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今年、自身7度目となるJRA年間リーディングジョッキーが確実視されるクリストフ・ルメール騎手は年末に向けて、騎手としての栄光と苦難、そして困難な時期における検量室のライバルたちとの絆の重要性を深く実感している。

「今年は山あり谷ありの一年でした」とルメール騎手はIdol Horseに語る。

「日本での10シーズン目で7度目のリーディングジョッキーになれたことは、とても嬉しく思います。そういう意味では、本当に満足しています」

統計を見ると、日曜日のG1・有馬記念でアーバンシックに騎乗するなど、まだ数週間を残している中で、ルメール騎手はJRAで172勝を挙げており、これは2位の川田将雅騎手より33勝多く、2021年以来の最多勝利数となっている。また、重賞レースでは11勝を挙げ、そのうち3勝がG1レースだった。

そして、まだ終わっていない。今年のG1・菊花賞馬のアーバンシックは、年末の大レース、有馬記念で、古馬の王者ドウデュースに対する最大の脅威とみなされている。

しかし、記録の数字や名前では語られないことがある。ルメール騎手の一年は開始からわずか3ヶ月で、G1・ドバイターフでの大落馬により肺に穴が開き、鎖骨を骨折するなどの怪我を負い、1ヶ月以上の休養を余儀なくされた。

そして4月の藤岡康太騎手と8月の角田大河騎手の悲劇的な死は、今年の日本の騎手界に特に大きな衝撃を与えた。さらに、競馬場への移動中や週末の『隔離(ロックダウン)』期間中における通信機器の不適切な使用により、複数の騎手に課された一連の騎乗停止処分もあった。

Yasunari Iwata celebrating aboard Lord Kanaloa at Sha Tin
YASUNARI IWATA, LORD KANALOA / G1 Hong Kong Sprint // Sha Tin /// 2012 //// Photo by Lo Chun Kit (Getty)

あくまで自身は公式なスポークスパーソンではないため、スマートフォンの使用に関する広範な問題やJRAの規則違反に対して騎手に課された処分について言及することは適切ではないと、ルメール自身は考えている。それはJRAと騎手会に解決が委ねられる問題だと考えているのだ。

しかし、世界的には名馬ロードカナロアの主戦として知られるベテラン、岩田康誠騎手の具体的なケースについては、意見を表明することが適切だとルメールは考えている。

岩田は競馬場を跨いでの移動中に、YouTubeで音楽を聴いていたことで1ヶ月の騎乗停止処分を受けた。JRAはYouTubeのコメント欄がコミュニケーションに使用できることから、規則違反と見做されたのだ。

先週の京都競馬では、ルメール、坂井瑠星、そして息子である岩田望来の3騎手が岩田騎手のジョッキーパンツを着用、そしてルメール騎手が池江泰寿厩舎のクルミナーレで8レースを制した際には、岩田騎手の代名詞であるガッツポーズを特別に披露した。

「先週末は、1ヶ月の騎乗停止処分を受けた岩田康誠騎手へのサポートを示したかったのです」とルメールは語る。

「私の意見では、彼がしたことに対してこの処分は少し厳しすぎます。だから彼のジョッキーパンツを着用し、彼がいつもするようなガッツポーズで勝利を祝ったのです。音楽を聴いただけで、1ヶ月も騎乗できなくなった同僚へのサポートでした」

「私がこのジョッキー(岩田)を支持するのは、彼がしたことに対して処分が少し厳しすぎると考えているからです。彼は競馬の公正性を損なうようなことはしていませんでした」

レース本番では激しい競争相手となるジョッキー同士の絆に対するルメールの理解は、馬に乗ることは常に命の危険と隣り合わせであり、身体的にも精神的にも挑戦を強いられるという共通認識に根ざしている。 

Kota Fujioka in the post-race ceremony after winning the Mile Championship
KOTA FUJIOKA / G1 Mile Championship // Kyoto /// 2023 //// Photo by Shuhei Okada

そのことは角田騎手と藤岡騎手の死によって痛感させられた。藤岡騎手はJRAのレースでの落馬による死亡事故としては20年ぶりの犠牲者となった。

「誰か仲間の騎手と親しい関係にある時、誰かを失うと数週間は本当に落ち込みますし、受け入れるのは難しいことです。でもこれはこのスポーツの一部であり、私たちはそのリスクを知っています。もちろん、誰もがそのリスクを減らそうとしていますが、同時にそれは共に生きていかなければならないものなのです」とルメール騎手は語る。

「リスクを認識しておく必要はありますが、それについて考えすぎてはいけないんです。リスクは覚悟していますが、そのリスクについて考えすぎるなら、もうやめて他のことをした方がいいでしょう。ただ乗ることを怖がり、事故を怖がって、いつもリスクのことを考えていては、良いパフォーマンスを発揮できません。2、3週間は辛いかもしれませんが、その後は一種の壁を作り、自分の馬とレース、そしてゴール板を最初に通過することだけに意識を集中します。できる限りそうやって続けていくのです」

「事故が起きた時にできることはあまりありませんが、何勝かできて週末を終え、元気で無事な状態で家に帰った時、いかに自分が恵まれているかを実感します。そういう時は、仕事の数多くのポジティブな側面をより一層楽しもうとしてるんです」

Christophe celebrating his Kikuka Sho win aboard Urban Chic
CHRISTOPHE LEMAIRE, URBAN CHIC / G1 Kikuka Sho // Kyoto /// 2024 //// Photo by Shuhei Okada

アーバンシックは今年、ルメールにとって間違いなく大きく、またポジティブな存在だった。シルクレーシング所有の本馬に秋の2戦で騎乗し、G2・セントライト記念、そして前走の3歳クラシック最終戦、G1・菊花賞で勝利を収めた。これらの勝利は、牡馬クラシック初戦、G1・皐月賞での4着、G1・東京優駿(日本ダービー)での予想外の11着の後、夏季休養を経てのものだった。

ルメール騎手は「おそらく春のシーズン初めは、アーバンシックはまだ成長の余地を残していたのかもしれません。秋を迎えてからは状態も本当に良くなって、一気に成長しました」と語る。

「私が騎乗した2戦の、彼の身のこなしとフットワーク、そしてレース前とレース中の立ち振る舞いにはとても満足しています。まだまだ伸びしろが残されている馬です」

5歳馬のドウデュースは有馬記念連覇を目指しており、G1・天皇賞(秋)での勝利と、スローペースから鮮やかな末脚を見せたG1・ジャパンカップでの勝利によりこの秋、日本のトップホースとして台頭した。しかしルメール騎手は、自身の3歳馬が3000mから2500mへの距離短縮で好走できると考えている。

「距離はアーバンシックにとってぴったりです」と彼は語る。「中山のコースは何度か走っているので、コース慣れも充分です。ドウデュースは天皇賞とジャパンカップで素晴らしい走りを見せたので、もちろんライバルはこの馬になってくると思いますが、それでも勝つ自信はとてもあります。もしハイペースの厳しいレース展開になれば、ドウデュースを破るチャンスになると思います」

ルメール騎手にとって4度目の有馬記念制覇は、波瀾万丈だった今年を締めくくる素晴らしいハイライトとなるだろう。

デイヴィッド・モーガン、Idol Horseのチーフジャーナリスト。イギリス・ダラム州に生まれ、幼少期からスポーツ好きだったが、10歳の時に競馬に出会い夢中になった。香港ジョッキークラブで上級競馬記者、そして競馬編集者として9年間勤務した経験があり、香港と日本の競馬に関する豊富な知識を持っている。ドバイで働いた経験もある他、ロンドンのレースニュース社にも数年間在籍していた。これまで寄稿したメディアには、レーシングポスト、ANZブラッドストックニュース、インターナショナルサラブレッド、TDN(サラブレッド・デイリー・ニュース)、アジアン・レーシング・レポートなどが含まれる。

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