2025 天皇賞(春): G1レビュー
競馬場: 京都競馬場
距離: 3200m
総賞金: 6億5100万0000円(452万1870米ドル)
日曜日に京都競馬場で行われた今年のG1・天皇賞(春)は、木村哲也厩舎の4歳馬・ヘデントールが無尽蔵のスタミナを見せつけて勝利を収めた。今後は、凱旋門賞やメルボルンカップといった国際舞台も視野に入るところだ。
単勝3.1倍の1番人気に推されたヘデントールは、ダミアン・レーン騎手の手綱に応えて力強く抜け出し、日本のG1における短期免許騎手の躍進をさらに印象づけた。実際、2025年に入ってから日本の通年騎手が勝利したG1は、横山和生騎手がベラジオオペラで制した大阪杯のみである。
レース展開
今年の出走馬は15頭。ヘデントールは好スタートを切ったが、レーンは慌てて出していくことはせず、他馬が速い流れを作る中で馬のリズムを整えた。特にジャンカズマ、プラダリア、マイネルエンペラーが序盤からスピードを出していき、そのため向こう正面の1コーナーを迎える頃には、ヘデントールは内ラチ沿いの6番手につけていた。
全体的に速くもなく遅くもない平均的なペースが維持され、多くの馬にチャンスがある展開となった。レーンは1000m地点までヘデントールを内ラチ沿いにキープしていたが、そこから外に持ち出した。
ジャスティンパレスが大外を回って一気に進出した動きには対応できなかったものの、ヘデントールも馬群の間を縫ってじわじわと進出し、最終コーナーではジャスティンパレスの直後につける形となった。
一方、ビザンチンドリームに騎乗したアンドレアシュ・シュタルケ騎手は、道中最後方に位置しながらも徐々に進出を開始し、直線入り口ではヘデントールとの差を3馬身まで詰めていた。
直線に入ると、ヘデントールとビザンチンドリームの一騎打ちムードはより明白に。残り200m地点でヘデントールが先頭に立ったが、ビザンチンドリームがさらに突き抜けそうな勢いで迫ってきた。しかし、ヘデントールは懸命に粘り抜き、終盤では逆にビザンチンドリームを抑える形となった。
ヘデントールがビザンチンドリームの最終的な着差はアタマ差。さらに3馬身離れてショウナンラプンタが3着に入った。
また、勝ちタイムの3:14.0は、キタサンブラックが3:12.5の世界レコードを記録した2017年以降としては、同レース史上最速の時計となった。
勝ち馬・ヘデントール
ヘデントールはこれで通算成績が9戦6勝、ステイヤーとして素晴らしい戦績を築きつつある。
これまでに敗れたのは3回のみ。デビュー戦(2000m)での敗北、位置取りが響いて8着に沈んだG2・青葉賞(2400m)、そしてG1・菊花賞(芝3000m)での惜敗。このときはアーバンシックに巧みに抜け出されての2着だった。
今年2月のG3・ダイヤモンドステークス(3400m)では完勝を収めており、ここでのG1制覇に向けての仕上がりは万全だった。着差こそわずかだったが、その内容は将来有望なステイヤーであることを十分に示すものだった。
また、ヘデントールは凱旋門賞への登録を済ませており、レーンも日本で次なるメルボルンカップのパートナーを探している最中だ。シルヴァーソニックが引退した今、ヘデントールがその最有力候補になる可能性がある。

また、この勝利により、キャロットファームは日本競馬における『八大競走』、つまりは皐月賞、日本ダービー(東京優駿)、菊花賞、桜花賞、オークス(優駿牝馬)、天皇賞(春)、天皇賞(秋)、有馬記念のすべてを制覇したことになる。
なお、同法人はジャパンカップや宝塚記念といった国際的には高い評価を受けるレースでも勝利しているが、日本では八大競走は別格に位置付けられている。
キャロットファームは、サンデーレーシング、そしてディープインパクトの馬主として知られる金子真人氏に続き、『JRA八大競走完全制覇』を成し遂げた史上3組目のオーナーとなった。
勝利騎手・レーン
レーンは、わずか1週間前にタスティエーラに騎乗して香港のG1・クイーンエリザベス2世カップ(2000m)を制したばかり。今度はヘデントールで再びキャロットファームの勝負服を身にまとい、JRAにおける自身6度目のG1勝利を挙げた。
天皇賞春を制した短期免許で来日中の騎手は、2010年のクレイグ・ウィリアムズ騎手以来。レーンとはメルボルンのライバルジョッキーという間柄だ。そして、レーンはこの勝利により、2025年の『ワールド・ベスト・ジョッキー』ランキングで、ジェームズ・マクドナルド、坂井瑠星に次ぐ3位に浮上した。
今後数週間の間にも大レースへの騎乗機会が控えており、今回の勝利で弾みを付ける可能性は十分にありそうだ。
充実の4歳世代
天皇賞(春)において、4歳馬が1着から4着までを独占したのは史上初である。また、4歳馬が上位3頭(いわゆる『馬券圏内』)を占めたのも、テイエムオペラオーがラスカルスズカ、ナリタトップロードを従えて1着となった2000年以来の出来事だった。
今回上位を占めた4頭、ヘデントール、ビザンチンドリーム、ショウナンラプンタ、サンライズアースはいずれも、昨年のG1・日本ダービー(2400m)でダノンデサイルの後塵を拝していた。また、そのうち上位3頭は、菊花賞ではアーバンシックの後ろに迫りつつ、ダノンデサイルを上回る走りを見せていた。
このように、今年の4歳世代は非常にレベルが高い。実際、ダノンデサイルはG1・ドバイシーマクラシック(2410m)でその実力を証明し、シンエンペラーはG2・ネオムターフカップ(2100m)で勝利したうえ、G1・アイリッシュチャンピオンステークス(2000m)でも上位入着を果たしている。
さらには、レガレイラのG1・有馬記念(2500m)制覇もあり、アスコリピチェーノのように海外で勝利を挙げた馬も存在することから、日本の4歳世代の層の厚さは一層際立っている。
関係者コメント
ダミアン・レーン騎手(ヘデントール、1着):
「素晴らしい叩き合いでしたし、とてもいいレースだったと思います。途中で何度か厳しい場面もありましたが、彼には本当に闘争心があります。レースの中でも手応えは良く、スタートも決まりましたし、流れも理想的でした」
「行きたがる面がある馬ですが、今回はうまく内ラチ沿いに入れられたことが大きな利点で、しっかりカバーされてリラックスさせることができました。精神面ではまだ幼さも残っていますが、常に学んでいる途中だと感じます。だからこそ、今後数年はトップレベルで走り続けられると思います」
木村哲也調教師(ヘデントール、1着):
「先週の香港(リバティアイランドの件)で起きたことは、私にとっても非常に苦しいできごとでした。当事者の皆さんの気持ちを考えると、私自身も複雑な気持ちを引きずったままでした。それでも、仕事に立ち向かっていかなければならない状況にありました。彼(ヘデントール)はしっかり走ってくれて、自分の力でG1を勝ち取ってくれました。まずは、無事に戻ってきてくれることを願っています」

アンドレアシュ・シュタルケ騎手(ビザンチンドリーム、2着):
「序盤からもう少し流れてくれた方が良かったです。後ろで溜めていいリズムでリラックスして運ぶことができました。それが最後の直線の脚につながりました。スペースができるのを待つ感じになりましたが、スペースができてからは追い出していい脚を使ってくれました」
武豊騎手(ショウナンラプンタ、3着):
「思っていた通りのレースはできました。直線に向いてリードを取りたかったのですが、そこまでのキレがありませんでした。でも自分のレースはできたと思います」
鮫島克駿騎手(ジャスティンパレス、6着):
「外枠でスタートが決まらず、難しいレースになりました。そこからリズムを整えながら追走して4コーナーで勝負圏内にと考え、向正面で無理せず押し上げてという競馬でした」
菅原明良騎手(ブローザホーン・8着):
「ゲートは出て、良い位置につけて折り合いもつきました。ただ、馬場が硬く、スピードの乗りがよくありませんでした。もっと柔らかい馬場の方でしぶとさ勝負がいいと思います」
横山和生騎手(ワープスピード・9着):
「向こう正面でペースが上がった際に、ビザンチンドリームを追うために一杯一杯になってしまいました。頑張っていますが、今日は時計が速かったです」
今後は?
上位2頭は来月のG1・宝塚記念(芝2200m)に向かう可能性もあるが、年内に海外遠征を計画するかどうかによって次走も左右されるだろう。