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先週末のG1・クイーンエリザベスSでは、ヴィアシスティーナが1シーズンにおけるオーストラリアG1最多勝記録(7勝)でウィンクスに並んだ。この偉業を受けて、競馬場内やSNS上では、ある議論が再燃している。

ロマンチックウォリアーとヴィアシスティーナ、真の最強馬はどちらなのか?

この問いに答えられる人物がいるとすれば、昨年のロンジン・ワールドベストジョッキーに輝いたジェームズ・マクドナルド騎手の他にいないだろう。だが、もしこの夢の対決が実現し、2000mという両者にとってベストな条件で頂上決戦が行われるとすれば、それはファンにとってこの上ない喜びとなるに違いない。

もちろん、これは現実的には夢物語に過ぎないのかもしれない。スケジュールの重複、陣営ごとの優先事項、そして何より馬自身がこちらの思惑通りに動いてくれなかったりするからだ。そんな事情がこの世界にはつきものだが、ごく稀にではあるが、夢が手の届く場所に現れる瞬間がある。

それが12月にシャティン競馬場で行われるG1・香港カップ(2000m)だ。

2023年と2024年のコックスプレート覇者である2頭。しかも、2018年生まれで誕生日はわずか9日違い。世界の競馬を牽引してきた野心的な2人の馬主。そして、両馬にとってベスト条件となる距離設定。まさにすべてが整っている。

ダニー・シャム調教師が管理し、ピーター・ラウ氏が所有するロマンチックウォリアーは、数ある香港から世界に飛び立った競走馬の中でもトップに君臨する一頭だろう。

G1・10勝を誇り、2023年のコックスプレートではオーストラリアの強豪を撃破。さらに日本へ飛び、2024年の安田記念を『敵地』で奪取。2025年のサウジカップでは歴史的勝利にあと一歩と迫った。そして、地元のシャティン競馬場では香港カップとQE2世Cをともに3連覇、まさに『庭』と言わんばかりの活躍だ。

Romantic Warrior wins G1 Jebel Hatta
ROMANTIC WARRIOR, JAMES McDONALD / G1 Jebel Hetta // Meydan /// 2025 //// Photo by HKJC

ラウ氏自身はIdol Horseの取材に対し「旅行はあまり好きではない」と語っているが、愛馬の遠征には一切の躊躇がない。香港競馬が世界と渡り合えることを、その実績で示し続けてきた。

一方のヴィアシスティーナは、イギリスで頭角を現したあと、オーストラリアで一気にスターダムへと駆け上がった。8月からの今シーズンだけでもG1レースを7勝、手強いメンバーを退けて名牝ウィンクスの記録に肩を並べた。卓越した決め手、自在性、そして勝利への執念は、オーストラリアでのキャリアを通じてトップホースとしての資質を完全に開花させた。

さらに、ヴィアシスティーナの背後にもまた、国境を超えて競馬界に爪痕を残そうとする馬主の存在がある。

張月勝(チャン・ユエション)氏が率いるユーロンは、今やクールモアやゴドルフィンと肩を並べる国際勢力へと急成長を遂げている。ヴィクトリア州最大の生産者ともなったオーストラリアを始め、ヨーロッパ、アメリカ、中国本土にまたがるグローバルな展開を進めており、翡翠色の緑と白の勝負服は世界の主要競馬場でもひときわ目を引く存在となっている。

そして、張氏が2022年、香港ジョッキークラブから海外在住者として初めて馬主資格を認められた人物の一人であるという事実も重要だ。香港競馬で馬主として競走馬を走らせるには、この所有許可が必要不可欠である。

ならば、香港ジョッキークラブのウィンフリート・エンゲルブレヒト=ブレスゲスCEOが、その見返りとして一つの大きなお願いを持ちかけたとしても不思議ではないかもしれない。

ブレスゲス氏は土曜日、ランドウィック競馬場で行われたクイーンエリザベスステークスを現地で観戦し、ヴィアシスティーナがライバルたちを引き離す勝利を見届けた。レース直後、ブレスゲス氏はすぐに張氏のもとに駆け寄り、握手と祝意を交わすと同時にこう提案した。

「12月、香港に来てくれませんか?時代を代表する2頭の対決を香港カップで実現させましょう」

張氏は、この申し出を即座に否定しなかった。翌日シャティンに戻ったブレスゲス氏はIdol Horseに対し「検討中のようです」と語っている。

さらにブレスゲス氏は、25年前にシェイク・モハメド殿下が『モンジュー vs ドバイミレニアム』という夢の対決を実現させるべく600万ポンドの賞金を用意して話題をさらった手法にならい、冗談めかしつつも『勝者総取り』の高額賞金を用意してもいいとまで示唆したという。

この対決が実現すれば、香港競馬界だけでなく、世界の競馬界にとっても素晴らしい瞬間となるだろう。近年、競馬はメディア露出の確保やイメージ改善、そしてファンとの絆の維持に苦戦している。そんな今こそ、シャティンの芝で繰り広げられる『世紀の決戦』ほど、競馬を盛り上げるものはない。

このアイディアの裏には、対照的なストーリーも存在する。今年10月、香港が誇る新星のカーインライジングがオーストラリアへと遠征し、世界最高賞金を誇る芝レース「ジ・エベレスト」に挑む。一方でその数週間後、ヴィアシスティーナが入れ替わるように旅立ち、香港カップでロマンチックウォリアーに挑む。こんな構図が生まれるとしたら、と想像してみてほしい。

James McDonald and Via Sistina after a Flemington win
JAMES McDONALD, VIA SISTINA / G1 Champions Stakes // Flemington /// 2024 //// Photo by George Sal

このドラマにはもう一人、不可欠な存在がいる。それはジェームズ・マクドナルド騎手だ。

ロマンチックウォリアーとヴィアシスティーナの両方でG1を勝っている主戦騎手、いわば両馬をつなぐ糸のような存在だ。マクドナルド騎手は2頭の癖、持ち味、もしあるとすれば弱点さえも知り尽くしている。

そしてもしこの夢のレースが実現すれば、彼はどちらかを選ばなければならないということだ。

表面的には、マクドナルド騎手がロマンチックウォリアーに騎乗するのが自然にも思える。彼にとってのいわば『ホーム』のシャティン競馬場であり、香港カップでは無敗を誇る。そして何より、オーストラリアでのG1騎乗機会を犠牲にしてまで遠征を共にしてきたパートナーだ。

だが、一方で人間関係の重みも無視できない。ユーロンの勢いは著しく、世界的に競馬界への投資を拡大する同陣営と強固な関係を築けば、今後さらに多くのG1騎乗機会やハイレベルなパートナーシップを得られる可能性がある。

この『選択』こそが、このレースを語り継がれる名勝負に変えるスパイスだ。2頭の王者、1つの舞台、そして競馬界で最も困難な決断を迫られる世界最高峰の騎手。これ以上の物語があるだろうか。

ジャック・ダウリング、Idol Horseのレーシングジャーナリスト。2012年、グッドウッド競馬場で行われたサセックスステークスでフランケルが圧勝する姿を見て以来、競馬に情熱を注いできた。イギリス、アメリカ、フランスの競馬を取材した後、2023年に香港へ移る。サウス・チャイナ・モーニング・ポスト、レーシング・ポスト、PA Mediaなどでの執筆経験がある

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