香港ダービー勝利が大きな節目になりそうな人馬は?
マイケル・コックス:
デヴィッド・ヘイズ調教師の復調は、ほぼ完了したと言っていいでしょう。もし、ルビーロットが香港ダービーを制すれば、2003年にエレガントファッションで初制覇して以来、22年ぶりとなります。以前は、ヘイズは香港では神のように崇められた存在でしたが、今回の勝利で地元馬主やメディアから再びその地位を取り戻すことになるでしょう。
ルビーロットは、ヘイズ自身が選定し、彼の一家が経営するオーストラリアのリンジーパークステーブルで調教された馬です。これは、スーパースプリンターのカーインライジングと同様で、この勝利によってヘイズは血統管理の面でもさらに影響力を持つことになるでしょう。
アンドリュー・ホーキンス:
オーストラリアの種牡馬、ルービックは一時期、3頭の有力候補を抱えていました。ルビーロット、パッキングハーモッド、ライトイヤーズチャームの3頭です。しかし最終的にルビーロットだけが残りました。この馬がダービーを制すれば、ルービックは香港ダービー馬の父として名を残すことになります。
ルービックは種牡馬生活を続けるために中国へ渡ることになっていますが、ルビーロットの活躍次第では、その名が今後も輝き続けるかもしれません。
ジャック・ダウリング:
ベン・トンプソン騎手にとって、今シーズンは好不調の波が激しい年でした。しかし、香港ではたった一度のチャンスが騎手人生を大きく変えることがあります。彼がバンドルアワードで手にするかもしれないダービーの騎乗機会は、まさにそのような転機となる可能性があります。
ザック・パートン騎手の復帰が近づき、ジェームズ・オーマン騎手のライセンスがシーズン終了まで延長されたなかで、ジョン・サイズ厩舎のダービー勝利が実現すれば、トンプソンはシャティン競馬場の大舞台にふさわしい騎手であることを証明することになるでしょう。
デイヴィッド・モーガン:
ルーク・フェラリス騎手は、マイウィッシュとクラシックマイルを制したことで注目を浴びました。しかし、もし、彼が23歳の若さでダービーまで制覇すれば、将来のチャンピオンジョッキーとしての地位を確固たるものにすることができるでしょう。
1年後に最も出世していそうな期待馬は?
ジャック・ダウリング:
ルビーロットはクラシックカップ(3月2日・芝1800m)で完勝しましたが、その鋭いギアチェンジを考えると、今後はマイル戦でその能力を発揮する可能性が高いです。
また、特筆すべき馬としてミッドウィンターウィンドの名も挙げておきたいですね。この馬はダービー路線には進みませんでしたが、マーク・ニューナム厩舎で将来有望なスプリンターとして成長しそうです。
デイヴィッド・モーガン:
マイウィッシュは、1400mから1600mでトップクラスの競走馬になれる素質を持っています。この馬は未出走輸入馬(PPG)で、デビュー戦で5着に入って以来、8戦連続で3着以内を確保し、そのうち4勝を挙げています。特に4歳シリーズの第一戦・クラシックマイルでの勝利は非常に完成度の高いものでした。
この馬はまだデビューから10カ月しか経っておらず、さらなるレーティングの上昇が期待できます。クラシックCでは残り150mで脚が止まったように見えましたが、ダービー後に距離を短縮すれば、年内にG1級の競走馬へと成長する可能性は高いです。
アンドリュー・ホーキンス:
パッキングエンジェルはまだ成長の余地が大きいですよね。ただ、どの距離が最適なのかは現時点では分からないです。将来的にはトップクラスのマイラーとして成長する可能性がありますが、まずはクラス2を突破することが課題です。
マイケル・コックス:
ピエール・ン調教師はヨハネスブラームスがマイラー、あるいはスプリントマイラーであると確信しています。クラシックシリーズではあえて控える競馬を続け、ダービーに向けて折り合いをつけることに注力してきました。しかし、ダービー後は結果にかかわらず1400mや1600mのレースへ戻り、より柔軟な戦術を取ることができるようになるでしょう。

香港ジョッキークラブの出走馬選定には文句なし?
デイヴィッド・モーガン:
HKJCの選考は概ね妥当だったと思います。クラシックCで最下位に敗れたミックリーを除外すべきだったという意見もあるかもしれない。彼はこれが8戦目で、かつての勝利もすでに忘れられかけているほどですから。それに加え、クラス2で10着に終わったばかりでしたし。
一方で、クラシックマイルでは5着に入っており、それを考慮すれば出走資格はあったとも言えます。特に、大金を投じている馬主のシウ家にとっては、念願の香港ダービー制覇へのチャンスでした。
また、ビューティーアライアンスはレーティングこそ低かったものの、近走の内容が充実していたので、選出されたのは妥当でした。モンディアルはクラシックCで何も見せ場がなかったため、除外されても仕方がないと言えるでしょう。補欠馬4頭についても、適切な扱いだったと思います。
マイケル・コックス:
最も議論を呼んだのは、ジョン・サイズ厩舎のビューティーアライアンス(レーティング77)が選ばれた一方で、デイヴィッド・ヘイズ厩舎の南アフリカ産馬モンディアル(レーティング80)が除外されたことです。
しかし、ハンデキャッパーのグレッグ・カーペンター氏とHKJCの選考委員は正しい判断をしたと思います。馬券売上を見れば明らかですが、ビューティーアライアンスには支持が集まるでしょう。一方で、モンディアルは大穴扱いとなる可能性が高かったですから。
アンドリュー・ホーキンス:
モンディアルの除外について異論を唱える人はほとんどいないでしょう。南アフリカの輸入プロセスがシャティンへの到着を遅らせたのは事実ですが、ミッドウィンターウィンドの新馬戦勝利を見れば、早い段階で競走能力を発揮することは可能だったことが分かります。今後、南アフリカ産馬の移動期間が短縮され、香港ダービーに出走できるようになれば理想的ですね。
個人的には、ローライダーの代わりにプレイフォーミアが出走してもよかったとは思いますが、全体的に見れば、高レーティング馬と近走好調馬のバランスが取れた妥当な組み合わせになったと思います。
ジャック・ダウリング:
端的に言えば、今回は適切な選考でした。南アフリカ産馬のモンディアルはレーティングこそ高かったですが、ジョン・サイズ厩舎のビューティーアライアンスが選ばれたのは妥当でした。4歳馬として急成長しており、今後の伸びしろを考慮すれば、より適切な選択だったと思います。

枠順の影響が大きそうな馬は?
マイケル・コックス:
マイウィッシュはどのような展開にも対応できるタフさと戦術的な柔軟性を持っていますが、上位人気馬の中では、内枠を生かして好位を取る能力が最も高い馬でもあります。
クラシックCではノイジーボーイに騎乗したアンドレア・アッゼニ騎手が前半でペースを上げすぎたため、前にいた馬たちが不利を受けましたが、ダービーも同じような流れになるとは限りません。
もし、ルーク・フェラリス騎手がマイウィッシュを内枠から好位につけ、レースがスローペースからの瞬発力勝負になれば、最も有利な立場にいるのはこの馬でしょう。
ジャック・ダウリング:
私もマイケルの意見に同意します。マイウィッシュは今シーズン、好位から粘る競馬を得意としているので、内枠を引ければ大きなアドバンテージになります。
デイヴィッド・モーガン:
逆にパッキングエンジェルは、前走のクラシックCで最内枠(1番)を引いたものの、それが裏目に出た例です。フランシス・ルイ厩舎のこの馬は、先行争いに加わるほどのスピードがなく、内ラチ沿いで包まれてしまいました。
その結果、直線で外へ進路を取る必要があり、7頭分も外へ出す羽目になったのです。その時点で理想的なスピードに乗るべきでしたが、横移動の影響で加速に時間がかかり、最後の直線では他の馬のキレ味に屈してしまいました。
この馬にとっては、むしろ少し外目の枠の方が競馬がしやすいかもしれないですね。
アンドリュー・ホーキンス:
カリフォルニアトータリティは、今シーズンの7戦全てで二桁馬番を引いており、一度も内枠には入っていません。
多くのレースはシャティン競馬場の1600mや1800mで行われ、外枠がそこまで致命的ではなかっが、特にハッピーバレー1800mとシャティン2000mでは外枠が不利になりやすいです。
この馬は前目につける競馬をするタイプであり、タフな粘り強さを持っています。もし、今回のダービーで内枠を引き、道中で楽に位置を取れれば、穴馬として馬券圏内に飛び込む可能性もあります。
今年のダービー、間に合わなかった4歳馬は?
デイヴィッド・モーガン:
ゴーガン(スタディオブマン産駒)は、ヨーロッパのG3やG2のレースで一定の実績を残しており、ダービー候補としての素質はあったでしょう。しかし、結局この馬はエントリーしなかったため、その実力がどこまで通用したかは分からないままです。
ドイツ産馬のゴーガンは昨年10月5日に香港入りし、最初の4回のバリアトライアルでは全く見せ場がありませんでした。しかし、直近の3回は明らかに内容が良化しており、最後の1走では1着でゴールしています。それを受けて3月9日に香港でデビューしたものの、14頭立ての最下位に敗れました。明らかにまだダービーを戦える状態ではなかったのです。
ジャック・ダウリング:
エンスロールドは、昨年のダービー馬マッシヴソヴリンがデビュー戦を勝ったのと同じレースで勝利しており、ダービー出走を期待されていました。しかし、ジョン・サイズ厩舎のこの馬は、結局レーティングが足りず、ダービー出走馬には選ばれませんでした。
この馬はアメリカ産馬で輸入前にはイギリスで2021mのレースを勝っており、今月に入ってから香港で2000mのレースに初挑戦しました。その際、前半は後方に控えていましたが、最後の400mを22.12秒という驚異的なラップで駆け上がり、一気に存在感を示しました。
ダービーには間に合いませんでしたが、今後注目すべき馬の一頭でしょう。
アンドリュー・ホーキンス:
アナザーワールドがダービーに出走するには、あと6カ月の時間が必要だったかもしれないですね。この馬は明らかに2000m向きの馬ですが、まだレース慣れしていない部分があります。
今年の秋にはクラス3の軽ハンデ戦で面白い存在になりそうなので、今後の成長を楽しみにしたいです。

今年のクラシックシリーズで最も期待外れだった馬は?
アンドリュー・ホーキンス:
カーインライジングについては言及する価値があるでしょう。この馬は本来であればクラシックシリーズの3戦すべてに出走し、実力だけを見れば圧勝していたはずの馬でした。
実際、香港ダービーへの出走はほぼ不可能でしたが、少なくとも香港クラシックマイルに出走していれば、今年の4歳世代のレベルを測る指標になったはずです。その代わりとなる『試金石』のレースは、4月のチャンピオンズデーで行われることになりますが、もし、カーインライジングがクラシックシリーズに顔を出していたら、シリーズ全体の興味がさらに高まっていたでしょう。
ジャック・ダウリング:
ミックリーの香港移籍が決まったとき、私を含め多くの競馬ファンが興奮しました。なぜなら、この馬はロイヤルアスコットのブリタニアハンデ(昨年6月24日・芝1600m)を勝ち、英国で大きな評価を得ていたからです。
しかし、香港移籍後は2戦目のマイル戦で勝利したものの、その後の6戦では期待外れの走りが続いていました。結局、クラシックCでは最下位に沈み、ダービーの有力馬としての期待には全く応えられませんでした。
デイヴィッド・モーガン:
ミックリーが大きな失望であることは間違いないですが、それ以上にロマンチックソーが期待外れでした。この馬は、香港のトップホース、ロマンチックウォリアーの馬主であるピーター・ラウ氏が、イギリスでカプレットという名で走っていた馬を高額で購入し、香港での活躍を期待されていました。
イギリスではエプソムダービーの前哨戦であるリステッド・ディーステークスを勝利し、素質の高さを示していました。しかし、香港での成績は11着、3着、13着、11着と低迷。さらに、後肢の靭帯を痛め、クラシックカップ当日に予定されていた2000mのクラス3戦を回避する事態となり、現在は休養中となっています。
マイケル・コックス:
私が最も失望したのはスタニングピーチです。この馬はシーズン当初、2025年香港ダービーの最有力候補とされていました。しかし、今シーズンはすでに5戦して未勝利で、全く期待に応えられていません。
ダービーでは、多くの有力馬が2000mの距離に適応できるかどうかがカギとなります。スタニングピーチはその点で他馬より優位に立つ可能性がありますが、現状の成績では勝負になるかどうかは疑わしいですね。

ダービーの選考プロセスが注目された今年、レース条件やプログラムには改善が必要なのか?
デイヴィッド・モーガン:
香港国際競走(HKIR・12月)の日に、翌年の香港ダービーを目指す馬たちのみを対象としたレースを設けるのはどうでしょうか?
現在、4歳のダービー候補馬たちはHKIR当日にクラス2やクラス3の1400m戦(今シーズンはマークウィンとパッキングハーモッドが勝利)、クラス3の1800m戦(カリフォルニアトータリティが勝利)に出走しています。
もし、1400mまたは1600mの『ダービー候補限定戦』を新設すれば、国際的な注目度も上がり、ダービーに向けた盛り上がりが一層高まるのではないでしょうか。
ジャック・ダウリング:
ハッピーバレー競馬場で1800mの『1着馬に優先出走権』レースを設けるのも面白い案ではないでしょうか。これにより、各厩舎が香港ダービーへの確実な出走権を狙って使い分けをすることができます。
また、このレースを3月上旬に行えば、2月末のマニュライフチャレンジ(ハッピーバレーのパッとしないレース)をすぐに忘れさせる効果もあるでしょうし(笑)。
マイケル・コックス:
4歳馬限定戦や、4歳馬に優先出走権を与えるレースの追加は素晴らしい動きです。ジャックの提案した『ハッピーバレークラシック』は興味深いですが、さらに発展させて『ハッピーバレー・セントレジャー』のようなレースを加えてはどうでしょう?
現在の香港ダービーは、欧州からの高額馬にとって時期尚早な一戦となることが多いです。G3のクイーンマザーメモリアルカップ(芝2400m)がある程度その役割を果たしていますが、1800m〜2200mの「4歳馬限定戦」があれば、高額馬の馬主にとっても救済策となるはずです。
アンドリュー・ホーキンス:
今年のダービーには同条件勝ち馬がわずか1頭しかいません。多くの馬が短距離戦で実績を積んでダービーに臨んでいます。
例えば、今年のダービーにはルービック、フライングアーティー、リトゥンバイ、アイアムインヴィンシブルといった短距離種牡馬の産駒が出走していますが、よりスタミナ豊富な血統の馬は除外されました。
これを改善するためには、前年度のシーズン終盤(6月頃)に3歳馬限定の2000m戦をシャティン競馬場で設けるべきでしょう。
もちろん、その時点で香港に移籍していないダービー候補も多いでしょうが、このレースに勝つことで翌年のダービー候補としての存在感を示せるような舞台が必要です。

最後に…ダービーの勝ち馬は?
ジャック・ダウリング:
まさかG2・ジムクラックステークス(芝1200m)で2着だった馬を香港ダービーの本命にするとは思いませんでした。しかし、それでもヨハネスブラームスは毎回成長し続けており、2000mでもルビーロットやマイウィッシュを下す可能性があります。
アンドリュー・ホーキンス:
ジャックに同意します。さらに言えば、ヨハネスブラームスはロイヤルアスコットのウィンザーキャッスルステークス(芝1000m)で2着でした。このレースは香港向けの短距離馬、フレデリックエンゲルスやシャトーキングプローンなどを輩出していて、通常は皆スプリンターになりますが、ダービー候補はあまり出てきませんでした。
しかし、ヨハネスブラームスは順応性の高いタイプに見えます。レース中の立ち回りに問題がなければ、今回のダービーこそが彼のレースになるかもしれないですよ。とはいえ、将来的に2000mを主戦場とする馬にはならず、いずれ1600mに戻ることになるでしょう。ただ、今回は例外的にこなせる可能性があります。
デイヴィッド・モーガン:
ヨハネスブラームスの若駒時代の実績を見ても、驚きはないですね。少し前までは、コヴェントリーSやジムクラックSといった短距離戦を勝った馬が、その後2000ギニーやダービーを制することも珍しくありませんでした。
彼もまた有力な一頭でしょうが、私の本命はパッキングエンジェルです。この馬はこれまでほぼ完璧なシーズンを送っていて、常に着実に成長を続けています。
前走のクラシックCでは4着でしたが、今回の2000mへの距離延長は確実にプラスに働くはずです。さらに一段上のパフォーマンスを見せることができるでしょう。
マイケル・コックス:
マイウィッシュは一貫して過小評価されていると感じます。クラシックマイルでは圧倒的な勝利を収め、クラシックCでも残り100mの時点では勝ったかに見えました。しかし、ペースが異常に速くなったことで最後に脚が上がってしまいました。
今回のダービーでは、多くの有力馬が距離をこなすために慎重な騎乗を求められるでしょう。したがって、最終的な結果はレース中の位置取りに大きく左右されるはずです。もし、マイウィッシュが内枠を引けば、ライバルたちはこの馬を捕まえにいかなければならなくなるでしょう。