オーストラリアのトミー・ベリー騎手は、コラソンビートのタフネスさと多才さはこの国の競馬にピッタリだと話す。だが、同じく日本からの遠征馬であるアスコリピチェーノに勝つには、ベストな状態で臨むことが不可欠だとも述べた。
2頭の牝馬は福島県のノーザンファーム天栄で2週間の検疫期間に入っており、その後オーストラリアに渡って、11月2日にローズヒル競馬場で行われる総賞金1000万豪ドルのゴールデンイーグルに向けて現地で調整することになる。
戦績だけを見ると、アスコリピチェーノはコラソンビートより明らかに格上に見えるかもしれない。しかし、20頭立ての1500mという珍しい距離のレース、そして比較的タイトなコースで行われるため、勝負には運も絡む可能性があり、適応力も鍵となってくる。
「コラソンビートの適性は1400mから1600mです」とベリーは話す。
「だからこそ、ゴールデンイーグルは合っています。そして、タフな馬です。時には外を回る競馬もありましたが、それでも直線ではきっちり伸びてきます。先行する競馬も、追い込む競馬もできる馬です」
「多頭数になれていることも重要だと思っています。日本、特に大きなレースでは、いつもフルゲートでレースをします。ここオーストラリアの大レース、特に前哨戦となってくると、頭数が集まらないことも普通ですから」
「日本馬が必ずしもそういうレースに慣れているというわけではありませんが、この牝馬たちは若い頃から多頭数で強豪たちと戦ってきており、コラソンビートもそういうレースには慣れています」
2歳時は4戦3勝だったコラソンビートは、G1・阪神ジュベナイルフィリーズでもアスコリピチェーノとステレンボッシュに次ぐ3着に入っている。しかし、3歳シーズンは不運が続き、特に前走のG3・京成杯AHでは直線で不利を受け、16頭立ての15着に終わっている。
「まあ、ここ数戦の結果は度外視で良いと思います。それ以前の成績を見ると、3歳のG1でも入着していますし、1400mのG2も勝っています」
2023年のゴールデンイーグルはオオバンブルマイが勝っているが、ベリーはコラソンビートの成績をこの馬と重ね合わせる。ベリーは武豊騎手の負傷によりこの馬に乗るチャンスがあったが、先約があったので断念。代打の依頼はジョシュ・パー騎手の元に舞い込み、見事優勝した。
33歳のベリーにとって、アスコリピチェーノさえいなければ、もっと自信を持って臨めていたかもしれない。なお、この馬の鞍上はまだ決まっていない。
「そうですね。正直、アスコリピチェーノを倒すには運も必要だと思います」とベリーは明かす。
「向こうの方がコラソンビートより実績は上ですし、日本から来たチームの話を聞く限りでは、オーストラリアに遠征してきた日本馬の中では恐らく最高峰クラスの馬だそうです。いつも通りの走りをできれば、主役はこの馬でしょう。しかし、この馬はここ数戦ほど力を発揮できていませんし、今回は良い走りをしてくれると思います」
「アスコリピチェーノが評判通りの馬だとしたら、倒すのは至難の業でしょう。ですが、競馬に絶対はありません。ご存じの通り、レースには運も大きく関係してきますし、それが味方してくれると良いですね」
ゴールデンイーグルは南半球の4歳馬、北半球の3歳馬を対象とした今年で6回目のレースで、メルボルンのヴィクトリアダービーと同じ週に開催される。
アスコリピチェーノは事前の前売りでは1番人気に推されているが、地元勢も有力馬が揃っており、さらにウィリアム・ハガス厩舎のレイクフォレストも参戦を予定している。
地元勢はジョリースター、サウスポートタイクーン、ステフィマグネティカ、そしてマカレナといった実績馬を揃えている。前走は残念な結果に終わったものの、セレスティアルレジェンドやヴェイトも、調子を上げてくれば面白い存在だ。
ベリーは今週末にランドウィック競馬場で行われるG1・エプソムハンデキャップで、トムキトゥンに騎乗する。また、10月19日に行われる総賞金2000万豪ドルのジ・エベレストでは、サンシャインインパリスとコンビを組む。
「トムキトゥンは19番枠を引いてしまいましたが、ランドウィックのマイル戦は枠はそこまで関係ありません。向こう正面では良い走りを見せてくれますし、スペースを空けて走るのが好きな馬です。外枠はむしろ好都合です。前走は良い内容だったと思います。その日誰も通らなかった馬場を走りましたが、良い脚を使ってくれました」
「サンシャインインパリスは休み明け初戦で素晴らしい勝利を収めることができましたし、勝ち時計も良かったですね。昨年も怪我をするまでは、エベレストの有力馬でしたから。今回は休み明け2戦目のフレッシュな状態で走れますし、そういう時の成績も良い馬です。前走から5週間の間隔が空くので、人気は落ちるかもしれませんけどね」
2019年にオーストラリアに遠征した日本馬のクルーガー、この馬の鞍上を任されたのもベリーだったが、この騎乗依頼を仲介したのは日本在住のジョッキーマネージャー、アダム・ハリガン氏だった。コラソンビートの騎乗依頼も彼が手配した。
クルーガーは2019年のG1・ドンカスターハンデで4着に入った後、ベリーが陣営を説得してG1・クイーンエリザベスステークスに転戦した。このレースは、ウィンクスの引退レースとしても知られている。
この歴史的なレースでクルーガーは2着に入ったが、ベリーにとって今でも思い出深い瞬間の一つだ。
「是非ともクイーンエリザベスを使ってほしいと頼んだのですが、日本では中1週で走らせることはあまり無いんですよね」
「レース後も状態は良かったので、説得して出走が叶いました。直線半ばくらいまではウィンクスに食らいついていましたが、最後はやはりチャンピオンが強かったです」
「その場に立ち会えて本当に興奮しました。勝利に手が届かず帰ってきたなのに、こんなに喜んで出迎えてくれる陣営は初めてでした。まるで勝ったかのように飛び跳ねて、喜びの声を上げていました。迫った馬がどんな相手なのか、彼らは相手を高く評価してくれていたんです」