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2025 日本ダービー: G1レビュー

競馬場: 東京競馬場

距離: 2400m 

総賞金: 6億5100万0000円 (446万5848米ドル)

クロワデュノールが世代の頂点に立った。3歳世代を代表する一頭として1番人気に支持され、G1・東京優駿(芝2400m)を制してその期待に応えた。

北村友一騎手、そして斉藤崇史調教師にとっても、これが初の日本ダービー制覇となった。クロワデュノールは、終始そつのないレース運びから、豪快な末脚を繰り出したマスカレードボールを3/4馬身差で振り切り、見事な勝利を収めた。3着には粘り強く食い下がった人気馬ショウヘイが入線した。

フランス語で「北十字星」を意味するクロワデュノールは、すでに10月のG1・凱旋門賞(ロンシャン・芝2400m)への登録を済ませている。過去にもドウデュース、マカヒキ、キズナといった東京優駿の勝ち馬たちがダービー制覇から4か月後の凱旋門賞へと転戦したが、いずれも頂点には届かなかった。

勝ち馬・クロワデュノール

約1年前から、クロワデュノールは東京優駿の最有力候補と目されていた。その名はキングカメハメハ、ディープインパクト、ウオッカ、オルフェーヴル、ドゥラメンテ、コントレイル、シャフリヤール、ドウデュース、タスティエーラ、ダノンデサイルといった歴代の名馬が連なる栄光の系譜に加わるにふさわしいとされていた。

評価に拍車をかけたのが、昨年12月のG1・ホープフルステークス(芝2000m)での圧巻の勝利だった。しかし、4月のG1・皐月賞(芝2000m)でミュージアムマイルに敗れたことで、そのオーラに若干の陰りが見えたのも事実だ。

それでも、クロワデュノールが1番人気の座を譲ることはなかった。レース前の話題は、単勝オッズが1倍台になるかどうかに集中し、最終的に2.1倍というオッズでの出走となった。

そして評価通り、彼は危なげない内容で勝利を掴んだ。

この勝利により、クロワデュノールは母であるライジングクロスが果たせなかった夢を叶えた。ライジングクロスは2006年の英オークスではアレクサンドローヴァの2着、アイルランドオークスでも3着に入った実績があるが、クラシック制覇には手が届かなかった。クロワデュノールはライジングクロスの11番仔で、10頭目の出走馬にあたる。現在、彼の1歳下の全弟にあたるチャリングクロスが奥村武厩舎で調教を積んでいる。

CROIX DU NORD / G1 Tokyo Yushun // 2025 /// Tokyo Racecourse //// Photo by Shuhei Okada

勝利騎手・北村友一

北村友一は、約20年にわたり騎手として活躍してきた。東京優駿には2009年にシェーンヴァルトで初騎乗(6着)して以来、長らくその頂に届かずにいた。

2019年から2020年にかけては、クロノジェネシスとのコンビを中心にG1を5勝し、充実の時を過ごしたが、2021年5月に重傷を負い、その影響で1年以上の戦線離脱を余儀なくされた。

復帰後、昨年のホープフルSでクロワデュノールに騎乗し、久々のG1勝利を挙げた。そして今年、ついに東京優駿を制したことで、北村はダービージョッキーとして名を刻むこととなった。2025年は2019年以来となるキャリアハイの年となる可能性を秘めており、その復活劇に大きな注目が集まっている。

YUICHI KITAMURA / G1 Tokyo Yushun // 2025 /// Tokyo Racecourse //// Photo by Shuhei Okada

勝利調教師・斉藤崇史

42歳の斉藤崇史にとって、クロワデュノールによる今回の勝利は、自身初の東京優駿制覇となった。

もっとも、彼にとってG1の舞台は決して未知の領域ではない。これまでにクロノジェネシス、キラーアビリティ、ジェラルディーナといった名馬たちでG1タイトルを手にしており、すでにトップトレーナーの一角を占める存在だ。

ちなみに、昨年の日本ダービーを制した安田翔伍調教師とは、わずか1か月しか年齢が違わない。彼らは新世代を担う日本の若手ホースマンの代表格である。

なお、クロノジェネシスは2021年に凱旋門賞に挑戦して7着に終わっているが、斉藤にとっては、再びその大舞台に挑むチャンスが巡ってきたことになる。クロワデュノールとともに、その記録を塗り替える日が来るかもしれない。

敗れた実力馬たち

2着に入ったマスカレードボールは、皐月賞での3着に続く好走で、今後の可能性を強く印象づけた。毎回のようにレース終盤で末脚を伸ばしているが、いつも時間が足りない。もしその才能を完全に開花させることができれば、4歳以降は『世界を相手にできる馬』となる可能性を秘めている。

そのマスカレードボールに騎乗した坂井瑠星騎手は、今回の2着で世界舞台における立場をより強固にした。現在『ワールド・ベスト・ジョッキー』ランキングでは、ジェームズ・マクドナルドに次ぐ2位につけている。これはフォーエバーヤングとのコンビでの活躍によるところが大きいが、マスカレードボールもまた、その地位を支える一頭となっている。

ただし、これから本格化する欧州シーズンの影響で、この座がどこまで維持されるかは未知数だ。

3着には、メジャーリーガー・大谷翔平選手にちなんで命名されたショウヘイが粘り込んだ。騎乗したクリストフ・ルメール騎手によれば、この馬はより硬い馬場のほうが向いており、秋に行われるG1・ジャパンカップ(芝2400m)やG1・有馬記念(芝2500m)での活躍が期待されるという。

5着のエリキングは上がり3ハロンで最速タイムを記録し、レース終盤で強烈な末脚を見せた。10月に行われるG1・菊花賞(芝3000m)では有力候補の一角となるだろう。

MASQUERADE BALL / G1 Tokyo Yushun // 2025 /// Tokyo Racecourse //// Photo by Shuhei Okada

関係者コメント

北村友一騎手(クロワデュノール・1着)
「僕がダービージョッキーというよりも、クロワデュノールがダービー馬となれたことが何より嬉しいですし、そこに最高のエスコートをできたことが一番良かったと思います。一言では表せないのですが、ここに至るまでの過程すべてに意味があったのだということを感じています。こうして全て、巡り合わせで勝たせていただいて、クロワデュノールとの縁があったこと、全部繋がっているのだなと感じます」

「僕の思いは一点だけ、馬を信じること、自分を信じること、信じるという点だけです。本当に、馬とずっと人馬一体になれていたような気がして、余計なことをしなくても馬がいいリズムで走ってくれていました。絶対伸びると信じていましたし、手応え通りといえばそのとおりなのですが、信じた結果がこうして1着に結びついてよかったです」

「まだまだ伸びしろを感じていますし、もっともっとクロワデュノールという名前が世の中に知れ渡ってほしいと思います」 

坂井瑠星騎手(マスカレードボール・2着)
「課題のテンションはなんとか我慢してくれましたし、状態は非常に良く感じました。レースは勝ち馬をマークできればと考えていて、折り合いはスムーズでした。この枠から考えられるレースは出来たかなと思います。最後までしっかり脚を使ってくれましたが、勝った馬は強かったです」

クリストフ・ルメール騎手(ショウヘイ・3着)
「G1レベルのメンバーの中で、すごくいい競馬をしてくれました。よく頑張ってくれましたが、一つだけ、このような緩い馬場では走りがあまり良くありませんでした。特に3~4コーナーから直線にかけて、昨日の雨の影響もあってバランスが良くなかったのですが、すごく頑張ってくれて3着でした。精一杯走ってくれました。秋が楽しみです」 

武豊騎手(サトノシャイニング・4着)
「頑張りました。1コーナーで外から来られた時にエキサイトしてしまいました」 

川田将雅騎手(エリキング・5着)
「とても具合良く今日を迎えられました。直線も素晴らしい走りで能力を示してくれました。次に繋がる良いレースが出来たと思います」

ダミアン・レーン騎手(ミュージアムマイル・6着)
「7番枠からいいスタートを切って、道中の反応も良かったです。前半のペースがちょっと流れたことで、後方からの競馬になりましたが、この馬としてはリズム良く走れました。直線も反応を見せて、一生懸命走ってくれました。しかし今日は、ポジション取りと展開の差が出た感じです」 

今後は?

クロワデュノールは今後、凱旋門賞への挑戦が視野に入る見込みだ。一方、マスカレードボールとエリキングは菊花賞(3000m)を目標に秋に備える可能性が高い。

いずれのローテーションを選ぶにしても、今年の上位6頭は、秋にはジャパンカップや有馬記念といった古馬との頂上決戦に挑むことになるだろう。

レースリプレイ: 2025 日本ダービー

アンドリュー・ホーキンス、Idol Horseの副編集長。世界の競馬に対して深い情熱を持っており、5年間拠点としていた香港を含め、世界中各地で取材を行っている。これまで寄稿したメディアには、サウス・チャイナ・モーニング・ポスト、ANZブラッドストックニュース、スカイ・レーシング・オーストラリア、ワールド・ホース・レーシングが含まれ、香港ジョッキークラブやヴィクトリアレーシングクラブ(VRC)とも協力して仕事を行ってきた。また、競馬以外の分野では、ナイン・ネットワークでオリンピック・パラリンピックのリサーチャーも務めた。

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