騎手として、何度もG1勝利を味わってきたジェラルド・モッセ。その伝説的ジョッキーが、今度は調教師として、まったく新しい角度から頂点を目指す。来る7月27日の日曜日、ドイツ・ミュンヘンで行われるG1・ダルマイヤー大賞(バイエルンツフトレネン)に、管理馬のグランドスターズを送り出す。
香港では往年の名馬、リヴァーヴァードンの手綱を取ったことで知られるモッセ元騎手は、母国フランスで調教師としてのキャリアを開始。昨年11月、グランドスターズでサンクルー競馬場のリステッド競走を制し、初勝利を挙げた。
「騎手の時は大きなレースを何度も勝たせてもらいましたけど、調教師としては小さなレースでも感情がこみ上げてくるんです」とモッセ師は率直に語る。
「この感覚はまったく違いますし、本当に特別なものです」
自身が騎手として2021年にこのレースをスカレティで制し、さらには凱旋門賞、メルボルンカップ、香港カップを2度制覇しているが、調教師として挑む今回はまた別の気持ちがあるという。
「大きなレースか小さなレースかは関係ないと思います……まあ、まだ大きなレースを勝っていないからこう言ってるのかもしれないですけどね」と笑いながら語るモッセだが、その眼差しは真剣だ。
「でも、もし本当に大きなレースを勝てたとしても、きっと同じ気持ちになると思いますよ」
そして今、彼は調教師という仕事の重みを実感している。
「調教師は、本当にやることがたくさんあります。全部をまとめて、うまくいった時に初めて『やりきった』という実感が湧くのです。それは本当に大きな満足感です」
現在、モッセはシャンティイのマノワ・デュ・サングリエに厩舎を構え、およそ50頭を管理している。デビュー年ながら25頭を出走させ、すでに17勝を挙げている。中でも、4歳牝馬・グランドスターズの成長ぶりには並々ならぬ手応えを感じているという。
「彼女は毎日、確実に良くなっています。前走はG3でゴリアットという一流馬の2着でしたが、その前はG2でも好走しました。だから今回は繁殖を見据えてG1に挑むことにしたんです」
「理想は、ここで勝って繁殖価値を上げること。それがオーナーにとってベストな結果になります。ただ、馬場が速くなったら不利かもしれません。彼女は柔らかい馬場を得意としていますからね。でも、今はとても良い状態にありますし、前走以上のパフォーマンスができると思います。勝利を断言はできませんが、きっといい競馬をしてくれるでしょう」
「調教していて本当に面白い牝馬です。個性とキャラクターがあって、決して悪い意味ではなく、ちょっと “マダム” っぽいところがあります。だからこそ芯が強くて、負けん気もあるんです」とモッセは目を細める。

今回のダルマイヤー大賞には、ファクトゥールシュヴァルやゴドルフィンのトルネードアラートといった強豪の参戦も見込まれており、グランドスターズにとってはG1級の資質を示すには絶好の舞台となるだろう。この一戦が、今後の海外遠征への足がかりとなる可能性も秘めている。
「彼女には世界の大レースに出ていけるだけの資質があります」とモッセは力強く断言する。「柔らかめの馬場の方が得意ですが、2000mのG1なら、海外でもしっかり戦える力があると思います」
調教師としてのキャリアは始まったばかりだが、すでに厩舎作りには力を入れてきた。とはいえ、他の多くの調教師と同じく、課題は「良い馬とオーナーをいかに集めるか」に尽きる。
「でも、父も調教師でしたから、この世界がどういうものかはよく分かっているつもりですよ」とモッセ。「それに僕は、40年以上にわたって世界中で騎手として乗ってきました。その経験が少しは助けになっていると思います」
そして最後に、彼は静かにこう締めくくった。
「これこそ、ずっとやりたいと思っていた仕事なんです」