2025 NHKマイルカップ: G1レビュー
競馬場: 東京競馬場
距離: 1600m
総賞金: 2億8310万0000円 (197万3159米ドル)
日曜に行われたG1・NHKマイルカップ(芝1600m)で接戦を制したパンジャタワーが、G1・日本ダービー(芝2400m)の伏兵候補として名乗りを上げた。
オーナーの深沢知房氏は、マジックサンズにアタマ差で勝利した同馬について、キングカメハメハ・ディープスカイという、これまで三歳マイルとクラシックの両方を制した2頭の後を追う可能性があると語っている。
レース展開
18頭がほぼ揃ったスタートを切ったが、外枠から発走したコートアリシアンが大きく外側へ逸走し、スタート直後に混乱が生じた。騎乗していた菅原明良騎手が懸命に抑えようとしたが、なかなか制御が利かず、100m通過時点で先団から25馬身もの差をつけられる展開となった。
一方、1番人気のアドマイヤズームは好スタートを切り、序盤から先団につける積極的な競馬を見せた。ランスオブカオス、トータルクラリティ、ティラトーレ、ヴーレヴーらも前に出て、ハイペースを演出。最初の600mは33秒4で通過し、これは本レース30年の歴史の中でも最速タイ、東京マイル戦としても歴代4位タイの記録的なハイペースだった。
パンジャタワーは中団やや後方の外目、チェルビアットの外にポジションを取った。一方、マジックサンズは18頭立ての中で後方2番手、前にいるのはコートアリシアンだけという位置取りだった。最初のコーナーを回る頃には、アドマイヤズームはうまく内ラチ沿いの3番手に収まっていた。
直線入り口では、川田将雅騎手が手綱をしごきながらアドマイヤズームを先頭に立たせた。しかし400m標識を過ぎたあたりで追い出されるも反応は鈍く、250m付近ではパンジャタワーに交わされてズルズルと後退していった。
対してスムーズに加速したパンジャタワーは一時モンドデラモーレに並ばれたものの、次の焦点はインから脚を伸ばす馬たちに移った。急追したのはマジックサンズと、進路を巧みに切り替えながら伸びてきたチェルビアットだった。この2頭が迫ったが、最後は勢いの差が明暗を分け、パンジャタワーがマジックサンズをアタマ差で振り切った。チェルビアットはさらにハナ差の3着に食い込んだ。
なお、逸走して後方からレースを進めたコートアリシアンは、内を巧みに立ち回って10着に入線。着差はわずか4馬身半と、内容の濃い走りだった。

勝ち馬・パンジャタワー
単勝25倍の9番人気で臨んだパンジャタワーだが、2歳時には高い評価を受けていた。G2・京王杯2歳ステークス(芝1400m)を制し、同レースでは後のG3・サウジダービー(ダート1600m)2着馬シンフォーエバーらを退けている。その後、G1・朝日杯フューチュリティステークス(芝1600m)では4番人気に推された。
しかし、その朝日杯ではアドマイヤズームに11馬身差の12着と大敗。今年3月のG3・ファルコンステークス(芝1400m)でも4着に終わり、世代トップのマイラーとは言い難い成績だった。
加えて今回の勝利は、父タワーオブロンドンにとっても『雪辱』の意味を持つ。2018年のNHKマイルカップで1番人気に支持されながら、ケイアイノーテックの12着に敗れた同馬にとって、パンジャタワーは初年度産駒であり、これが初の産駒G1勝利となった。
勝利陣営
松山弘平騎手にとって、今回の勝利はJRA・G1で通算6勝目となり、2021年のチャンピオンズカップ(テーオーケインズ)以来、およそ3年ぶりのG1制覇となった。6勝のうち5勝は三歳戦で挙げたもので、デアリングタクトで牝馬三冠を達成し、皐月賞ではアルアインで勝利。そして今回、パンジャタワーでNHKマイルカップを制した。
栗東所属の橋口慎介調教師は2015年に開業。これまでG1勝利は2回あるが、いずれもグレイスフルリープでのもので、JBCスプリントと韓国・ソウルで行われたコリアスプリントのG1だった。いずれも国際G1には該当せず、今回のパンジャタワーでの勝利が、橋口調教師にとって初の国際G1かつJRAでのG1初制覇となった。
馬主の深沢知房氏は、自身が展開する「Deep Creek」名義での初G1勝利を挙げた。このDeep Creekという屋号は、武豊騎手が手綱を取った名馬ディープインパクトとスーパークリークに由来しており、同時に自身の名字『深沢』を英訳した言葉遊びでもある。
期待の新外国人騎手
チェルビアットはアタマ+ハナ差の3着に敗れたものの、今回がJRA・G1初騎乗となったマイケル・ディー騎手にとって、この一戦は日本での名声を築く転機となるかもしれない。
ディーは4月26日に短期免許で来日したが、初日には落馬を喫し、その後51戦して勝利は東京芝2000mの条件戦(アスクカムオンモア)での1勝のみという苦しい滑り出しだった。日本競馬界は評価の定着が早く、短期間で結果を出さなければならない中で、ディーに残された時間は少なかった。
そんな中で、G1・桜花賞(芝1600m)6着からの参戦となった単勝72倍の人気薄、チェルビアットで好騎乗を見せた。内枠から我慢の競馬を展開し、絶妙のタイミングで仕掛けたラストスパートは見事だった。あと数完歩あれば勝っていた可能性もあったほどの鋭い伸びを見せた。
ディーは来週、同じ東京芝1600mで行われるG1・ヴィクトリアマイルで、シルクレーシング所属の重賞馬ミアネーロに騎乗予定だ。同レースは2019年にダミアン・レーン騎手がノームコアで日本でのG1初制覇を達成した舞台でもあり、ディーもレーンのように、日本の有力陣営が信頼を寄せる存在へと歩みを進めていく可能性がある。

レース後コメント
松山弘平騎手(パンジャタワー・1着):
「ポジションとしては良い所で収まっていましたし、ポジションはあまり考えずに、パンジャタワーのリズムで走ろうとレース前は考えていました。スタートを上手に出てくれて、本当にリズム良くいい形の競馬が出来たと思います」
「(直線は)頼む、という気持ちで最後は必死に追っていました。デビューした時から凄く力のある馬だなと思っていて、東京で重賞勝ちもしていますし、最後に脚を使える馬なので、そういった競馬を今日も心掛けましたが、しっかり伸びてくれました。まだまだ馬は成長できると思いますし、本当にこれからが楽しみです」
深沢知房オーナー(パンジャタワー、1着)
「スタッフ、調教師と相談しながらゆっくりと考えますが、6月1日(ダービー)は捨て切れません。選択肢のひとつにあります」
武豊騎手(マジックサンズ、2着):
「レース前はテンションが高くて、馬混みはやめた方が良いと思っていました。狙ったレースはできました。あと少しでした。惜しかったです」
須貝尚介調教師(マジックサンズ、2着):
「もう少しでした。勝ち馬を褒めるしかありません。最後はインからよく伸びてくれました。2着に入ったので、ダービーの出走資格はあると思いますが、行きません。秋のマイルチャンピオンシップに向けて、一度休養に出す予定です。」
マイケル・ディー騎手(チェルビアット、3着)
「リズムよく走らせることをプランとして考えていて、その結果があの位置取りになりました。テンションが上がりやすい馬なので、できるだけリラックスさせるよう努めましたが、いざレースに入ると引っ掛かることもなく、スムーズに走ってくれました」
「直線ではすぐに反応してくれましたし、あそこまで来たら本当に勝ちたかったです。運はなかったですが、素晴らしい走りだったと思います。」
戸崎圭太騎手(モンドデラモーレ、4着)
「1枠だったので、内々で上手く折り合って、脚を溜めていました。4コーナーでは良い感じでした。しかし、追い切りでもそうだったのですが、追ってからのフットワークがもう一つでした。そこが変わってくれば良いですね」
吉村誠之助騎手(ランスオブカオス、5着)
「ペースが流れてしまいました。ゲートを上手く出てくれて、枠も本来なら内枠ということで良かったのですが、今日に限っては正直内外の差は僕はあったなと芝に乗っていて感じました。想定していたくらいのポジションで運べました」
「ただ想定よりペースが流れてしまったので、ペースが流れてしまったところで追走してしまったのと、内外の差があったのかなと思います」
ダミアン・レーン騎手(サトノカルナバル、6着)
「外枠から良いスタートを切ってくれました。壁を作るのに一列ぐらい後ろになりましたが、道中はリズム良く、手応え良く運べました。直線では、スペースを作るために外へ持ち出して、残り400mでは良い脚を使ってくれました。力を出し切って頑張ってくれたと思います」
クリストフ・ルメール騎手(イミグラントソング、11着)
「1番人気の馬の後ろでちょうど良いポジションでしたし、手応えはずっと良かったです。しかし、坂を上ってから伸びませんでした」
川田将雅騎手(アドマイヤズーム、14着)
「3コーナーから走りがおかしくなりだしたのですが、よくよく見ると、スタートをして200、300で落鉄をしていたので、その影響がそこから出たなというところです。また改めてです」
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パンジャタワーについては、引き続き東京優駿(日本ダービー)への出走が検討されている他、その翌週のG1・安田記念(芝1600m)で古馬と対戦する可能性も視野に入っている。
一方、須貝調教師が語ったように、マジックサンズは秋のマイルチャンピオンシップを目標に一度休養に入る予定である。チェルビアットの次走については、現時点では未定となっている。