2025 ヴィクトリアマイル: G1レビュー
競馬場: 東京競馬場
距離: 1600m
総賞金: 2億8310万0000円 (197万3159米ドル)
アスコリピチェーノは直線入り口でほぼ最後方、逃げるアリスヴェリテからおよそ20馬身差という絶望的な位置にいたが、そこから外を強襲し、ゴール寸前で差し切ってG1・ヴィクトリアマイルを制した。このレースは、日本で唯一、古馬牝馬限定で行われるG1競走だ。
黒岩陽一調教師が管理するこの4歳牝馬は、直線に入った時点では後方2番手という位置取りだったが、そこから驚異的な末脚を繰り出し、最後の数完歩で先頭に立った。
2着馬は、同じサンデーレーシングのクイーンズウォークがクビ差で入線。さらにそのハナ差で、最後方から追い込んだシランケドが3着に食い込んだ。
勝ち馬・アスコリピチェーノ
アスコリピチェーノは、3歳時にG1勝利を逃し、ローズヒルで行われたゴールデンイーグルでも大敗を喫したが、これまでの圧巻の戦績を振り返れば『玉に瑕』に過ぎないことだ。
彼女は2歳時に阪神ジュベナイルフィリーズを制してG1初制覇を果たしており、4歳になった今年、改めてG1タイトルを手中に収めた。さらに今年初戦のサウジアラビアではG2・1351ターフスプリントを勝利し、これが海外での初勝利となった。
今回は最後方から見事な豪脚を披露したが、さらなる距離の対応力を証明できれば、今後も大舞台での活躍が十分に期待できそうだ。
勝利騎手・ルメール
第20回となる今年のヴィクトリアマイルで、クリストフ・ルメール騎手は同レース史上初となる4勝目を挙げた。
これまでにルメールは、アドマイヤリード(2017年)、アーモンドアイ(2020年)、グランアレグリア(2021年)で勝利しており、今回のアスコリピチェーノが4度目の制覇となった。
これでルメールのJRA・G1勝利数は通算54勝目。昨年の菊花賞(アーバンシック)以来のG1タイトルである。現在45歳のルメールは、今年のJRAリーディング争いで7位につけており、首位の戸崎圭太騎手とは15勝差だ。9年間で8度目のリーディングタイトルを目指す中、この勝利が再加速のきっかけとなる可能性もある。
勝利馬主・サンデーレーシング
ヴィクトリアマイルの2レース前に行われた条件戦、サンデーレーシングはJRAの平地競走で1〜4着を独占するという快挙を達成した。これは1962年8月の小倉開催以来、実に63年ぶりの珍事である。
そしてその勢いのままヴィクトリアマイルでも、アスコリピチェーノとクイーンズウォークでワンツーフィニッシュを決めた。
ミュージアムマイルが皐月賞を制するなど、今年のクラシック戦線でも好調なスタートを切っているサンデーレーシング。いかに良血馬揃いのエリート集団だとしても、G1という最高峰の舞台で安定して好走すること自体が偉業であることに変わりはない。
今後も注目馬が続々と控えており、オークスではリンクスティップが、そして東京優駿(日本ダービー)ではクロワデュノールとミュージアムマイルの2頭が上位人気に推される見込みとなっている。

池添騎手の「大勝負」
結果的に実を結ぶことはなかったが、アリスヴェリテに騎乗した池添謙一騎手の積極的な逃げ策は、今年のヴィクトリアマイルを大いに盛り上げた。そして、あと少しで大波乱を演出するところだった。
池添は、JRAの牝馬限定G1全制覇を目指していたが、それを成し遂げるために一切の躊躇はなかった。外枠から一気にハナを奪い、果敢に先手を主張した。
大きくリードを取りながらも、決してペースは速くはなかった。残り200mでは「もしかしたらこのまま押し切るか」と思わせる場面もあったが、50m地点でついに捕まり、アスコリピチェーノから1馬身強遅れての5着に終わった。
アリスヴェリテはまだG1勝ちこそないものの、昨年アメリカのG1・ブリーダーズカップ・ディスタフでは、同年のアメリカ年度代表馬ソーピードアンナに次ぐ4着という健闘を見せている。今回の内容から、条件がかみ合えばG1制覇も夢ではないという期待が、陣営にとっても現実味を帯びてきた。
関係者コメント
クリストフ・ルメール騎手(アスコリピチェーノ・1着):
「1番人気、外枠、この馬場で、どういった競馬ができるか心配していました。スタートがあまり良くなくて、スピードに乗れず、少し忙しかったです。追ってから加速していますが、手前を何回も替えて、トップスピードになるまで時間がかかりました。それでも、メンタルが強く、最後までよく頑張ってくれました。G1を勝てて良かったです」
川田将雅騎手(クイーンズウォーク・2着):
「素晴らしい具合で競馬に臨み、1600mでも対応してくれました。素晴らしい内容で走ってくれました」
ミルコ・デムーロ騎手(シランケド・3着):
「馬込みは良くないです。スタートは出て、ポジションを取りにいきましたが、馬場の重い所で脚を使いたくなかったので、あの位置でじっとしていました。その後もスムーズに運ぶ事が出来ず、上手く競馬が出来ませんでした」
ダミアン・レーン騎手(アルジーヌ・4着):
「普通にスタートを切り、満足なポジションから競馬が出来ました。リズム良く直線に入って反応も良く、まわりに馬が来てからもファイトしてくれました。しっかり走ってくれましたし、タフな競馬でしたが、馬に感謝しています。良く頑張りました」
武豊騎手(ボンドガール・16着):
「掛かりました。ずっと力んだ形で走っていました。こうなると伸びないですね」
この先は?
アスコリピチェーノは、今後のローテーションとして、同コースで行われるG1・安田記念への参戦が視野に入っている。ドバイターフを制したソウルラッシュや、昨年のNHKマイルカップで彼女に先着したジャンタルマンタルとの激突が予想されており、見逃せない一戦となりそうだ。