Aa Aa Aa

秘められた無限の可能性、調教師も驚くカーインライジング「強さの理由」とは

一見すると、カーインライジングは香港の短距離王者にふさわしい馬には見えないかもしれない。しかし現実は違う。この快速馬は、香港の層の厚いスプリント戦線を圧倒しており、デヴィッド・ヘイズ調教師は歴代屈指の名スプリンターへと成長しつつあると確信している。

秘められた無限の可能性、調教師も驚くカーインライジング「強さの理由」とは

一見すると、カーインライジングは香港の短距離王者にふさわしい馬には見えないかもしれない。しかし現実は違う。この快速馬は、香港の層の厚いスプリント戦線を圧倒しており、デヴィッド・ヘイズ調教師は歴代屈指の名スプリンターへと成長しつつあると確信している。

カーインライジングの強さは、見た目では分からない。

デヴィッド・ヘイズ調教師に「カーインライジングの馬体について、特筆すべき点は?」と問うと、少しの沈黙があった。おそらく、その理由は単純だ。このスプリンターは、見た目だけではさほど際立っていないのだ。

「彼を他の馬と区別するのは難しいかもしれない」とヘイズ調教師。「目の前に立っていても、目を引くタイプではないんです」

これまで数々の名馬を見てきたベテラン調教師は、カーインライジングが9連勝を飾る間その拠点としてきた香港ジョッキークラブの最新鋭施設・従化トレーニングセンターへ向かう車中でIdol Horseとの電話取材に応じた。

香港の短距離界を席巻し、ライバルたちを寄せ付けないその圧倒的なパフォーマンスとは裏腹に、カーインライジングの馬体はスプリンター然とした、巨体で筋肉質のような“圧倒的な迫力”とは無縁のものだ。

「胴長で、あまり余分な肉がつかないタイプ。でも、極端にがっしりしたわけでもなく、パドックで見ても特に目立つ存在ではない」とヘイズ調教師。

「もちろん場違いには見えないが『これが世界最強のスプリンターだ』と一目で分かるような馬でもないんです」

しかし、レースにおける彼の走りは「異次元」そのもの。1200m戦で驚異的なスピードを持続し、直近3戦のうち2戦でシャティンのコースレコードを更新。その走りを評する際、「異次元」という言葉が何度も出てくるのも納得だ。

昨年11月、カーインライジングはG2・ジョッキークラブスプリントで1分7秒43の驚異的なタイムを記録し、セイクリッドキングダムが17年間保持していた1分8秒00のシャティン1200mコースレコードを更新した。そしてわずか2ヶ月後、G1・センテナリースプリントカップで3馬身以上の差をつけて圧勝し、さらにその記録を短縮。1分7秒20という驚異的なタイムを叩き出した。

Ka Ying Rising wins the G1 Centenary Sprint Cup
KA YING RISING, ZAC PURTON / G1 Centenary Sprint Cup // Sha Tin /// 2025 //// Photo by Alex Evers

シャティンでのデビューから14ヶ月で、カーインライジングはレーティング52のクラス4の馬から、世界最高峰のスプリント戦を視野に入れるG1・2勝馬へと一気に駆け上がった。

「この急成長は“異次元”という言葉以外にない」とヘイズ調教師。「確かに素質は感じていたが、ここまでのレベルに、しかもこれほどの短期間で到達するとは思っていなかった」

「14ヶ月で成し遂げたことを考えると、今後もこの勢いが続けば、歴史に名を刻むスプリンターの一頭になるでしょう」

馬体の迫力こそ目立たないカーインライジングだが、一度ゲートが開けばその走りはまるで別の生き物のように変貌する。

香港の馬たちの序盤のスピードは世界屈指だが、その中でもカーインライジングはゲートが開いた瞬間に流れるように先行したり無理なくレースを運ぶことができ、レース中盤までそれを維持できる。

前走センテナリースプリントCでは、800mから200mまで3連続で11秒を切る200mラップを刻み、その600mをわずか32秒13で駆け抜けた。

この圧倒的なスピードと持続力は、香港のトップスプリンターたちをも翻弄。レース終盤で「スパート」をかけようとする頃には、すでにカーインライジングを追走することすら厳しくなっているのが現実だ。

「彼が他の馬と決定的に違うのは、80%の力を超えた時の走りだ。その瞬間、まるで別の次元の馬に変わる」とヘイズ調教師は語る。

「とても軽やかに走る馬で、ハイペースの中でもしっかりと加速できる。好タイムをたまに出す馬もいるが、彼は毎回それをやってのける」

「彼には“特別な動き”がある。それが、ほとんどの馬には備わっていない“もうひと押し”を可能にしているんだ」

その“特別な動き”こそが、カーインライジングを他のスプリンターと一線を画す存在にしている。特に、昨年11月のG2・ジョッキークラブスプリントでザック・パートン騎手を背にシャティン1200mのコースレコードを更新した一戦では、それが如実に表れた。

その日、パートン騎手はビクターザウィナーが刻んだ速い流れを楽に追走。前半400mを23秒12で駆けた先行馬がそのままペースを上げ、800mから400mの区間では21秒97の高速ラップが記録された。ビクターザウィナー騎乗のデレク・リョン騎手はカーインライジングをこのレースの流れに引きずり込もうと、さらにペースを引き上げる積極策をとった。

しかし、直線に向いた時点で、ライバルたちは次々と追い出しにかかる中、パートン騎手だけはまったく動かない。トップスピードで進みながら、さらにもう一段階ギアを上げる能力がここで際立つことになる。

軽く手綱を動かすだけで、カーインライジングは他馬を一瞬で突き放した。400mから200mの区間で10秒90を記録し、ライバルたちは完全に置き去りとなった。まるで別次元の加速だった。この瞬間を、香港ジョッキークラブが新たに導入したカメラが鮮明に捉えた。四輪駆動車に搭載されたカメラが、内ラチ沿いを並走しながらその圧巻のパフォーマンスを映し出したのだ。

あまりの衝撃的な走りで、香港のリーディングジョッキーを7度獲得したザック・パートン騎手には余裕すらあった。カメラに向かって投げキスをしながら、カーインライジングを流し気味にゴールへと導く。ラスト200mも11秒24という圧巻のフィニッシュだった。

KA YING RISING, ZAC PURTON / G2 Jockey Club Sprint // Sha Tin /// 2024 //// Vision by the HKJC

この圧倒的なパフォーマンスは、レース中盤でライバルを極限まで消耗させ、最後の直線で決定的な差をつけるカーインライジングの『特別な動き』を完璧に証明するものだった。そして、この能力こそが、ヘイズ調教師が“伝説的スプリンター”であるブラックキャビアと比較する最大の理由である。

「ブラックキャビアはパドックで見た方が圧倒的な存在感があったし、競走馬としても素晴らしかった。ただ、レースでの走りを見ると、カーインライジングの動きは彼女と非常に似ている」とヘイズ調教師は語る。

「ブラックキャビアは他の99%の馬よりも、大きくなめらかに動ける特別な馬だった。カーインライジングもまさにそれと同じだ」

ジャパンC(1990年)、コックスプレート(1990年、2006年)、メルボルンC(1994年)など数々の大レースを制してきたヘイズ調教師にとって、偉大な馬を見極める目は確かだ。ブラックキャビアの無敗のキャリアと比べれば、カーインライジングの実績はまだ始まったばかり。それでも、伝説級のスプリンターと同列に語ることができるという事実は、この馬がどこまで到達できるかを示唆している。

「ブラックキャビアがデビュー12ヶ月で成し遂げたことと、カーインライジングがやったことはほぼ同等か、それ以上だ。ただ、彼女はそれを4年間続けた」

「カーインライジングも無事にこのまま走り続けることができれば、歴史に名を刻む馬になるだろう。その道は、もう目の前に開かれている」

Nicole Purton taking a selfie of Team Ka Ying Rising
DAVID & PRUE HAYES (L), ZAC & NICOLE PURTON (R) / HKIR // Sha Tin /// 2024 //// Photo by Alex Evers

カーインライジングは、日曜日のG1・クイーンズシルバージュビリーカップで初めて1400mに挑戦する。主戦のザック・パートン騎手が足の指の骨折で騎乗できないものの、ヘイズ調教師はモーリシャス出身のカリス・ティータン騎手の手綱に自信を持っている。

「カリスはこの馬をよく知っているし、昨年6月に騎乗して勝利しているので、彼にとっても素晴らしい機会だ」とヘイズ調教師。

「香港に来た当初、カーインライジングはマイラーだと思っていた。1400mはかなりの爆発力を発揮できる距離じゃないかと考えているよ」

さらに先を見据えると、ヘイズ調教師は、カーインライジングの初の海外遠征先として、オーストラリアの賞金総額2,000万豪ドル(約19億円)のG1・ジ・エベレストを明言。今季の香港スプリントシリーズ制覇を狙った後、シドニーへの遠征を計画している。また、帰路でオーストラリアのG1レースに出走する可能性にも言及した。

「まずはスプリントシリーズの全3戦を勝つことが目標だ。それが終わったらジ・エベレストへ向かう」とヘイズ調教師。「香港のスプリント路線は非常に充実しているので、海外遠征は年間1回に絞りたい。行くならオーストラリアがベストな選択肢だろう」

「ジ・エベレスト後の状態次第では、フレミントンのチャンピオンズスプリントに出走し、そのまま12月の香港国際競走へ戻るのも選択肢のひとつ。もしこのプランが上手くいけばまた同じスケジュールで挑戦するし、そうでなければ別のプランを考えるよ」

ジャック・ダウリング、Idol Horseのレーシングジャーナリスト。2012年、グッドウッド競馬場で行われたサセックスステークスでフランケルが圧勝する姿を見て以来、競馬に情熱を注いできた。イギリス、アメリカ、フランスの競馬を取材した後、2023年に香港へ移る。サウス・チャイナ・モーニング・ポスト、レーシング・ポスト、PA Mediaなどでの執筆経験がある

ジャック・ダウリングの記事をすべて見る

すべてのニュースをお手元に。

Idol Horseのニュースレターに登録