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G1勝利歴のある著名な調教師を含む、豪・ニューサウスウェールズ州(NSW)の多数の調教師が、州の厳格な新しい財務基準を満たせることを数日内に証明するよう追われている。発端は事務処理上のミスにより、審査対象者の氏名が明らかになってしまったためだ。

オーストラリアの同州では調教師ライセンス制度の全面的な見直しが進んでおり、レーシングNSWはその一環として、事業の継続的な存続可能性を証明する必要があると警告。しかし、送信したメールは対象者全員の名前を誤ってCCで記載してしまい、業界内の著名な関係者数名に宛てたその文書は広く出回ることになった。

今週初めに送られ、Idol Horseが確認したそのメールでは、多数の調教師に向けて「あなた方の財務指標はレーシングNSWの最低財務基準を下回っています」と警告されている。

警告を受けた調教師は、「(レーシングNSWの)競走馬の福祉および調教業務の継続的な存続可能性を確保する責務」の一環として、銀行取引明細や直近の納税記録といった個人情報の提出を求められている。

なお、Idol Horseは、そのメールに同報されていた調教師の実名は公表しない方針だ。

RACING NSW EMAIL / Supplied

その後、レーシングNSWは各調教師の状況について個別に話し合うと約束しており、メール送信以降、すでにライセンス更新の承認を受けた調教師も多いと見られている。

レーシングNSWの最高執行責任者、グレアム・ヒントン氏は取材に対し、「メールは事務的な誤りでした。ただし、誰のプライバシーも侵害されたとは考えていません」と述べた。

「当該メールは、さらなる情報提出が必要であることを明確にするものであり、最終的な決定や判断を通知するものではありません」

「ライセンス発行の一環として、私たちは調教師に対し、これまでよりも確かな財務的資源を示すことを求めています。最優先事項は動物福祉です。これは、馬に適切な栄養と飼料が提供され、痛みがある場合には確実に獣医に診せられるようにするためです」

「さらに、スタッフに適切な給与が支払われていること、そして厚生年金の支払いが確実に行われていることが重要です」

「残念ながら、こうした非常に重要な義務を果たすための財務状況を持たない調教師もいます」

レーシングNSWが示した業界への新規参入や継続参画の基準を引き上げだが、業界への妥協は一切見られない、より厳しい条件となっている。

同局の懸念事項に挙げるのは、資金繰りに窮する調教師が、馬を馬房の外で少なくとも1日1時間運動させることや、直ちに獣医治療を受けさせることといった最低限の福祉基準を満たせないのではないかという憶測だ。

しかし、この問題に詳しい複数の関係者によれば、多くの調教師が動揺し、2025/26シーズンのライセンスを更新して生計を維持できることを示そうと、奔走する事態に陥っていたという。

メールに名前があった2名の調教師は匿名を条件にIdol Horseの取材に応じ、再ライセンス取得を目指す立場から、すでに一部が法的助言を求めていると語った。

「もはや恫喝まがい、すっかり追い詰められています」とある調教師は言う。

「これまでこの手続きで自分の銀行口座明細の提出を求められたことは一度もありません。あのメールに自分の名前が載っていて恥ずかしい思いをした人が大勢います。次の段階に進もうとして、法的代理人の選定を検討している人も複数います」

取材に応じた別の調教師はこう付け加えた。

「多くの調教師がライセンスを返上する事態になると思います。私たちは何か月も馬を調教し、飼料代、運動、装蹄、あらゆる費用を負担します……そして月末に請求書を出しても、何か月も支払われない。私たちはオーナーの費用を長期間立て替えているのです」

「今はこれまでで一番厳しい状況です。もう耐えられない人が多いと思います。今の厩舎ビジネスは本当に難しい時代になっています」

この問題は数か月にわたり続いた精査プロセスの山場となった。今年初め、NSW州の調教師はライセンス更新の一環として、個人および事業のオーストラリア国税局(ATO)の審査結果をレーシングNSWに提出するよう求められていた。

また、財務上の義務を履行できることを確認する宣誓供述書への署名も求められている。

規制当局は、ロスカーベリー・ホールディングス社が倒産を受けて、同社を経営するG1トレーナーのアンソニー・カミングス氏から調教師ライセンスを剥奪した件を踏まえ、厩舎ビジネスの破綻防止に向けた取り組みを一段と強化している。

カミングス氏は免許の剥奪を受け、故バート・カミングス氏(メルボルンカップ12勝)の拠点として知られる、ロイヤルランドウィックのレイラニロッジ厩舎を手放さざるを得なくなった。

カミングス家は50年にわたり同調教場で競走馬を管理してきたが、その厩舎は現在、大手厩舎を率いるキアロン・マー調教師が使用している。

また、名門一族のスキャンダルとして、アンソニー・カミングス氏の失墜は一般メディアでも大きく報じられた。

彼の息子、ジェームズ・カミングス調教師はゴドルフィン・オーストラリアの専属調教師として成功を収めた一方、新シーズンから香港ジョッキークラブの調教師陣に加わることに合意。オーストラリアの競馬界を去る予定となっている。

アダム・ペンギリー、ジャーナリスト。競馬を始めとする様々なスポーツで10年以上、速報ニュース、特集記事、コラム、分析、論説を執筆した実績を持つ。シドニー・モーニング・ヘラルドやイラワラ・マーキュリーなどの報道機関で勤務したほか、Sky RacingやSky Sports Radioのオンエアプレゼンターとしても活躍している。

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