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2025 スプリンターズステークス: G1レビュー

競馬場: 中山競馬場

距離: 1200m 

総賞金: 3億6990万0000円 (249万8421米ドル)

国際色豊かな一戦となった今年のG1・スプリンターズステークス(1200m・中山)。多くが注目が集まったのは、香港・英国のG1で入着歴があるサトノレーヴだったが、主役を勝ち取ったのはウインカーネリアン。今年ドバイのG1・アルクォーツスプリントで2着に健闘した8歳馬が、外枠と低評価をものともせず、秋の大一番を制した。

この勝利で、三浦皇成騎手が待望のG1初制覇を達成。また、ウインカーネリアンの父・スクリーンヒーローは競走馬時代の17年前、鹿戸雄一調教師のG1初制覇をもたらしている。騎手、調教師の双方にとって、思い出深い運命的な勝利となった。

勝ち馬・ウインカーネリアン

8歳となったウインカーネリアンは、2020年から堅実にG1戦線の常連として戦ってきた。2020年の皐月賞では単勝360倍の超人気薄ながら、コントレイルの4着と善戦を見せている。

2021年はG1に出走しなかったが、それ以降は毎年、国内外のG1に参戦。ドバイワールドカップデーでは2度走っており、今年のアルクォーツスプリントで2着。2023年にはアメリカに遠征し、G1・ブリーダーズカップマイルにも出走した。

古馬以降、国内では昨年のG1・高松宮記念で4着がベストパフォーマンスだったが、今回のスプリンターズSでついにG1レースの頂点に立った。

今回のスプリンターズS制覇はウインカーネリアンにとってのG1初勝利であると同時に、2023年2月以来の勝利でもあった。なお、意外なことに、マイル未満のレースはこれが初勝利だった。

JUNE BLAIR (left), WIN CARNELIAN / G1 Sprinters Stakes // Nakayama /// 2025 //// Photo by Shuhei Okada

勝利騎手・三浦皇成

2008年の騎手デビューから17年を超える月日が経ち、三浦皇成騎手はついにG1ジョッキーへと上り詰めた。

デビュー初年度、三浦は新人ながら91勝を挙げ、JRA賞の最多勝利新人騎手を受賞。1987年、武豊騎手が打ち立てた69勝の記録を大きく更新する、歴史に残るデビューシーズンだった。以降、新人騎手の初年度勝利数は51勝が最多に留まっている。

また、2008年のスプリンターズSが三浦のG1初騎乗となり、プレミアムボックスに騎乗してスリープレスナイトの14着に入った。その後、JRAのG1では126戦連続の連敗記録が続き、とりわけ2014年の安田記念ではグランプリボスでハナ差2着と涙をのんだが、ついにウインカーネリアンで悲願を果たした形となった。

三浦とウインカーネリアンの関係は、2019年のデビュー戦勝利にまで遡る。2020年10月以降は殆どのレースで鞍上を任され、今回までの24戦中で手綱を他の騎手に譲ったのは、たった1回のみだった。

そして何より象徴的だったのは、その手に汗握る接戦だった。三浦は武豊が騎乗するジューンブレアをゴール寸前で抑えきり、直線長く続いた追い比べに最後の最後で決着を付けた。

これまでG1レースを勝てない騎手だった三浦が、G1ウィナーとして戻ってきた際に聞こえたスタンドの大歓声は、まさに日本競馬史に残る名場面の一つとなった。

KOSEI MIURA, WIN CARNELIAN / G1 Sprinters Stakes // Nakayama /// 2025 //// Photo by Shuhei Okada

勝利調教師・鹿戸雄一

鹿戸雄一調教師が手がけた有名馬としては、現役時代にジャパンカップを制覇したスクリーンヒーローが挙げられる。その産駒、ウインカーネリアンが厩舎に新たなG1タイトルをもたらした。

63歳の鹿戸師は、これまでも2021年JRA年度代表馬のエフフォーリアなどを管理しているが、ウインカーネリアンのように、年を重ねてもなお第一線に顔を出し続けるタイプは手がけた馬の中でも稀だ。

騎手時代には一度だけスプリンターズSに騎乗しており、1993年にビコーアルファーに騎乗して7着に入った。調教師としては、2008年のエムオーウィナーでの15着が唯一の出走経験。なお、その一つ前の14着が三浦騎乗のプレミアムボックスだった。

2着馬・ジューンブレア

ジューンブレアは、ここ1年で安定感抜群の存在へと成長した。中山1200mは抜群のコース相性を誇っており、昨年12月と今年3月には同条件で勝利を挙げている。また、G3・函館スプリントS(1200m)と中京のG3・CBC賞(1200m)でも2着の実績がある。

得意の舞台・距離に戻った今回は、武豊騎手が先手を主張して主導権を握り、巧みなペースメイクで流れを作った。決してスローではなかったが、前半800mは44秒9。昨年より約2秒遅く、過去10年で最も遅い前半4ハロンとなった。

直線入口になってもジューンブレアとウインカーネリアンの勢いは衰えず、残り400mから200mの区間ではレース全体の最速ラップを記録し、後続勢が差を詰める余地をほとんど与えなかった。

まだ4歳のジューンブレアは、来年のスプリントG1戦線でも注目を集める一頭となるだろう。

敗れた馬たち

サトノレーヴは直線で早めに進路は開いたが、前の2頭に迫る脚はなく、ゴール寸前で長年のライバルであるナムラクレアに交わされて4着におわった。

ナムラクレアはスプリンターズSで3年連続の3着入着、珍しい記録を樹立した。さらに高松宮記念でも3年連続の2着、加えて2022年のG1・桜花賞でも3着と、G1レースで7度の3着以上を確保しながら、いまだ未勝利という稀有な記録を積み重ねている。

香港馬のラッキースワイネスは、残り500m地点ではナムラクレアと並ぶ位置だったが、そこから手応えが怪しくなり失速。勝ち馬からおよそ5馬身差の11着に終わった。なお、前年覇者のルガルは一つ後ろの12着だった。

SATONO REVE, JOAO MOREIRA / G1 Sprinters Stakes // Nakayama /// 2025 //// Photo by Shuhei Okada

レース後コメント

三浦皇成騎手(ウインカーネリアン・1着):
「今日まで長かったなと……本当に長かったです。この馬とはずっとコンビを組ませていただいて、この馬の一番良いリズムを自分は知っていたので、今日は枠順に関係なく、一番走れるリズムだけを考えていました」

「頼むと、カーネリアン頼むと最後はそれだけの気持ちでした。追いながら、長いコンビを組ませていただいた色々なことが頭に思い浮かんできて、年齢も8歳で残りのチャンスも少なくなってきたので、なんとか意地でも勝たせてあげたいという気持ちで乗っていました」

「鹿戸厩舎では長くお世話になり、厩舎スタッフの皆さんからも応援していただきました。その中でもG1には手が届いていなかったので、中央でのG1初制覇が鹿戸先生のところで勝てたことが、一番良かったなという気持ちです」

「自分でも本当に勝てないのではと思ったこともありましたが、127回も勝てない自分を応援してくださったオーナー、そしてこれだけのファンがいて、その気持ちに応えなきゃと焦っている時期もありました。こうやって叶えることが出来て本当によかったなと思います」

「デビューしてから18年間、自分でもこんなに長く乗っていたんだと皆さんに感謝する一方、18年間G1に手が届かなかったので、本当に諦めたら終わりだなと思いました。諦めずに頑張っていれば、こうやって皆さんが見ていてくれて、その中でこれだけの声援に応えられたというのは、騎手人生で一番幸せな時間でした」

鹿戸雄一調教師(ウインカーネリアン・1着):
「本当に嬉しいです。この馬はずっと三浦とコンビを組んでG3は勝たせてもらったんですけど、なかなかG1には手が届きそうでなかなか届かなかったですけどね。こういう大きいレースで勝たせてもらって本当にありがたく思ってます」

「今回、本当は内枠欲しかったんですけど、1番外枠ということで、中山の1200にとってはちょっと不利な枠だったんですけど、皇成と話して出たなりで競馬をしてくれってことで、皇成もそのつもりで乗ってくれて、いい結果が出せてよかったです」

「(心境は?)本当にドキドキしてました。カーネリアンも8歳という年齢もあって、そこから先、踏ん張るところがなかなか難しいと思うんですけど、頑張ってくれたと思います」

「(次走は?)なかなか年齢のこともあって回復にどうしても時間がかかっちゃうんですけど、カーネリアンとオーナーと相談しながらゆっくり考えていきたいと思います」

「この馬は蹄葉炎という重い病気にかかって、厩舎スタッフに限らず、牧場関係者の人もすごく悩んで、いろんなことをやって、なんとか復帰できた馬です。もうそれだけでも嬉しいことだったんですけど、そのあと順調に使えることで、ほんとによく頑張ってるなって、本当に改めてカーネリアンは偉い馬だと思います」

武豊騎手(ジューンブレア・2着):
「狙っていたレースはできました。馬は良くなっていましたし、惜しかったです。それでも力は出せたと思います」

武英智調教師(ジューンブレア・2着):
「今日は行く馬がいなかったので、展開は予想通りでした。理想的なペースでしたが、ウインカーネリアンに早めに来られてしまった。相手は上のクラスで走ってきた歴戦の猛者。こちらが経験不足でした」

クリストフ・ルメール騎手(ナムラクレア・3着):
「良いスタートを切って、良いポジションを取れました。最後、外に出してからはいつも通りの脚を使ってくれました。サトノレーヴは負かせたけど、逃げた前の馬には追いつけなかった。ですが、今日は本当の走りが発揮できたと思います」

長谷川浩大調教師(ナムラクレア・3着):
「今日はペースが遅かった。よく最後は3着まで来ました。悔しいです」

ジョアン・モレイラ騎手(サトノレーヴ・4着):
「良いスタート、良いポジションで競馬ができました。道中の行きっぷりも良くて、手応えも良かったですが、今日は前に有利な馬場でした」

デレク・リョン騎手(ラッキースワイネス・11着):
「前に行って4番手に入ろうとしたのですが、外の馬にずっと締められてしまい、少し下げざるを得ませんでした。外からのプレッシャーが終始続いたので、レース中ずっとスムーズに運ぶことができませんでした」

「残り500m地点でペースが上がった時、香港とはテンポがかなり違っていて、速い流れに対応しきれませんでした。結果的に加速も遅れてしまいました。ペースはよどみなく流れ続けていて、500mでさらに一段速くなったように感じました。こういうのはラッキースワイネスにとっては初めての経験で、まだ慣れていなかったんだと思います」

今後は?

スプリンターズSは直近16頭の勝ち馬のうち12頭が、同年の香港スプリントに参戦している。ウインカーネリアンは香港遠征の経験こそないが、馬主のウインは2019年にウインブライトでQEIIカップと香港カップを連勝、2022年にはウインマリリンで香港ヴァーズを制している。

ウインカーネリアンがその足跡をたどるかは今後次第だが、ジューンブレアやサトノレーヴら、今回の上位組が12月に香港へ向かう可能性は十分にある。

レースリプレイ: 2025 スプリンターズステークス

アンドリュー・ホーキンス、Idol Horseの副編集長。世界の競馬に対して深い情熱を持っており、5年間拠点としていた香港を含め、世界中各地で取材を行っている。これまで寄稿したメディアには、サウス・チャイナ・モーニング・ポスト、ANZブラッドストックニュース、スカイ・レーシング・オーストラリア、ワールド・ホース・レーシングが含まれ、香港ジョッキークラブやヴィクトリアレーシングクラブ(VRC)とも協力して仕事を行ってきた。また、競馬以外の分野では、ナイン・ネットワークでオリンピック・パラリンピックのリサーチャーも務めた。

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