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世界には素晴らしい開催がいくつもあるかもしれないが、世界中の話題をこれほどまでに集まるグローバルな番組はドバイワールドカップをおいて他にない。

有名どころでは、フォーエバーヤング、ロマンチックウォリアー、リバティアイランドといったスーパースターがいるが、他にもどの国際的な開催でも見られないような多彩なストーリーがここには詰まっている。

たとえば「ピャチゴルスクの誇り」と称されるタズ。ロシア南部の都市、ピャチゴルスクでデビューからの2戦を合計42馬身差で圧勝し、世界屈指のダートスプリンターに成長した。今回、G1・ドバイゴールデンシャヒーン(1200m)では史上3頭目の連覇を狙う。

また、アントニオ・サノはベネズエラ競馬史上もっとも成功を収めた調教師だが、36日間の監禁生活を含め、2度に渡って銃で脅され誘拐された経験を持つ。彼は事件後、母国のベネズエラからアメリカへと移住した。

今回のドバイワールドカップでは、自身3頭目の管理馬を送り込む。その馬の名はイルミラコロだ。初めて出走させた馬のガンナヴェラは、2回目の挑戦である2019年のドバイワールドカップでサンダースノーを相手に3着と健闘を見せた。

しかし今年、もっとも世界的な注目を集めるのはG2・UAEダービー(1900m)の出走馬、クイーンアステカの物語かもしれない。彼女がこの舞台に至るまでには、3つの大陸、数多くの国をまたぐ長い旅があった。

アメリカ、ケンタッキー州のスリーチムニーズファームで生まれたこの馬は、父にシャープアステカ、母父にパレスマリスを持つ血統の牝馬だ。実は、父も母父も後に日本へと輸出され、現在は北海道で種牡馬入りしている。牝系を辿ると、アメリカの伝説的名牝であるパーソナルエンスンや、その娘のマイフラッグといった有名馬の名前が出てくる。

当初は1歳時にキーンランドで2万2000米ドル(約320万円)で売却され、アイルランドのバイヤーであるジャスティン・レア氏が購入。その後、2歳時にイギリスのタタソールズ・ギニーズブリーズアップセールにて、3万ギニー(約600万円)で再び売却された。

そこに現れたのが、北欧で13回のチャンピオントレーナー経験を誇るニールス・ペダーセン調教師だ。デンマーク出身でかつては同国の騎兵隊にも所属していた彼は、1998年からオスロ郊外にあるノルウェー唯一のサラブレッド競馬場、オーヴレヴォル競馬場に厩舎を構えている。

ペダーセンは2007年の初遠征以来、中東へ定期的に馬を送り出してきた。すでに廃止されたナドアルシバ競馬場、現在のメイダン競馬場、ローカルのジェベルアリ競馬場を含め、200を超える出走をこなし、サウジアラビア、バーレーン、カタールへも遠征している。

しかし今シーズンまで、彼の中東での勝利は2015年にメイダンのダートのハンデ戦を制したビートベイビーのみ。同馬はその前年、G1・アルクォーツスプリント(メイダン・芝1000m)に挑戦するも、香港のアンバースカイの後塵を拝して最下位に沈んでいた。

QUEEN AZTECA (L), ARIGATOU GOZAIMASU / G3 UAE Oaks // Meydan /// 2025 //// Photo by Dubai Racing Club

ペダーセンのクイーンアステカが、昨年夏に芝で2走(ノルウェー1回、スウェーデン1回)して着外に終わったときは、重賞レベルに育つとは想像しがたいものがあった。しかし、ダートに替わると一変。9月にスウェーデンのイエゲスロー競馬場で行われたマイル戦を5馬身差で圧勝し、その後ドバイへ移籍することになった。

昨年末のメイダン初戦は着外だったが、3歳になってからは2連勝。まず、ココアビーチSで8馬身差の圧勝を飾り、続くG3・UAEオークス(1900m)でもアリガトウゴザイマスを退けて勝利し、地元ドバイの3歳牝馬路線のトップへと上り詰めた。

メイダン遠征中、彼女の手綱を取り続けているのが、ドバイワールドカップデー初騎乗となるチリ出身のカルロス・ロペス騎手。43歳のロペスはサンティアゴで見習い時代、ランキング2位となっていたが、2000年にデンマークへ移住。

それ以来、スカンジナビアの主要なレースを総なめにし、2019年にはチリ人として初めてドバイで勝利を挙げた。

もし、クイーンアステカが牡馬相手のUAEダービーでも好走すれば、来月のG1ケンタッキーオークスへの出走の可能性が広がる。そうなれば、生まれ故郷のケンタッキー州からわずか1時間の地まで戻ってくることになり、彼女の壮大なワールドツアーに華を添えることになるだろう。

Idol Horse reporter Andrew Hawkins

Hawk Eye View、Idol Horseの国際担当記者、アンドリュー・ホーキンスが世界の競馬を紹介する週刊コラム。Hawk Eye Viewは毎週金曜日、香港のザ・スタンダード紙で連載中。

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