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2025 皐月賞: G1レビュー

競馬場: 中山競馬場

距離: 2000m 

総賞金: 4億3400万0000円 (304万8085米ドル)

サンデーレーシングの勝負服が、三冠競走の初戦・皐月賞(芝2000m)を制するというのは多くの予想通りだったが、勝ち馬は予想外だった。人気を集めたクロワデュノールを退けて勝利したのは、ミュージアムマイルだった。

クロワデュノールは、ジェニュイン、アンライバルド、オルフェーヴル、ドゥラメンテ、アルアイン、ジオグリフに続く、サンデーレーシングの皐月賞馬となると目されていたが、レースレコードを更新する爆発的な末脚を繰り出したミュージアムマイルに屈する結果となった。

この勝利により、ミュージアムマイルはジョアン・モレイラ騎手にとって過去4週で3つ目のG1勝利をもたらした馬になった。先週の桜花賞はエンブロイダリーで制し、高松宮記念ではサトノレーヴと勝利している。

レース展開

中山の芝2000m戦らしく、序盤からハイペースとなったが、向正面に入る頃にはペースが緩んだ。

最初のコーナーでは、エリキング、マスカレードボール、フクノブルーレイク、サトノシャイニングの4頭が激しく接触。マスカレードボールに騎乗した横山武史騎手には5万円の過怠金が科されたが、より大きな影響を与えたのはフクノブルーレイクの松岡正海騎手の進路取りと見られ、本人も鞍上で大きく体勢を崩していた。

正面スタンド前を通過し、中継もJRAが新たに導入したドローン映像に切り替わる中、ピコチャンブラックに騎乗した石橋脩騎手が一気にペースを落とす展開となり、最後方にいたファウストラーゼンの杉原誠人騎手が900m地点でまくり上げてハナに立つ場面もあった。これにアロヒアリイが続き、伏兵のドラゴンブーストも動いた。

ファウストラーゼンを追ったアロヒアリイが内へと斜行し、ドラゴンブーストに接触。その余波でクロワデュノールもブレーキを掛けることを強いられ、北村友一騎手は800mを過ぎた地点で改めてスイッチを入れ直す必要に迫られた。アロヒアリイに騎乗した横山和生騎手には3万円の過怠金が科された。

さらに、ニシノエージェントに騎乗した津村明秀騎手も進路を大きく乱し、その影響は最終的な勝ち馬ミュージアムマイルや4着ジョバンニに及んだ。この行為に対しても3万円の過怠金が出された。

こうした一連の混乱により、レースの4分の3の区間にわたり、ほとんどの馬が何らかの不利を受ける形となった。

その中で、外4頭分の進路に出されたクロワデュノールは勢いよく加速し、ミュージアムマイルも馬群を縫って前に取り付いた。直線に入ってクロワデュノールが一旦先頭に立ち、皐月賞の歴史に名を刻むかに見えたが、そこで脚色が鈍り、後続に差される格好となった。

それを交わしたのがミュージアムマイルだった。モレイラ騎手が左手の手綱を落としながらも悠々と前に出て、クロワデュノールに1馬身半差をつけてゴール。さらにクビ差でマスカレードボールが3着に入った。

勝ち時計の1分57秒0はレースレコード。前年より0.1秒速く、1分58秒の壁を破ったのは皐月賞史上4頭目となった。

MUSEUM MILE (green cap) / G1 Satsuki Sho // Nakayama /// 2025 //// Photo by Shuhei Okada

勝ち馬・ミュージアムマイル

ミュージアムマイルは2歳時から素質を高く評価されていた。デビュー2戦目となった10月の京都芝1800m戦で初勝利を挙げ、11月の黄菊賞(京都芝2000m)でも勝利を収めた。

その後はG1・朝日杯フューチュリティステークス(京都芝1600m)に2番人気で出走し、アドマイヤズームの2馬身半差での2着と、人気に応える走りを見せた。

3歳初戦となったG2・弥生賞ディープインパクト記念(中山芝2000m)では1番人気に支持されながら4着に敗れたが、このとき先着したファウストラーゼン(15着)、ヴィンセンシオ(9着)、アロヒアリイ(8着)は、いずれも今回の皐月賞でミュージアムマイルの後塵を拝することになった。

勝利騎手・モレイラ

モレイラは、過去30年間で日本の桜花賞と皐月賞の同一年制覇を果たした2人目の騎手となった。前回これを達成したのは、2019年にグランアレグリアで桜花賞、サートゥルナーリアで皐月賞を制したクリストフ・ルメール騎手である。

今回の勝利で、モレイラは世界通算47度目のG1勝利を記録し、今年だけで3勝目となった。またこの勝利により、モレイラ騎手はIFHAが発表する『ワールド・ベスト・ジョッキー』ランキングで4位に浮上。ジェームズ・マクドナルド、坂井瑠星、イーサン・ブラウンに次ぐ位置につけた。

JOAO MOREIRA / G1 Satsuki Sho // Nakayama /// 2025 //// Photo by Shuhei Okada

勝利調教師・高柳大輔

ミュージアムマイルの勝利は、高柳大輔調教師にとってクラシック初制覇となり、JRAのG1勝利としては、2021年のチャンピオンズカップ(テーオーケインズ)、昨年のヴィクトリアマイル(テンハッピーローズ)に続く3勝目となった。

2018年に開業した47歳の高柳は、海外遠征にも積極的で、テーオーケインズを中東に2度、テンハッピーローズをアメリカに遠征させた実績がある。

ミュージアムマイルは、そんな高柳調教師に世界の舞台での初勝利をもたらす存在となるかもしれない。

JOAO MOREIRA, DAISUKE TAKAYANAGI (R) / G1 Satsuki Sho // Nakayama /// 2025 //// Photo by Shuhei Okada

種牡馬・リオンディーズ

リオンディーズが皐月賞で2番人気ながらディーマジェスティの5着に敗れてから9年。彼はこのレースを、産駒のミュージアムマイルによって、ようやく血統表に加えることができた。

リオンディーズは朝日杯FSを制したものの、競走馬としても種牡馬としても、半兄のエピファネイアや、3/4同血のサートゥルナーリアの陰に隠れがちだった。いずれも母は、優駿牝馬とアメリカンオークスを制した名牝・シーザリオである。

ミュージアムマイルは、2024年の天皇賞・春を制したテーオーロイヤルに続き、リオンディーズ産駒として2頭目のG1馬となった。ほかにも、サウジダービー馬のピンクカメハメハ、NHKマイルカップ3着のロジリオンなどを輩出している。

敗れた人気馬

クロワデュノールは単勝1.5倍という圧倒的支持を受けて出走。この数字は2005年のディープインパクト以来の低オッズであり、2019年のサートゥルナーリア以来となる1倍台での1番人気だった。

もちろん、ディープインパクトもサートゥルナーリアも皐月賞を勝利している。しかし、斉藤崇史厩舎のクロワデュノールは、ミュージアムマイルの強襲には抗いきれなかった。

すでに述べたように、レース中盤で不利を受けた場面はあったが、それが決定的な敗因とは言い切れない内容だった。着差こそわずかでも、ミュージアムマイルに交わされた際のクロワデュノールは、どこか疲れた様子に映った。

CROIX DU NORD, YUICHI KITAMURA / G1 Satsuki Sho // Nakayama /// 2025 //// Photo by Shuhei Okada

レース後コメント

ジョアン・モレイラ騎手(ミュージアムマイル、1着):
「素晴らしい馬ですよね?跨った瞬間から、すぐに『これはいい馬だ』と分かりました。スケール感があって、パワフルで、気性も非常に穏やか。レース運びは決してスムーズではありませんでしたが、いくつもの障害を乗り越え、それでもあれだけの勝ち方ができるのは並の馬ではありません」

「今日この馬に乗れた自分が一番ラッキーだったと思います。厩舎も本当に素晴らしい仕事をしてくれました。彼はもっと上に行ける馬です。本当に特別な存在です」

「ダービーの距離もこなせると思います。どの要素を見てもそう感じさせてくれますし、レース中もずっと落ち着いていて、スムーズに運べました。何の問題もないと思います。日本の皆さん、いつも応援ありがとうございます。滞在中もとても楽しくて、日本は世界でも屈指の素晴らしい国だと思っています」

斉藤崇史調教師(クロワデュノール・2着):
「向正面でだいぶぶつけられました。あれがなければ勝っていたと思います。勝負所でぶつけられるとブレーキもかかるし、余計なスタミナを使わされてしまいます。それでも4コーナーからは動けていましたし、勝ち馬以外の差し馬には交わされていません。ダービーでは挽回したいです」

北村友一騎手(クロワデュノール、2着):
「1〜2コーナーに入る時点では、ベストポジションだと感じていました。他馬が捲ってきたところで外から押し込まれるところがあり、引っ張らざるを得ない状況になりました。そこは非常にもったいなかったです。競馬なので仕方ない部分はありますが、不利を受けながらもリカバリーして最後までしっかり走ってくれました。すごい馬だと思います」

手塚貴久調教師(マスカレードボール、3着):
「中山は合わないと思われていた馬でしたが、良い結果を出してくれました。状態もとても良かったです。内で詰まるのを心配していましたが、そこからよく伸びてくれました。力がありますし、今後が楽しみです」

横山武史騎手(マスカレードボール、3着):
「スタートは相変わらず一息で、ポジションは取れませんでした。ただ、最後は脚を使ってくれました。中山はあまり得意ではありませんが、今日は能力だけで来てくれたと思います。順調にダービーを使えるようでしたらかなり楽しみです」

杉山晴紀調教師(ジョバンニ、4着・サトノシャイニング、5着):
「サトノシャイニングは外枠でしたし、今年はCコースでいくらかロスがあったと思います。1コーナーでごちゃつく場面もあり、そこで少しテンションが上がってしまった。この2点が敗因です。ただ、2頭とも輸送は問題なくこなしてくれていましたし、ダービーに向けては良い材料だと思います」

西村淳也騎手(サトノシャイニング、5着):
「1コーナー、向正面と何度も当てられました。今日は終始ストレスのかかる競馬になってしまいました。コーナーで少しズブさを見せるのはいつものことですが、それでも直線は前をとらえられるかと思ったくらいでした。今日は本当に運がなかったです。残念です」

クリストフ・ルメール騎手(ヴィンセンシオ・9着):
「何回もぶつけられてリズムを作れませんでした。ゴールまで動けていて悪くはなかったのですが、手応えが一息でしたし3〜4コーナーでも忙しい感じがありました」

川田将雅騎手(エリキング、11着):
「具合良くレースを迎えられました。ダービーで改めてですね」

今後は?

今回の出走馬たちの多くは、6月1日に東京競馬場で行われる東京優駿(日本ダービー)で再び顔を揃えることになるだろう。

一方で、モレイラは翌週末に香港での騎乗を控えており、主にG1・香港スプリントで日本馬サトノレーヴに騎乗する予定だ。その後はアメリカ・ケンタッキー州へと向かい、日本から参戦するルクソールカフェで自身初となるケンタッキーダービー騎乗に臨む。

レースリプレイ: 2025 皐月賞

アンドリュー・ホーキンス、Idol Horseの副編集長。世界の競馬に対して深い情熱を持っており、5年間拠点としていた香港を含め、世界中各地で取材を行っている。これまで寄稿したメディアには、サウス・チャイナ・モーニング・ポスト、ANZブラッドストックニュース、スカイ・レーシング・オーストラリア、ワールド・ホース・レーシングが含まれ、香港ジョッキークラブやヴィクトリアレーシングクラブ(VRC)とも協力して仕事を行ってきた。また、競馬以外の分野では、ナイン・ネットワークでオリンピック・パラリンピックのリサーチャーも務めた。

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