11月17日に京都競馬場で開催されるG1・マイルチャンピオンシップ、ロジャー・ヴェリアン調教師はこのレースにチャリンを遠征させる可能性を示唆しており、もし実現すれば海外からの遠征馬は13年ぶりの参戦ということになる。
アナウンサーのニック・ラック氏が司会を務める番組『Luck on Sunday』に出演したヴェリアンは、土曜日にアスコットで行われたG1・クイーンエリザベス2世ステークスを制した後の次走として、日本遠征の可能性に言及した。
「遠征は検討中の段階で、実現させる方向で動いていますが、最終的な判断は今後2週間のチャリンの状態を見てからですね」
ヴェリアンにとって、日本は縁が深い国だ。妻の花子さんは日本出身、JRAの関連団体であるJAIRSで勤務していた他、過去にはダーレー・ジャパンのレーシングディレクターも務めていた。また、義理の兄弟はJRAの中内田充正調教師だ。
マイルチャンピオンシップは6月の安田記念に続いて行われるJRA古馬マイルG1の2戦目だが、これまで海外からの遠征馬が勝利した実績はない。
初遠征はデュランダルが制した2003年。フランスのスペシャルカルドゥーンが9着、イギリスのトゥスールが16着に入った。この年から数えて、海外遠征馬はこれまで9頭が参戦している。
最後に来日した海外馬は、2011年に来日したロドルフ・コレ厩舎の2頭だ。この年はサプレザが3着、イモータルヴァースが7着に入った。サプレザは2010年に4着、2009年は3着と連続で来日している。2009年に来日したミック・シャノン厩舎のエヴァズリクエストがイギリス調教馬としては最後の参戦、レースでは10着に終わった。

現在、日本競馬のマイル路線は決して弱いわけではないが、絶対的な王者もいないという状況だ。今シーズン、チャリンの鞍上を務めるシルベストル・デソウサ騎手は、Idol Horseの取材に対して遠征への抱負を語ってくれた。
「状態はまだフレッシュですし、(調教師の)ロジャーと(馬主の)ヌーラン・ビザコフさんが遠征を決めたのなら、ぜひ出走してみるべきだと思います」
「これまで勝ってきたG1レースは、どれも2回とか1回しか鞭を入れていません。まだ底を見せていない馬だと思います。追っても、余力を残してゴールすることが多いので」
「日本での騎乗経験はないですが、速い馬場だとは聞いています。先日のチャリンはまたしても重馬場で勝ちましたが、ただ対応できるだけであってそういう馬場がベストな馬ではないんです。ジャックルマロワ賞を勝ったときは、良馬場で時計も早かった。日本でも良馬場で走ることになるはずです」
今年のチャリンはまさに快進撃だった。ダークエンジェル産駒のこの馬は、2歳でG2を制すと、3歳時は7レースに出走。G1で2度の2着はあったものの、勝利に手が届くことはなかった。
4歳で迎えた今シーズン、ドンカスターのリステッドで幸先の良いスタートを切ると、ここまで7レース走って5勝。クイーンアンステークス、ジャックルマロワ賞、そしてQE2といった3つのG1レースを勝利し、ロッキンジステークスとムーランドロンシャン賞という2つのG1レースでも惜しい2着に食い込んでいる。
予想外とも言える大ブレイクでヨーロッパ最強マイラーに上り詰めたチャリンだったが、相棒のデソウサにとっては再起を懸けた勝負の年でもあった。昨年5月、賭博に関する規定違反のため、香港ジョッキークラブから10ヶ月の騎乗停止処分を科されていたのだ。
イギリスでは3度のリーディングジョッキー(2015年、2017年、2018年)に輝いたデソウサだったが、復帰後はゼロからの出直し。ヴェリアン厩舎の主戦を務めるジェームズ・ドイル騎手が怪我で離脱しているタイミングで、代打として白羽の矢が立ったのがチャリンとの出会いだった。
それを機に馬主のビザコフからも気に入られ、以降は主戦騎手としてこの馬に騎乗し続けることになった。
「復帰当初、騎乗依頼を出してくれる厩舎を探していたのですが、ヴェリアン厩舎はすぐに迎え入れてくれました。調教師も歓迎してくれて、朝の調教を手伝わせていただきました」
「本当に感謝しかありません。感謝の言葉をいくら並べても足りません。温かく迎え入れてくれて、自分の腕を信じてくれました。それが嬉しかったんです。素晴らしい人たちに囲まれた環境にいると、過去を悔やむよりも前に進みたいという気持ちになれます」
「ロジャーとの契約はありませんでした。厩舎の主戦にはジェームズ・ドイル騎手がいましたし、ジャック・ミッチェル騎手、レイ・ドーソン騎手、ラウル・ダシルヴァ騎手も働いていました。まさに一兵卒としての出直しでした」
「ですが、ありがたいことに名前と実績を評価していただき、ロジャーから良い馬を回してもらいました。チャリンもその中の一頭でしたし、それがシーズン序盤の原動力となりました」
ヴェリアンがデソウサに託した馬の中には、単勝29倍からの番狂わせで今年のG1・英1000ギニーを制したエルマルカもいる。しかし、チャリンの存在は43歳のデソウサにとって大きな励みになっている。

ロッキンジSとムーランドロンシャン賞での2着については、デソウサも騎乗ミスを認めている。これらはいずれも、大逃げを決行した人気薄に逃げ切りを許したレースだ。
「あれは騎乗ミスでした。こういうミスは誰でもありますから」
しかし、先日のQE2世Sについての識者の意見には異議を唱える。障害競馬の元スタージョッキー、ルビー・ウォルシュ氏はITVの競馬番組の中で「終盤の追い比べでは鞭を左手に持ち替えるべきだった」と述べたが、デソウサはこれに反論する。
「QE2では2回ほど軽く鞭を入れました。馬がターフビジョンを見て外に逃げようとしたので、鞭を使うのを控えました。その後、進路を右に修正できたのですが、追い比べに持ち込みたいと思っていたんです」
「あまり見栄えはよくないかもしれませんが、睨み合う形で走らせて闘争心を燃え上がらせたかった。彼はファイターですからね。その時点で充分近づいていたので、わざわざ左鞭を使う必要はありませんでした」
「レース中にターフビジョンを利用することはあります。スクリーンを見て、後ろの馬や自分の位置を確認するんです。それを見て状況を確認していたからこそ、無理せず持ったままで上がってくることができました」
チャリンは来年から、ビザコフが所有するフランス・ノルマンディーのスンベ牧場で種牡馬入りする。マイルCSに出走する場合、11月7日までに日本に到着し、12日まで検疫、13日に京都競馬場に移動するというスケジュールになる。
マイルチャンピオンシップが外国馬にとって厳しいレースなのは間違いない。しかし、チャリンが今シーズン見せた素晴らしい走りを考えると、彼はこの挑戦に相応しい存在と言えるだろう。