てのレースのわずかな鞍を奪い合っているのだ。
香港競馬は、騎手の「評判」には全く興味がない。あるのは「結果」だけだ。
ハッピーバレー競馬場は、簡単に乗りこなせる場所ではない。1200mと1650mのレースでは、最初のコーナーまでおよそ200mしかなく、勝ちたいなら外々を回される位置取りになってはいけない。
香港にやって来るジョッキーが最初にやるべきなのは、全盛期のダグラス・ホワイト騎手がハッピーバレーで乗っていたレース映像を見ることだ。
ホワイトはこのコースを最も巧みに乗りこなした騎手で、どういうわけか、スタートから100m以内には必ず最内のポジションを見つけていた。直線に向く手前のカーブの回り方も絶妙で、最終コーナー手前で一度馬を落ち着かせ、前にスペースを作り、そこから再び内に切れ込んでラチ沿いをピッタリ走らせていた。
ジョアン・モレイラ騎手も、まさにスーパースターという存在だったが、香港に来た当初はハッピーバレーで苦戦していた。時間はかかったが、最終的には適応した。
世界中どこを探しても、ハッピーバレーほど枠順が命取りになるコースはない。ここ2開催でジェームズ(マクドナルド騎手)の枠順運は、お世辞にも良いとは言えない。完璧に乗ったとしても、レースの流れ次第でどうにもならない時がある。
それでも、ジェームズは大丈夫だろう。彼には優れた能力と格があり、これから控えている大レースでの騎乗も多い。今起きていることは、単に「香港競馬の通常運転」にすぎない。
彼はこの局面を乗り切っていくだろう。ただ、ここにはひとつの事実が改めて突きつけられている。才能だけで、香港を制圧することができるジョッキーなど、一人もいないということだ。
この現実に耐えられなかった偉大な騎手も少なくない。成功したジョッキーよりもはるかに立派な経歴を持ちながら、数か月で荷物をまとめて去っていったケースを私は見てきた。
その一方で、ブレット・プレブル騎手とザック・パートン騎手という、香港史上屈指の二人の名手は、キャリア初期に結果が出なかった厳しい時期にも踏みとどまった。彼らも去ることはできたが、最終的に待っていた軌跡を見れば、残った選択がどれだけ大きかったかが分かるだろう。
そこに、文化的な違いも加わる。香港の外にいる人には、世間の空気がどれほど急速に変わるかが、なかなか伝わらない。ここは迷信深い街であり、あなた自身が迷信深いかどうかは関係ない。もし騎手がスランプに陥ると、香港じゅうがその話題で持ちきりになる。
噂は一気に広がる。「不吉だ」という理由だけで、その騎手の起用を拒む馬主も見てきた。馬主が寺院に連れて行き、「悪運を払ってしまおう」と言い出すことだってある。
この街は、まず最初に鼻っ柱を折ってくる。そして、十分な実力と決意を持っているのなら、これまでの自分を超える騎手へと鍛え上げてくれるのだ。
マーク・ニューナム師の躍進に「驚きは無い」
マーク・ニューナム調教師が現在、リーディング調教師争いのトップに立っていることは、香港を理解している人間、あるいはマークという人物を理解している人間にとって、驚きでも何でもない。
彼はクリス・ウォーラー調教師やキアロン・マー調教師のように、オーストラリアで巨大な厩舎を構えていたわけではない。
その代わりシドニーで彼が徹底していたのは、何よりも「勝率」を重視する姿勢と、綿密なプランニング、それに超一流のコミュニケーション能力を組み合わせることだった。ゲイ・ウォーターハウス調教師のような人物のもとで働いて、初めて身につく類いのものだ。
マーク(ニューナム調教師)は、ウォーターハウス厩舎で長年、厩舎主任を務め、調教騎乗をこなし、そして騎手としても経験を積んできた。
ウォーターハウス師は、人の扱い方という点で、時代の先を行っていた。広報という意味では、彼女ほど優れた人物はこれまで存在しない。マークは、そのやり方を隅々まで吸収した。香港では、ジョン・サイズ調教師のような一部の例外を除けば、コミュニケーションと広報が戦いの半分を占める。
人々は忘れがちだが、彼はまだ香港で3シーズン目に過ぎない。ただ、このシーズン序盤の快進撃の種は、すでに昨シーズン終盤にまかれていた。
5月中旬の時点で、マークは41勝を挙げて調教師リーディング7位につけていたが、そこから無理に勝ち星を積み上げて「強いラストスパート」をかけることはしなかった。
代わりに、次のシーズンに向けて切り替えていった。残り12開催で上乗せした勝ち星はわずか3勝にとどまり、順位も9位まで下がったが、それは「来シーズンで好スタートを切る」という狙いがあったからだ。そして実際、狙い通りのスタートを切っている。
私はこれまで、多くのオーストラリア・ニュージーランド出身の調教師がシーズン序盤をうまく戦えない光景を見てきた。特にキャリア初期にはそれが顕著だ(もちろん、サイズ調教師という例外はいる。彼はシーズン序盤は決して良くないが、終盤になると一気に勝ち星を積み上げてくる。ただしサイズ調教師は特別なケースで、唯一無二の存在だ)。
多くの調教師はシーズン終盤はきっちり結果を出す一方で、オフ期間に馬を休ませすぎてしまい、新シーズン序盤には仕上がりが間に合っていないのだ。
マークは、その同じ罠にはまっていない。ここ2シーズン、彼は立ち上がりから好調を維持している。厩舎の馬たちは、戻ってくるときにはすでに戦える仕上がりになっている。
彼はレースを勝つのに大量の出走馬を必要とするタイプの調教師ではない。必要なのは「適切な時期に、適切な馬を用意すること」であり、今まさに彼はそれを実現している。厩舎の馬房は埋まり、若い馬たちは着実に成長し、その結果は、香港がまさに報いてくれる類いの長期的な思考を、そのまま映し出している。
今シーズン、彼はおそらく60勝前後まで勝ち星を伸ばすだろう。そうなれば、今季は彼にとって初めてリーディング調教師の座を狙える年になる。

異例の競走不成立…安全優先、でも二度目はならない
土曜日の開催で起きた競走不成立には、正直がっかりした。
というのも、私が応援していたのは、1着でゴール板を駆け抜けた馬だったからだ。それでも香港ジョッキークラブは、間違いなく正しい判断をした。安全が何よりも優先されるべきだからだ。
そして香港について理解しておくべき大前提がある。一度ミスが起きたら、同じミスは二度と起きない、ということだ。
今回のような事態は極めて稀である。競走不成立になるケースの多くは、レースのごく早い段階か、周回コースのレースで起きるものだ。土曜日のケースは明らかに、コミュニケーションの断絶、そしてシステム上の不具合が重なって起きたものだろう。
しかし香港では、同じ不具合が繰り返されることは許されない。
私が現役の騎手だった頃、ゲート後方に張られたロープシステムは、馬をスタート地点に近づけるとともに、今回のように馬が放れてコースを逆走し、馬群に向かって走ってくる事態を防ぐよう設計されていた。
このような事態を防ぐシステム自体は非常に効率的だが、その機能は「完璧」でなければならない。そうでなければ、リスクは計り知れない。だから、競走不成立の決定が馬券を買ったファンを苛立たせたとしても、その判断はやはり正しかったと言える。
私は、こうしたトラブルがなかったかのように扱われたり、あるいは延々と議論されるばかりで、結局何も改善されない国々で騎乗した経験もある。香港はその真逆だ。手順は即座に検証され、修正され、改善される。次の開催には、システムがきちんと機能するようになっている。それで終わりだ。
それこそが、香港が今もなお世界の最高水準とされる競馬の舞台であり続ける理由だ。瞬間的な判断に、その時は異議を唱えたくなるかもしれない。実際、今回は私の懐も痛んだが、それでも長い目で見れば、その一貫性に対して、必ず敬意を抱くようになる。
レースは不成立になった。それは正しい判断だった。そして私が一つだけ確信しているのは、同じことが二度繰り返されることはない、ということだ。
シェーン’s セレクション
推奨馬: ハッピーバレー開催・3レース、3番・ランランタイミング
前走のランランタイミングは、向こう正面で終始4頭分外を回らされ、前に馬を置けない厳しい形だったため、「ザ・ロック」と呼ばれる地点でいったん控え、3頭分外のポジションで馬群の後ろに収まることになった。
コーナーではかなり外を回らされたが、直線ではしっかりと脚を使って伸びてきた。水曜ナイターの今回は2番枠を引いており、ロスの少ない絶好のポジションで運べるはずだ。


