札幌で開催された第40回アジア競馬会議(ARC)に登壇した武豊騎手とクリストフ・ルメール騎手は、騎手の健康と安全、そして鞭のルールが与える影響について講演の中で言及した。
「今年、日本では多くの騎手を亡くしました。騎手の安全は最優先であるべきです。事故が無いことが一番です」
講演の中で、武豊騎手は騎手の安全について言及し、「プレッシャー・危険・ストレス」と戦わなければいけない仕事だと話した。
今年の4月には、JRAの藤岡康太騎手がレース中の落馬事故のため、35歳で亡くなった。レース中に死亡事故が起こったケースは、JRAでは2004年以来となる。同じくJRAの角田大河騎手も、車で函館競馬場に侵入した事件で騎乗停止処分を受けた直後の8月に、21歳の若さで亡くなった。地方競馬でも、高知の塚本雄大騎手が3月24日に落馬事故で亡くなっている。
ルメール騎手は、過去数十年の間に騎手の安全と健康の面で重要な発展があったこと、そうした歩みを継続していく必要性を強調した。
「騎手と馬の安全に関しては、過去20年間で見られた改善を嬉しく思います。舞台裏では大勢の方々が改善に向けて働いていますし、その努力は認められるべきです。たとえリスクがゼロでなくとも、徐々に減らしていこうと動いています」
ルメール騎手は危険性についてこのように語り、競馬という競技に潜むリスクを完全に排除することは不可能に近いとした。

また、ルメール騎手は鞭の使用と世界各地で異なるルールについて意見を求められる機会もあった。日本のJRAでは、鞭の使用規則に回数制限は存在しないものの、『適切な使用』を求めている。香港のルールもこれと同様だが、ヨーロッパやアメリカの一部地域では、より厳格に、より罰則も厳しいルールが設けられている。
イギリスでは、鞭の使用回数に関する制限が設けられており、レース中は6回のみ認められている。フランスは最大4回とされている。アメリカでは州によって異なり、多くの州では制限は存在しないが、カリフォルニア州とニュージャージー州では6回までに制限されている。
「鞭の正しい使い方について取り組んでいる人々がいるのは理解していますし、競馬のイメージという観点でもそうですが、それが競馬界が直面している一番の問題かどうかは分かりません」
「海外で乗るとき、騎手にとって一番の懸念は競馬場のコース形態ではなく、鞭の使用ルールです。何回まで使えるのか?騎乗停止はどのくらいなのか?罰金はどのくらいなのか?」
ルメール騎手がこのように語る一方で、武豊騎手もその意見に同意だと話した。
「正直な話、今の鞭の使用ルールに関して納得している人は少ないと思います。鞭の使用には色々な意味合いがあります。真っすぐ走らせるため、時には安全のために使う場合もあります。しかし、それで騎乗停止になるのは不満に思います」
「もっと厳しい使用回数制限が設けられるのであれば、それは望ましくないですし、殆どの騎手も同意してくれると思います」

ルメール騎手はこの問題について、教育が解決策の一歩だと訴えた。
「若い騎手に適切な使い方を教えること、裁決委員にも鞭を正しく使っているかどうか見分ける方法を知ってもらうべきです」
「我々はホースマンとして、鞭を打つのは痛みが目的ではなく、馬がまっすぐ走るのを手助けしたり、加速の合図だと世間に知ってもらう必要があります。きちんと広めれば理解してもらえるでしょうし、(いくつかの地域では)今以上に規制を厳しくする必要はありません」