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2024 ジャパンカップ: G1レースレビュー

競馬場: 東京競馬場
距離: 2400m 
総賞金: 10億8500万0000円 (701万0176米ドル)

19年ぶりとなる海外勢の王座奪還を目指し、世界の精鋭が集結した2024年のG1・ジャパンカップ(2400m)だったが、そこに立ちはだかったのは日本のレジェンドだった。2006年、強力な外国馬を退けて日本馬にタイトルをもたらした男が再び立ちはだかり、ドウデュースを予想通りであり、そして驚きでもある勝利に導いた。

この勝利の『予想通り』である点は、ドウデュースが先のG1・天皇賞秋(2000m)を制して、2.3倍の1番人気としてこのレースに挑んだという背景だ。時に安定感に欠ける馬であったとしても、彼は堂々たる日本総大将だった。

そして、『驚き』なのは道中の位置取りだ。ドウデュースに夢を託したファンはハラハラしたことだろう。これまで以上の末脚が求められる後方での位置取りだった。G1・日本ダービー(2400m)でイクイノックスを破った日、これを超える走りが求められるシチュエーションからの大逆転劇だった。

レース展開

スタートはやや混乱した展開で始まった。人気薄のシュトルーヴェが出遅れる中、先頭に立とうとする馬は現れず、譲り合いの様子を見せる。シンエンペラーの坂井瑠星騎手は積極果敢に位置取りを奪いに行ったが、それでも明確に逃げるというよりは押し出された形での逃げだった。

その結果、最初の1000mは62.2秒というスローペースで進行し、主導権争いはレース半ばまで継続。そこでドゥレッツァのウィリアム・ビュイック騎手は1400m経過した地点で、一気の捲りを見せる。計画された戦術というより、その場に応じた臨機応変な戦術だったのかもしれないが、これがレースの流れを変える決定打となった。

ペースは後半にかけて加速していく中、最後方の外側を走るドウデュースの武豊騎手は先頭を7馬身差で追いかける位置での追走。末脚自慢の馬なので位置取りは想定内だったが、この展開を差し切るには仕掛けに細心の注意を払う必要があった。

55歳の武豊は、ここぞのタイミングで40年以上の騎乗歴で培った知恵と技術を発揮する。絶妙なタイミングでスパートを開始したドウデュースはライバルを一気に差し切り、最後は迫るドゥレッツァとシンエンペラーの追撃を抑えきった。ラスト3ハロンは32.7秒、JRAの2400m以上のG1レースとしては史上最速のタイムだった。

Yutaka Take guiding Do Deuce to victory in the Japan Cup
DO DEUCE, YUTAKA TAKE / G1 Japan Cup // Tokyo /// 2024 //// Photo by Shuhei Okada

王者・ドウデュース

ドウデュースはその卓越した才能で世代を牽引するトップホースだったが、そのキャリアには切っても切り離せない一頭の天才がいた。

2021年シーズンは最優秀2歳馬を獲得したが、3歳に入ると世代2番手の評価に。日本ダービーではイクイノックスを破った2頭目の馬となったが、世間の注目は次第にイクイノックスへと移っていく。シーズン後半戦、G1・凱旋門賞(2400m)に挑戦するも、重馬場に苦しんで20頭立ての19着という結果に終わった。

4歳シーズンは完全にイクイノックスの影に隠れる形となり、昨年はG1・有馬記念(2500m)を制したが、真のチャンピオン決定戦というよりも『イクイノックス抜きでの』という印象が拭えないレースだった。

しかし、5歳に入ると本物の王者に返り咲く。日本ダービーでの勝利も含めた過去の遺産を超える、彼の新たな伝説が始まりつつある。これまで2歳、3歳、4歳でG1を制してスターホースの座を確固たるものにしたが、5歳時の快進撃はそれをスターから『レジェンド』に押し上げるものだ。

DO DEUCE / G1 Japan Cup // Tokyo /// 2024 //// Photo by Shuhei Okada

敗れた地元勢

ドゥレッツァとシンエンペラーはヨーロッパ遠征では不本意な結果に終わったが、適性があるレースではやはり上位の存在だと思わせる走りだった。展開を考慮するとその位置取りも味方し、最高のパフォーマンスを発揮することができた。2025年はぜひ注目に値する2頭だ。

古馬との初対戦となったチェルヴィニアだが、見事な走りを見せての4着だった。レース中盤で位置取りを下げたため、終盤の末脚勝負では不利な戦いを強いられたが、4歳シーズンでの成長を期待させる走りを見せた。同じサンデーレーシングのリバティアイランドは伸び悩んでいるが、さらなるステップアップが期待される。

ジャスティンパレスはこの馬らしい追い込みを見せるも、勝ち馬には届かず。ペースが向かなかったのかもしれないが、ここ最近は常にこのような走りが続いている。

他に特筆すべき存在で言うと、好位置からの急失速が目立ったソールオリエンスだ。序盤こそ好位置に付けるも、ペースが上がると流れに乗れず、ゴール前では完全に脚が残っていなかった。

外国馬たち

3頭の外国馬はおそらく、速い馬場と速いペースに期待して来日したことだろう。昨年、パンサラッサの大逃げは記憶に新しいが、これもジャパンカップの傾向である速いペースを象徴するような出来事だった。

しかし、1000m地点でのタイムは昨年より約5秒も遅く、外国馬たちの当初の予想は裏切られることになる。日本のレースはペースが速いという固定概念を覆すような展開だった。

ファンタスティックムーンは直線入り口の段階で万事休す。オーギュストロダンはレース前から発汗が目立っていたが、同じく後方からの勝負となったドウデュースの末脚には太刀打ちできず終わってしまった。

外国馬3頭のうち、ゴリアットは好位置をキープ。クリストフ・スミヨン騎手はラチ沿いを回って先行し、序盤は逃げるシンエンペラーに次ぐ位置を確保したが、ドゥレッツァの捲りには対応できず位置取りを下げ始めた。

ゴリアットの走りを考えると、外を回って脚を伸ばす競馬が理想だっただろう。しかし、遅いテンポがさらに緩んだとき、スミヨンはそれを活かす方向での競馬に舵を切った。

直線では前は空いていたが、馬群の間で挟まれる展開となり、窮屈な走りを強いられた。

勝利騎手コメント

武豊騎手(ドウデュース・1着): 「今日は良い走りができる自信がありました。思っていた以上にペースが遅くて、決して良い流れではなかったですが、馬は良い走りをしてくれました。走りたがっていたので早めに行かせたのですが、直線ではあっという間に先頭に立ってくれました。最後まで分からなかったですし、並みの馬では勝てない展開でしたが、それでも勝てるのは凄いなと思いました」

「馬が無事なら有馬記念が引退レースになると思うので、良い形で締め括りたいなと思います。海外からの凄い馬が来てくれて、勝ちたいという思いも強かったので、ドウデュースは本当に凄い馬だなと改めて思いました」

YUTAKA TAKE / G1 Japan Cup // Tokyo /// 2024 //// Photo by Shuhei Okada

この先は?

ドウデュースは中山の有馬記念が引退レースとなる。天皇賞秋、ジャパンカップ、有馬記念の秋古馬三冠を全て制した馬はテイエムオペラオー、ゼンノロブロイ、キタサンブラック、イクイノックス、そしてドウデュースがいる。しかし、1年のうちに秋古馬三冠を達成した馬となると、テイエムオペラオーとゼンノロブロイの2頭だけだ。

ドゥレッツァとシンエンペラーもファン投票で有馬記念に選出される可能性は高いが、実際に出走できるかは不透明となっている。

ゴリアットは2週間後に行われるG1・香港ヴァーズ(2400m)への登録を残している。11着に終わったファンタスティックムーンはこのレースを最後に引退し、ドイツのエベスロー牧場で種牡馬入りとなる。

レースリプレイ: 2024 ジャパンカップ


アンドリュー・ホーキンス、Idol Horseの国際担当。世界の競馬に対して深い情熱を持っており、5年間拠点としていた香港を含め、世界中各地で取材を行っている。これまで寄稿したメディアには、サウス・チャイナ・モーニング・ポスト、ANZブラッドストックニュース、スカイ・レーシング・オーストラリア、ワールド・ホース・レーシングが含まれ、香港ジョッキークラブやヴィクトリアレーシングクラブ(VRC)とも協力して仕事を行ってきた。

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