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ブリーダーズカップは毎年、喧伝とともにやって来る。

だが、「この1年で、あるいはこの10年、もしかするとこの100年で最高のレースになる」と騒がれてきた今年のBCクラシックには、その謳い文句に相応しい期待で満ちあふれていた。水曜日の朝、大本命のソヴリンティが熱発のため回避になると判明するまでは。

もっとも、ソヴリンティが不在でも好メンバーは健在だ。依然として素晴らしい一戦なのは間違いない。

何しろ、このレースには昨年のブリーダーズカップクラシックの1〜3着馬、すなわちシエラレオーネ、フィアースネス、フォーエバーヤングが出揃う。さらに、米国の3歳路線の2番手と3番手にいる、ジャーナリズムとバエザも参戦する。

そして忘れてはならないのが、G1馬でフィアースネスの厩舎の僚馬、マインドフレームとアンティクエリアン。この2頭は今年、シエラレオーネを破っている。前走はG1初制覇、キャリアは浅いが成長著しい、ボブ・バファート厩舎のネバダビーチも出走を予定している。

これらの馬はいずれも強力な出走馬だが、前売りオッズは二桁台の評価だ。

競争の激しさと、用意された700万米ドルの賞金が、人々の情熱に火をつける。フィアースネスの馬主で、億万長者の実業家にしてスポーツ業界の大物であるマイク・リポール氏は、思ったことをはっきり口にする人物だ。

彼は1週間前、連覇を狙うシエラレオーネの陣営がペースメーカーを起用したことをやり玉に挙げ、ラビット役のコントラリーシンキングを、SNS上で『慰め役のラビット』と揶揄した。

シエラレオーネのチャド・ブラウン調教師は火曜朝、デルマー競馬場でIdol Horseの取材に対し、「前回ペースメーカーを使ったときは、そのペースメーカーの方が勝ちました」と説明。

「昨年、サラトガのG1・フラワーボウルSで、ドバウィ産駒のアイデアジェネレーションという牝馬を、フランケル産駒のマキューリックの補佐役として送り出したのですが、この馬は序盤から先頭でそのまま勝ちました。ですから、今回が初めてではありません。コントラリーシンキングはどこまで引っ張っていけるかを見るため、確実に出走させます」

「デルマーでは、スピードがあり前へ行く馬が有利だと私は思います。彼は先頭に出て、できればペースを作り、どこまで行けるか見てみたい。賞金は大きいし、もし彼を放っておけば危険になり得ます。この馬には素質の高さがあります」

もちろん、ブラウン師がそう言うのは当然だろう。しかし、フィアースネスのトッド・プレッチャー調教師は、“ペースメーカー”のコントラリーシンキングをあまり気にしていない。

「ペースメーカーには全く問題を感じません。うちのフィアースネスにとっては、目標がある方がむしろありがたい。私の懸念は、最内枠から真っ直ぐ走ってくれるかどうかだけです」とプレッチャー師。同馬は前走、同じデルマーのG1・パシフィッククラシックで1番ゲートから出た直後、左へとヨレる仕草を見せている。

カリフォルニア拠点のG1・プリークネスステークス勝ち馬、ジャーナリズムは9番ゲートからの発走となるが、管理するマイケル・マッカーシー調教師は動じない。「しっかりと出て最初のコーナーに入り、先行勢の直後の好位を取りたいと考えています」と語った。

G1・サウジカップでロマンチックウォリアーを撃破した日本のフォーエバーヤングは、5番ゲートからの発走に決まった。この枠は矢作芳人調教師が思い描く作戦にとっても好都合だ。

昨年の3着について、矢作師は「自分の読み違いだった」と振り返り、ペースの速さが予想以上だったと分析。「彼は自在なタイプですが、理想は中団よりやや前目の好位で運ぶことです」と述べた。

今年のBCクラシックを巡る熱狂について問われると、マッカーシー師は「ただただ、本当に素晴らしいレースです」と表現した。

Forever Young ahead of the 2025 Breeders' Cup Classic
FOREVER YOUNG / Del Mar // 2025 /// Photo by Alex Evers/Eclipse Sportswire/Breeders Cup

ブリーダーズカップに対する日本からの関心は言うまでもないが、JRAの今週末の番組にも大一番、G1・天皇賞秋が控えている。

絶好調のクリストフ・ルメール騎手が手綱を握る、マスカレードボールが人気の中心になりそうだが、相手も強力で熱戦必至だ。フランスで自身初のリーディングジョッキーに輝いたクリスチャン・デムーロ騎手は、G1・皐月賞馬のミュージアムマイルで参戦する。

また、短期免許で初来日を果たしたフランス期待の若手、アレクシ・プーシャン騎手にとっては、今回が日本のG1初騎乗となる。プーシャンは昨季、短期滞在した香港で2勝を挙げており、今回は東京で素質十分のアーバンシックに跨る。

デルマーに話を戻そう。南半球産の3歳馬でウルグアイからの移籍馬、タッチオブデスティニーは中京のG1・チャンピオンズカップへの登録を済ませている。マイケル・マッカーシー調教師は今週末、ブリーダーズカップでの内容を見定めて、JRAの招待を受けるか決める構えだ。

「その話はこれまでも議題の一つでしたし、この一週間の結果を見て判断します」と、マッカーシー師はIdol Horseに語った。

タッチオブデスティニーは昨季ウルグアイで6戦6勝。6月にマローニャス競馬場のG3を制して以来の出走となるが、今回はBC開催のG1・BCダートマイルに臨む。

「このレースでしっかり引き締まってくるはずです。良い判断材料になります。ウルグアイのベストホースが、今回はアメリカのトップ層とどう渡り合えるか。興味深いですよ。扱いやすく、調教にも前向き、非常に落ち着きもあって、よく寝る馬です」

「理想を言えば、スイッチを入れるために一度使っておきたかったですが、ウルグアイの皆さん、そしてウルグアイ競馬界に関わる全ての人々が楽しみにしている一戦なので、彼らを代表して走れるのは光栄です」

Touch Of Destiny at the Breeders' Cup
TOUCH OF DESTINY / Del Mar // 2025 /// Photo by Tim Sudduth/Eclipse Sportswire/Breeders Cup

1990年10月27日、アルゼンチンで生まれた名牝のバヤコアが、G1・BCディスタフで史上初の連覇を達成した。1989年にガルフストリームパーク競馬場で勝利し、翌1990年はベルモントパーク競馬場で戴冠。いずれもラフィット・ピンカイ・ジュニア騎手の騎乗だった。

同じく10月27日(2001年)、ティズナウがG1・BCクラシックで前人未到の連覇を達成。4歳時はゴドルフィンのサキーをハナ差で退け、3歳時は前年は欧州競馬界のスター、ジャイアンツコーズウェイとの劇的な叩き合いを制している。

セクレタリアトは1973年の10月28日、カナダ・ウッドバイン競馬場のカナディアンインターナショナルでラストランを迎えた。エディ・メイプル騎手を背に、6馬身半差の勝利で現役生活を締めくくった。

日本競馬の今世紀を象徴する一枚は、2012年10月28日の天皇賞秋で生まれた。ミルコ・デムーロ騎手がエイシンフラッシュで勝利を収め、馬上から下馬。ヘルメットを脱ぎ、満員の東京競馬場で観戦していた天皇皇后両陛下の前で、片膝をついて深く一礼した。

Mirco Demuro and Eishin Flash win the G1 Tenno Sho (Autumn)
MIRCO DEMURO, EISHIN FLASH / G1 Tenno Sho (Autumn) // 2012 /// Tokyo //// Photo by JRA

ウンベルト・リスポリ騎手のBCクラシック制覇の夢は、ジャーナリズムの乗り替わりで打ち砕かれた。

イタリア出身のリスポリは沈黙を破り、無情な降板宣告、今の心境、そして騎手生活で重要な“あること”について、デヴィッド・モーガン記者に打ち明けた。

アダム・ペンギリー記者は香港を訪れ、オーストラリア出身のベテラン名手、ヒュー・ボウマン騎手との独占取材に臨んだ。

ウィンクス、プレッシャー、モチベーション……そして “香港の絶対王者” ザック・パートン騎手との関係性について語ってくれた。

20年以上前、入場者数の減少と人気の低下で、地方競馬の高知競馬場は崖っぷちに追い込まれていた。そんなとき、橋口浩二氏が場内実況アナウンサーの仕事に就き、「負け組の星」ハルウララに着目。ここから高知の大逆転劇は始まろうとしていた。

Idol Horseの上保修平記者が高知を訪ね、橋口アナに会って話を聞いた。

西海岸のトップジョッキー、フアン・エルナンデス騎手はボブ・バファート厩舎との繋がりが深い。

今週、再びホームのデルマー競馬場でブリーダーズカップを迎えるこのタイミングで、2024年7月に掲載された、メキシコのエースを描いたデヴィッド・モーガン記者の記事をご紹介したい。

先週末に京都のリステッド・萩ステークスを制した、コントレイル産駒の2歳牡馬、バドリナートは見逃せない。

バドリナートは坂井瑠星騎手のエスコートで一気に突き抜け、1馬身差の完勝。『Future Idol』にふさわしい走りを見せつけた。サンデーレーシング所有の同馬は8月のデビュー戦こそ敗れたが、9月の阪神で初勝利を挙げ、京都で連勝。松永幹夫調教師は、年末のG1・ホープフルSを視野に入れるだろう。

Badrinath wins at Kyoto
BADRINATH, RYUSEI SAKAI / Listed Hagi Stakes // Kyoto /// 2025 //// Photo by Shuhei Okada

一方、同日の京都では、同じコントレイル産駒で矢作芳人厩舎のテルヒコウも目を引いた。“6億円ホース”して話題を呼んだキタサンブラック産駒、1番人気のエムズビギンを退け、2馬身半の快勝で新馬勝ちを飾った。

🇦🇺 ヴィクトリアダービーデー
フレミントン競馬場、11月1日
G1・ヴィクトリアダービー

メインイベントのヴィクトリアダービーは、3歳馬による2500mの持久力勝負。もう一つの主役、“ザ・ストレート・シックス”で行われる直線1200mのG1・クールモアスタッドステークスは、オーストラリア有数の種牡馬選定レースとして定評がある。

クリス・ウォーラー調教師はこのレースを6勝しており、今年はG1・ゴールデンローズSを制したバイヴァクトを送り込む。前売りオッズではフリードマン厩舎の同じ勝負服、テンティリスが僅差で追う。

ストリートボス産駒でゴドルフィン所属のテンティリスは、コーフィールドカップ当日に行われたリステッド・ゴシックステークスを快勝し、この舞台に臨む。

🇺🇸 ブリーダーズカップ
デルマー競馬場、11月2日
G1・BCクラシック(IFHAレーティング5位タイ)
G1・BCターフ(同15位)
G1・BCマイル(同36位)

ブリーダーズカップは2年連続でデルマー開催となり、予想どおりトップレベルでの勝利を狙う世界の強豪が集結した。

世界が注目するBCクラシックでは、フォーエバーヤングが昨年のクラシックで喫した敗戦の雪辱を果たせるかが焦点だ。相手はシエラレオーネ、フィアースネス、ジャーナリズムら強豪。

一方、BCターフではレベルズロマンスが史上初の3勝目に挑む。その前に立ちはだかるのは、エイダン・オブライエン厩舎のミニーホーク。G1・凱旋門賞で健闘の2着を果たし、米国入りしてきた。

🇯🇵 天皇賞秋
東京競馬場、11月2日
G1・天皇賞秋(IFHAレーティング25位)

天皇賞秋は、日本の古馬中距離路線における最上位決戦であり、国内の中距離王者決定戦であると同時に、ジャパンカップへの重要な前哨戦としても機能している。

メイショウタバルは宝塚記念でG1初制覇を果たしており、これに3歳勢からは皐月賞馬のミュージアムマイル、ダービー2着のマスカレードボールが挑む。さらにフランス期待の若手ジョッキー、アレクシ・プーシャン騎手も日本で初のG1挑戦に臨むべく、アーバンシックに騎乗する。

🇦🇺 メルボルンカップデー
フレミントン競馬場、11月4日
G1・メルボルンカップ

バッカルーは前走のコックスプレートで同厩馬のヴィアシスティーナを最後まで追い詰め、果敢に2着に入った。次走のメルボルンカップでは、さらなる上積みが期待できるかもしれない。

🇦🇺 VRCオークスデー
フレミントン競馬場、11月6日
G1・VRCオークス

VRCオークスは3歳牝馬による2500mのG1。今年はゲッタグッドフィーリングが、10月18日のG1・豪1000ギニーで見せた上々の内容を手土産に、オークス制覇に臨む。

コーフィールド競馬場で行われた豪1000ギニーでは、ゲッタグッドフィーリングは内ラチ沿いでしぶとく伸びて3着に入った。今回はソルティパールや、前走2000mのG3で4着だったクラシックジェムらが主な相手になりそうだ。

🇦🇺 VRCチャンピオンステークスデー
フレミントン競馬場、11月8日
G1・VRCチャンピオンステークス

この日のメインはG1・VRCチャンピオンS。主役のヴィアシスティーナは前走、コックスプレートでバッカルーの猛追を僅かに凌ぎきった。今回は連覇を目指す一戦として登場する。

トレジャーザモーメントはコックスプレートで勝ち馬から1馬身半差の3着。ヴィアシスティーナにもう一度挑む機会をうかがう。

🇩🇪 バイエルン大賞デー
ミュンヘン競馬場、11月8日
G1・バイエルン大賞

同レースで最後に勝利した英国調教師は、2021年にアルピニスタで制したサー・マーク・プレスコット師だ。

翌年に凱旋門賞を制すことになるアルピニスタは、4年前のミュンヘンでは直線を力強く駆け抜けた。今年はジョージ・スコット調教師の3歳牡馬、ベイシティローラーが同様のシナリオを描く。近走はフランスのG2で惜敗が続いているが、2400mのG1タイトル獲得を見据えてミュンヘン遠征を検討している。

🇯🇵 エリザベス女王杯
京都競馬場、11月16日
G1・エリザベス女王杯

エリザベス女王杯は日本で唯一、3歳以上の牝馬に限定されたG1レース。距離は2200mで行われる。

中山のオールカマーを快勝したレガレイラは、3度目のG1制覇を狙って乗り込む可能性がある。2023年ホープフルステークスでG1初制覇を飾ると、昨年12月の有馬記念ではシャフリヤールの追撃を抑えて勝ち切っている。

デイヴィッド・モーガン、Idol Horseのチーフジャーナリスト。イギリス・ダラム州に生まれ、幼少期からスポーツ好きだったが、10歳の時に競馬に出会い夢中になった。香港ジョッキークラブで上級競馬記者、そして競馬編集者として9年間勤務した経験があり、香港と日本の競馬に関する豊富な知識を持っている。ドバイで働いた経験もある他、ロンドンのレースニュース社にも数年間在籍。これまで寄稿したメディアには、レーシングポスト、ANZブラッドストックニュース、インターナショナルサラブレッド、TDN(サラブレッド・デイリー・ニュース)、アジアン・レーシング・レポートなどが含まれる。

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Racing Roundtable, Idol Horse

ワールド・レーシング・ウィークリー、世界の競馬情報を凝縮してお届けする週刊コラム。IHFAの「世界のG1レース・トップ100」を基に、Idol Horseの海外競馬エキスパートたちが世界のビッグレースの動向をお伝えします。

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