2025 オークス: G1レビュー
競馬場: 東京競馬場
距離: 2400m
総賞金: 3億2650万0000円 (226万2835米ドル)
ドイツの名手アンドレアシュ・シュタルケ騎手は、日曜日の東京競馬場で行われたG1優駿牝馬(芝2400m)でカムニャックに騎乗し、今年日本でG1を制した外国人騎手の一人として名を連ねた。
シュタルケにとっては、長年挑戦し続けた末の日本G1初勝利となった。
友道康夫調教師が管理するカムニャックは、2021年のユーバーレーベン以来、桜花賞を経由せずに優駿牝馬を制した初の牝馬となった。カムニャックは、阪神ジュベナイルフィリーズの勝ち馬アルマヴェローチェをアタマ差で退けて勝利を手にした。
勝ち馬・カムニャック
「カムニャック」は、ケニア北部のサンブル語で「祝福された者」という意味を持つ。その名の通り、15番ゲートから抜群の騎乗を見せたシュタルケによって樫の栄冠に導かれた。
馬主は金子真人氏。カムニャックの父ブラックタイドおよび、その全弟で日本競馬の血統を大きく変えたディープインパクトの両方を所有していた人物である。生産は社台ファームの吉田照哉氏。祖母ダンスパートナーは1995年の優駿牝馬の勝ち馬である。
カムニャックはデビュー戦の2000m戦を勝利したものの、その後マイル戦ではスピード負けして連敗。しかし前走のG2・フローラステークス(芝2000m)で距離を戻すと本領を発揮し、快勝していた。
カムニャックはこれにより、フローラステークスと優駿牝馬の二冠を達成した史上2頭目の牝馬となった。もう一頭は、社台ファーム生産馬サンテミリオンで、彼女は金子氏が所有するアパパネと同着優勝を果たしているという因縁がある。

勝利騎手・シュタルケ
アンドレアシュ・シュタルケは、ドイツおよびイタリアで数多くのG1レースを制してきたほか、2004年にはシンガポール航空国際カップをエパロで、2011年には凱旋門賞を、2012年にはキングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスを、それぞれドイツの名牝デインドリームで制している。
しかしながら、日本ではこれまで24回のG1騎乗を重ねながら未勝利であり、その挑戦は1997年のジャパンカップにおけるカイタノの4着まで遡る。
そのシュタルケに、ついにカムニャックがG1初勝利をもたらした。これにより、シュタルケは2001年にレディパステルで優駿牝馬を制したケント・デザーモ以来、短期免許でこのレースを制した初の外国人騎手となった。また、優駿牝馬の歴史の中で最年長の勝利騎手にもなった。
この勝利により、今年日本で行われた9つの国際G1レースのうち、6レースを短期免許の外国人騎手が制したことになる。すなわち、レイチェル・キング(フェブラリーステークス)、ジョアン・モレイラ(高松宮記念、桜花賞、皐月賞)、ダミアン・レーン(天皇賞・春)、そしてシュタルケがそれぞれ勝利を収めた。
また、先週のヴィクトリアマイルを制したクリストフ・ルメールを加えれば、今年の日本出身ジョッキーによるG1勝利は横山和生(大阪杯)と松山弘平(NHKマイルカップ)の2名のみということになる。
勝利調教師・友道康夫
友道康夫調教師は、これまでにマカヒキ、ワグネリアン、ドウデュースでG1東京優駿(日本ダービー)を3度制している。しかしながら、牝馬クラシックである優駿牝馬にはこれまで縁がなく、2012年のヴィルシーナ、2023年のハーパーでそれぞれ2着に入りながらも、いずれもジェンティルドンナやリバティアイランドといった名牝に大きく突き放されての敗戦だった。なお、彼の管理馬ヴィブロスはこのレースには出走していない。
友道調教師は、管理馬を海外に遠征させることを厭わないタイプとしても知られており、いずれはカムニャックを海外遠征に送り出す可能性も十分にある。たとえば、来年のドバイ・シーマクラシックなどが視野に入っていても不思議ではない。
敗れた陣営
アルマヴェローチェに騎乗した岩田望来騎手は、ゴールの数完歩手前で一瞬だけ追うのを緩めたようにも見え、その判断が着差に影響したのではないかとの指摘もある。いずれにしても、惜しくも勝利には届かなかったものの、全体としては非常に優れた騎乗であり、アルマヴェローチェが今年の3歳牝馬戦線における実力馬であることを改めて印象づける内容だった。
調教師の千田輝彦氏は、免許取得から14年を経て、今回初めてG1で馬券圏内に入る結果を出した。しかも、その快挙は伏兵タガノアビーの3着にとどまらず、もう1頭の管理馬パラディレーヌが4着に入ったことでさらに際立った。勝利こそ逃したものの、千田調教師にとってはキャリア最高の成果と言ってよい内容だった。
3番人気に推されていたリンクスティップは、直線で進路が塞がれる場面が複数回あり、本来の力を発揮しきれなかった印象だ。秋華賞では距離短縮が好転する可能性がある。
1番人気のエンブロイダリーは、道中折り合いを欠いてしまい、直線では脚を使えず9着に沈んだ。今後はより短い距離での活躍が見込まれる。
レース後コメント
アンドレアシュ・シュタルケ騎手(カムニャック・1着)
「ペースがそこまで流れていませんでしたので、どうなるかなと思っていたのですが、直線で前が空いてからすごく良い脚を使ってくれましたし、4週前に勝ったばかりだったのですが、今日は以前ほど掛かる感じもなく、リラックスして走れましたし、素晴らしい能力を見せてくれました」
「彼女に感謝したいです。G1を日本で勝つことが夢だったので、それが叶ったことはうれしく思っています。数週間前に、春の天皇賞でビザンチンドリームに乗って2着という結果で悔しい思いをしましたが、今日はレベルの高い18頭の馬たちの中で、彼女の力を発揮させることができました。これ以上の喜びはない、という気持ちです」
「(短期免許で)今まで3か月、サポートしてくださった皆さんに感謝したいと思います。チャンスをくださった友道先生、関係者の皆さんに感謝したいと思います。来週のダービーに騎乗するチャンスがあるかもしれない、ということなので、頑張りたいと思っています」
「(カムニャックについて)こういう能力のある馬なので、これからもチャンスがあると思います」

友道康夫調教師(カムニャック・1着)
「春はオークスにようやく間に合ったという感じでした。まだまだ、夏を越して秋に良くなってくると思うので、分かりませんがまずは秋華賞を第一に目指すことになると思います。そのあとは距離ももつだろうし、2000m以上のG1で頑張ってもらえればと思います」
金子真人オーナー(カムニャック・1着)
「勝つとは思わなかったから。勝ち慣れてる僕としても、最後は珍しく興奮した。シュタルケはニコニコしているけど、話しててもやる気満々だったから」
「ブラックタイドについてはは大して考えていなかったけど、勝ったときに考えました。ディープインパクトのお兄さんで兄弟どっちもセリで落札した馬なんです。運があったなって思います」
吉田照哉氏(社台ファーム代表・カムニャック生産者)
「生まれながらにしていい馬でした。キタサンブラックがいたからサクラバクシンオーの牝馬にブラックタイドをつけた。1歳のセリで出したんだけど、牝馬とは思えないくらい雄大で、ノビノビとした馬だった。バクシンオーにしては距離が保つ。アルテミスSを使って失敗した。シュタルケは長距離がうまいね」
「2歳はキズナの牡馬で加藤士津八厩舎に入っている。当歳はエピファネイアの牝馬。今年はコントレイルを種付けしたけど、受胎したかはまだ分かっていない」
岩田望来騎手(アルマヴェローチェ・2着)
「理想のポジションを取れましたし、良いところで競馬が出来たのではないかなと思います。結果だけが残念でしたが、勝ち馬が強かったです。また秋に巻き返したいです」
ミルコ・デムーロ騎手(リンクスティップ・5着)
「スタートは出ましたが、この馬場が得意ではありませんでした。のめってしまって、全然ペースアップ出来ませんでした。向正面はすごくペースが遅くなりましたので、ワンペースな馬なので少し早めに踏んでいきました。3、4コーナーではすごく良いところに行くことが出来て、本来なら勝つパターンでしたが、直線に向いてからも馬場が合いませんでした。能力だけで5着に来てくれました。自分の力を出しきれませんでした。とっても良い馬です」
クリストフ・ルメール騎手(エンブロイダリー・9着)
「直線に向くまで引っ掛かっていましたし、まったく落ち着いていませんでした。こういう馬場で、伸びることが出来ませんでした。他の馬が伸びた時、彼女は落ち着きました。特にこういう馬場だと、短い距離の方が良いです」
この先は?
カムニャック、アルマヴェローチェの2頭は、10月19日のG1・秋華賞(2000m)で再び相対する可能性が高い。また、過去10年のオークス馬のうち、7頭は後に11月のジャパンカップ(2400m)に出走している。カムニャックも同じ道を辿る可能性は高い。