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ジョアン・モレイラ騎手が最後に香港ダービーに騎乗してから3年が経過した。そんなブラジルの名手が、パッキングエンジェルという有力馬と共に日曜日の香港ダービーの大舞台に挑む。さらに彼を後押しするのは、最近シャティン競馬場で受けた熱い声援だ。気まぐれで、時に辛辣な香港のファンたちが、彼に再び温かい支持を送っている。

モレイラが香港を離れたのは2021年11月のことだった。慢性的な股関節の痛み、そして精神的な疲弊に苦しみ、香港を去る決断を下して以来、同地に戻る機会は限られていた。

しかし、その後も香港の一部メディアでは「本当は負傷していなかったのではないか」「モレイラは4度リーディングを獲得したが、香港を愛していなかったのではないか」といった報道が繰り返し流された。根拠のない憶測や悪意のある噂が広まる中、彼の実際の苦悩や決断が軽視されることもあった。

だが、そのような噂は事実無根だ。モレイラの慢性的な股関節の問題は適切な治療と調整によって今は改善され、負担を軽減した状態であればトップレベルのレースにも耐えられるまでに回復している。また、故郷のブラジルに戻ったことで、かつて打ちのめされた精神もリフレッシュされ、香港は今も彼とその家族にとって特別な場所であり続けているという。

「今は精神的にも肉体的にも良い状態です」とモレイラはIdol Horseに語った。香港ダービーではパッキングエンジェルの前走以上のパフォーマンスを期待し、その後は日本に渡ってJRAのレースに3月29日から4月27日まで騎乗する予定だ。

2週間前、モレイラはクラシックカップでパッキングエンジェルの手綱を取るために香港へ戻った。それは彼にとってはかつての栄光の日々を思い起こさせるものだった。シャティン競馬場を沸かせた数々の大レース制覇、そして彼の勝利を祝福するファンの大歓声、それらが彼の胸に蘇ったのだった。

「前回香港に戻った時は、思っていた以上に楽しい時間を過ごせました」とモレイラは振り返る。「以前も話したことがありますが、香港を去るときは本当に辛い気持ちでした。望んでいた形での別れではなく、痛みを抱え、精神的にも厳しい状況でした。でも、それが当時の自分にとってそれ以外の選択肢はなかったんです」

「ただ、クラシックCのために香港へ戻ったとき、多くの人が自分のこれまでの功績を評価してくれていると実感できました。それがすごく嬉しかったですね。だからこそ、ダービーで再び騎乗できることを楽しみにしています。香港の調教師たちからも多くのサポートをいただいていますし、ダービーデーにはかなりの騎乗依頼を頂いています」

Moreira and Rapper Dragon claim the 2017 Hong Kong Derby
JOAO MOREIRA, RAPPER DRAGON / Hong Kong Derby // Sha Tin /// 2017 / Photo by HKJC

ジョアン・モレイラにとって最も重要なのは、やはり香港ダービー本番だ。彼は、パッキングエンジェルとともに、自身3度目のダービー制覇を狙う。過去には2017年のラッパードラゴン、2021年のスカイダーシーでこの大一番を制している。

フランシス・ルイ厩舎のパッキングエンジェルは、1400mのハンデ戦を3連勝した後、前走クラシックC(1800m)に3.6倍の1番人気で出走。モレイラを背に内ラチ沿いを進み、直線で外へ持ち出したが、勝ったルビーロットから1馬身3/4差の4着に敗れた。しかし、モレイラはこの走りを前向きに捉え、200mの距離延長となるダービーに向けて充分な手応えを感じている。

「最内枠だったので、ラチ沿いでレースを進めることになりました」とモレイラ。「そこで彼を押して前に行くのか、それとも馬のリズムを重視して最大限の力を発揮させるのか、選択が必要でした。結局、私たちは後者を選んだんです」

モレイラとルイ調教師は、パッキングエンジェルが距離延長に適応できるようにレース運びを重視し、馬自身のリズムを優先させる形を取った。これが同馬にとってベストだと感じていた。

「レースの展開を考えれば、彼があの位置になるのは必然でした。最初の600~800mはかなり速いペースで流れていましたし、無理についていく必要はないと判断しました。だからこそ、あのポジションで進めることができたのは良かったと思います」

「確かに一見すると、私は内で閉じ込められたように見えたかもしれませんが、実際にはそうではありません。馬群の中でポジションを調整しながら、速いペースで飛ばした馬たちが400mを過ぎて失速してくるタイミングを見計らって外へ持ち出しました。直線ではしっかりとスペースを確保して伸びることができました」

「1番人気だったし、私もファンと同じように勝ちたかったですし、多くの人が大きな期待を寄せていました。でも、彼にとって初めての距離でしたし、それを考えれば決して悪いレースではなかったと思います。望んでいた結果には届きませんでしたが、彼の能力の高さは充分に示されたと思います。今回の走りを見ても、ダービーの舞台に立つにふさわしい馬だと思っています」

パッキングエンジェルが2000m戦を制し、4歳世代の頂点に立つにはさらなる成長が求められる。しかし、モレイラは今年の香港ダービーが例年ほど層が厚くないと見ており、ニュージーランド産の同馬にも十分にチャンスがあると考えている。

「これまでのダービー馬の中にも、彼と同じような戦績、あるいはもっと悪い戦績で勝った馬も見てきました。距離適性に不安があるのは確かですが、私自身、ベストな距離が2000mでない馬でも、その日に限ってその距離で結果を出す場面を何度も経験しています」

「今年のダービーは混戦模様だと思います。決してレースの価値を軽視したり下げるつもりはありませんが、少なくとも今の香港の4歳馬のレベルを見る限り、特に2000m戦において強力とは言えないと感じています」

モレイラは香港ダービーの騎乗を終えた後、3月29日から4月27日までJRAで騎乗予定だ。昨年の同時期には吉田勝己氏の所有馬、ステレンボッシュでG1・桜花賞を制し、日本でのクラシック競走初勝利を飾った。今年はG1・大阪杯がドバイワールドカップと同じ週に開催されるため、多くの日本馬たちが遠征し手薄になる日本のG1レースでチャンスをつかみたいと考えている。

「来日2週目には、多くのジョッキーがドバイに遠征する予定なので、その間に良い馬に乗れるチャンスを最大限に生かしたいですね」

「継続的に日本で結果を出していくことが重要ですし、できるだけ長く短期免許の資格を維持したい。もし、今年もう1つG1を勝てば、2026年と2027年の短期免許取得資格が得られるので、それを目標にしています」

「今回は2ヶ月間の日本滞在という選択肢もありましたが、私は1ヶ月だけにしました。家にはまだ幼い子どもがいますし、あまり長く離れすぎたくないという気持ちもあります」

Moreira completing trackwork in Brazil
JOAO MOREIRA / Curitiba, Brazil / Photo by Idol Horse

モレイラの3人の子どものうち最年少は約15ヶ月。41歳の彼が現在、ブラジルでの生活を満喫している理由の一つは、家族と過ごす時間が増えたことにある。そして、レース騎乗を続けながらも心身の健康を第一に考える日々を送っている。

「ブラジルでも成功していますが、それ以上に自分の健康を維持し、アクティブでいられるようにしています。そして競馬に関わる人々と交流することを大切にしています。私が競馬が大好きなのは間違いありません」

「ただ、ここは大きな賞金を稼ぐ場所ではなく、生計を立てる程度のものです。賞金額は低く、レース数も減っているからです。でも今の自分は乗る馬を選べる立場にあるので、とても楽しんで騎乗できています」

「ブラジルでの騎乗も十分に楽しめていますし、すべてが順調です。これ以上を求める必要もないでしょう。リーディング争いには興味がありません。以前はトップにいましたが、他の国での騎乗に時間を割いていたため、あえてそこにこだわるつもりはありませんでした」

今後もしばらくは、このライフスタイルを維持することになりそうだ。ブラジルを拠点に、心身のケアをしながら馬たちと向き合い、家族や友人に囲まれた穏やかな日々を送りつつ、世界各地の大レースに短期遠征するスタイルだ。

そして今週日曜日には、久しぶりに訪れる香港でパッキングエンジェルとの勝利を目指す。シャティンのファンとともに再び歓喜の瞬間を分かち合いたいと願っている。

「香港に戻るのが楽しみです。あとは少し運が味方してくれれば。ダービーですからね……何が起こるかわかりませんよ」

デイヴィッド・モーガン、Idol Horseのチーフジャーナリスト。イギリス・ダラム州に生まれ、幼少期からスポーツ好きだったが、10歳の時に競馬に出会い夢中になった。香港ジョッキークラブで上級競馬記者、そして競馬編集者として9年間勤務した経験があり、香港と日本の競馬に関する豊富な知識を持っている。ドバイで働いた経験もある他、ロンドンのレースニュース社にも数年間在籍していた。これまで寄稿したメディアには、レーシングポスト、ANZブラッドストックニュース、インターナショナルサラブレッド、TDN(サラブレッド・デイリー・ニュース)、アジアン・レーシング・レポートなどが含まれる。

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