2025 桜花賞: G1レビュー
競馬場: 阪神競馬場
距離: 1600m
総賞金: 3億0380万0000円 (211万5770米ドル)
あいにくの雨模様だったG1・桜花賞(1600m)、エンブロイダリーが2025年の日本クラシック第1弾を制し、その名を歴史に刻んだ。鞍上はジョアン・モレイラ騎手、管理するのは森一誠調教師だった。
昨年、エンブロイダリーは2歳の新潟1800mのコースレコードをほぼ1秒更新した走りを見せ、Idol Horseにおいても『Future Idol』として注目していた。その期待に応えるように、モレイラの手綱で堂々の勝利を飾った。
レース展開
小雨が降るコンディションでの発走となったが、馬場状態の公式発表は「良」だった。ただし、モレイラはレース後に「感触としては『稍重』に近かった」と語っている。
1番人気に推されたエリカエクスプレス(単勝3.4倍)は、戸崎圭太騎手のもと、スタートを決めてスムーズに先手を奪った。一見すると楽な逃げに見えたが、序盤600mをやや飛ばし過ぎたことで終盤に失速し、結果は5着だった。
2番人気は阪神ジュベナイルフィリーズの勝ち馬アルマヴェローチェ(3.8倍)。内のエンブロイダリーと並ぶように中団に構える形になった。
岩田望来騎手がアルマヴェローチェを外へ持ち出した一方、モレイラはあえて内を選択。結果的に『針の穴を通すような』狭い進路を突いて抜け出した。残り200mでアルマヴェローチェが一瞬前に出るも、エンブロイダリーが勢いよく食らいつき、最後はクビ差で差し返した。
3着にはミルコ・デムーロ騎手騎乗のリンクスティップが2馬身半差で入った。

勝ち馬・エンブロイダリー
エンブロイダリーは、16年前に桜花賞を制したブエナビスタの近親にあたる。実際、エンブロイダリーの3代母、ビワハイジはブエナビスタの母であり、自身も1996年の桜花賞では2番人気に支持されたものの、結果は15着と大敗している。
エンブロイダリーは昨年、安田記念当日の新馬戦でデビューし敗れたものの、その後は新潟1800mと東京1400mで鮮やかな勝利を挙げている。なお、間に中山での5着という悔しい一戦もあった。
今季初戦として臨んだのがG3・デイリー杯クイーンカップ(東京芝1600m)で、同レースでは母のロッテンマイヤーが2016年に3着に入っていた。娘のエンブロイダリーはその雪辱を果たす形で快勝を収めた。
勝利騎手・ジョアン・モレイラ
ジョアン・モレイラ騎手にとっては、今回の勝利が桜花賞連覇となった。
昨年のステレンボッシュに続く勝利だが、同馬はその後勝ち星に恵まれていない。それに対し、エンブロイダリーは将来性を十分に秘めた存在であり、モレイラにとっても昨年6月の新馬戦で敗れた悔しさを晴らす形となった。
もっとも、今回の勝利は「運が味方した」とも言い切れないかもしれない。というのも、エンブロイダリーは昨年の新潟以降、クリストフ・ルメール騎手が騎乗して3連勝していたからだ。ルメールは今回、シドニーでG1・クイーンエリザベスステークス(芝2000m)に出走したローシャムパークに騎乗するため、桜花賞には参戦できなかった。
なお、モレイラの短期免許は4月28日までとなっており、エンブロイダリーが次走に予定している5月25日のG1・優駿牝馬(オークス、東京芝2400m)では、ルメールが再び手綱を取る可能性が考えられる。

調教師・森一誠
森一誠は、自身の管理馬初出走からわずか13か月でG1初勝利を飾ったことになる。驚くべきことに、今回のエンブロイダリーの桜花賞制覇は、森調教師にとって通算20勝目でもある。
長らく堀宣行調教師のもとで調教助手を務め、モーリスやドゥラメンテといった名馬たちの管理にも関わってきた。将来的には海外遠征も積極的に行いたいという意向を表明している。
難関として知られる調教師免許試験には7度目の挑戦でようやく合格し、2022年末に免許を取得。その後1年を経て美浦で厩舎を開業した。
初の海外遠征は、今年2月にサウジアラビアで行われたG2・リヤドダートスプリント(ダート1200m)にガビーズシスターを出走させたもので、結果は3着。この先も国際舞台での活躍が期待される気鋭のトレーナーだ。

種牡馬・アドマイヤマーズ
アドマイヤマーズにとっては、日本での初年度産駒から早くもG1ウィナーが誕生した形となった。
同馬は2019年の香港マイルを制した実績を持つ。桜花賞には産駒2頭が出走し、エンブロイダリーが優勝、ナムラクララも出走していた。これにより、アドマイヤマーズ産駒として初のG1勝利を記録した。
ノーザンファームからの手厚い支援も受けており、社台スタリオンステーションでの種付け頭数は初年度の115頭から、2024年には125頭へと増加している。
なお、アドマイヤマーズは近年オーストラリアにもシャトル供用されているが、同地での初年度産駒はまだ勝ち星を挙げていない。ただし、日本での成功が評価されれば、今後は南半球でも注目が集まる可能性がある。
上位入着馬たち
アルマヴェローチェの馬体重が496kgと発表され、日本国内では一部で驚きの声も上がった。これは、阪神ジュベナイルフィリーズで優勝した際の馬体重より12kgも増えていたためで、その一因は自然な成長によるものだと見られている。
ただ、今回はやや余裕残しの仕上がりだったようにも映った。それでも悲観する内容ではなく、次走の優駿牝馬に向けては、調整が進めばより良い状態で臨めるだろう。2400mはこの馬に合っているはずだ。
リンクスティップも、2400mへの距離延長と良馬場でのレースが向いているタイプと見られており、優駿牝馬を視野に順調な仕上がりを見せている。

レース後コメント
ジョアン・モレイラ騎手(エンブロイダリー・1着):
「再び桜花賞を勝てて本当に嬉しいです。今日もその実力をしっかり示してくれました。直線で外から馬が迫ってきたときも、彼女は最後までしっかり反応してくれました。どんな騎手でも乗りたいと思うような馬です」
「馬場状態については少し不安もありましたが、実際に走ってみないと分からない部分が多いですし、結果として上手くこなしてくれました。不確定な要素が多い中でもしっかり対応できる馬ですし、間違いなく日本の将来を担う牝馬の一頭だと思います」
今後は?
今回の出走馬の多くは、5月25日に東京競馬場で行われるG1・優駿牝馬で再び顔を合わせることになりそうだ。