グッドウッド競馬場で行われた2025年のG1・サセックスステークスでは、単勝151倍の伏兵キラートがロザリオンを振り切って勝利した。1971年にパターン競走制度(日本のグレード制に相当する格付け制度)が導入されて以来、英国で最も人気薄のG1勝ち馬となった。
さらにさかのぼれば、英国の主要レースでこれほどの番狂わせがあったのは1822年、201倍でセントレジャーを制したセオドア以来のことだ。
では、世界的に見ればどの位置づけになるのか?
そこで、世界の歴史的G1波乱劇5選を振り返る。
エンブレムロード(115倍) 2022年 サウジカップ

サウジアラビアでは賭けが禁止されているため、115倍というのは米国でのオッズだ。そんな伏兵、エンブレムロードが世界最高賞金レースG1・サウジカップで、初の地元馬による勝利を挙げた。
地元の前哨戦こそ勝っていたが、前年覇者ミシュリフをはじめ、アエロトレム、アートコレクター、カントリーグラマー、マンダルーン、マルシェロレーヌ、シリウェイ、テーオーケインズといったG1馬たちが相手。誰もが厳しいと見ていた挑戦だった。
レース序盤、後方に置かれ、ウィギー・ラモス騎手が必死に追う姿に「やはり厳しいか」と思われたが、直線で13頭のライバル全てをごぼう抜きにし、世界最高賞金レースを制した。
スターアピール(120倍) 1975年 凱旋門賞

歴代勝ち馬には世代を代表するスーパースターが居並ぶG1・凱旋門賞でも、波乱は時折起こる。近年ではトルカータータッソが81倍で制したのが記憶に新しいが、それ以上の衝撃となったのが1975年のスターアピールだ。
当時、西ドイツ所属だったスターアピールは、同年にイギリスでG1・エクリプスステークスを制していたものの、全くの人気薄で24頭立ての最低人気に甘んじていた。
しかし後方から一気の差し脚で豪快に差し切り、3馬身差の完勝を飾った。グレヴィル・スターキー騎手の手綱さばきに導かれ、アレフランスやダーリアといった名牝をも置き去りにした。
ダンディアンディ(126倍) 1988年 オーストラリアンカップ

オーストラリアのG1レースには、さらに大きな波乱もあった。1986年のコーフィールドギニーを251倍で制したアバリディ、2021年オーストラリアンギニーを301倍で勝ったルナーフォックスなどだ。
それでもダンディアンディの勝利は、波乱劇の象徴として語り継がれている。
1988年のG1・オーストラリアンカップは「大波乱(いわゆる”ボイルオーバー”)」と呼ばれた。
逃げの名手ヴォローグと“不滅の名馬”ボーンクラッシャーとの一騎打ちと見られていた一戦。他にも愛セントレジャー馬アウザールやG1実績馬コサックウォリアー、キングオブブルックリンといった強豪が顔を揃えていた。
しかし、勝利したのは人気薄のダンディアンディだった。直線で鮮やかに先頭に躍り出ると、大金星を挙げることとなった。
アルカング(134倍) 1993年 ブリーダーズカップ・クラシック

フランスのアンドレ・ファーブル調教師が送り出したアルカングは、サンタアニタ競馬場で開催された1993年のG1・ブリーダーズカップクラシックでは、ほとんど勝ち目なしの存在と見られていた。
それでも、実績自体はあった。シーズン前半にG1・イスパーン賞を制していたが、決定的な要素がダート未経験。強豪ひしめくこの舞台では分が悪いと考えられていた。
しかし驚きの瞬間は訪れた。馬群の間を割って伸び、1番人気のバートランドを相手に差し切り勝ち。実況のトム・ダーキンがすぐにアルカングを言い当て、波乱を的確に表現したことも話題となった。
あまりの高配当で、場内の掲示板が2桁しか表示できず、オッズが表示しきれなかったという。
テンハッピーローズ(208倍) 2024年 ヴィクトリアマイル

日本のG1では、1989年エリザベス女王杯を430倍で制したサンドピアリス、2014年フェブラリーステークスを271倍で制したコパノリッキーなど、これを超える大波乱もあったが、テンハッピーローズの衝撃もまた世界的に注目を集めた。
2024年のG1・ヴィクトリアマイルでは、マスクドディーヴァ、ナミュール、スタニングローズといった強豪を相手に、208倍の低評価を覆す快勝。しかもこの馬は最低人気ですらなかった(最低人気は337倍のキタウイング)というのだから、まさにオッズを覆す大金星だった。
その後もテンハッピーローズは健闘を続け、同年のG1・ブリーダーズカップマイルで4着(勝ち馬と1馬身差)に好走し、フロックではないことを証明している。