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1978年、ハッピーバレー競馬場での最後の香港ダービーが行われた数日後、オーストラリアの名コラムニストであり名実況アナウンサーでもあったジム・マグラス氏は、このレースを痛烈に批評した。

「香港の競走馬については、特に語るべきことなど何もない」とマグラス氏は綴っている。「全体的に見れば、レベル向上の努力はなされているものの、輸入される馬の多くは他国で見限られた馬にすぎない」

さらにマグラス氏は、「このダービーは、本場の競馬を知る騎手や調教師にとって、さほど価値のあるものではない」とも指摘し、「半ば人工的なイベント」とまで評した。しかし一方で、「(香港)ジョッキークラブが本腰を入れて取り組めば、シーズンの華となるレースに成長する可能性はある」とも述べていた。

それから半世紀近くが経った現在、マグラス氏の予言は現実のものとなった。その契機となったのは、1978年にシャティン競馬場が開場した直後、香港ジョッキークラブ(HKJC)が下したひとつの『決断』だった。

Jim Mcgrath in the caller's box at Royal Ascot
JIM MCGRATH / Royal Ascot // Photo by Ed Whitaker

シャティン競馬場に移って開催された最初の2回の香港ダービーは、8頭立てと5頭立てという、極めて少頭数のレースとなった。これを受けて、香港ジョッキークラブは思い切った決断を下す。従来のダービーの基準である3歳馬限定から、4歳馬限定のレースへと条件を変更したのだ。

それ以前の香港ダービーは、基本的にそのシーズンに輸入された馬が出走可能となっていた。

この『4歳馬限定』のルール変更は、アジア競馬界に新たな潮流を生み出した。マカオは1990年に4歳馬限定のダービーを創設し、シンガポールも1998年に同様の措置を取った。

興味深いことに、このルール変更により、ジョージ・ムーア厩舎の管理馬で、スタンレー・ホー氏が所有するヴィヴァパタカが、近代競馬において唯一2度の香港ダービーに出走した馬となった(1980年と1981年)。なお、この馬は、同じくスタンレー・ホー氏が所有し、2006年の香港ダービーをジョン・ムーア調教師の管理のもと制した同名の馬とは無関係である。

しかし、出走条件が変更された当初、このレースの質がすぐに向上したわけではなかった。それでも、1983年の伝説的名馬コータックや、1991年の世界を転戦したリヴァーヴァードンといった勝ち馬が誕生するにつれ、質・量ともに輸入馬のレベルが向上し、香港競馬の発展を象徴するレースへと成長していった。

現在では、ヴェンジェンスオブレイン、ヴィヴァパタカ、アンビシャスドラゴン、デザインズオンローム、ゴールデンシックスティ、ロマンチックウォリアー、ヴォイッジバブルといった名馬たちが名を連ねる栄誉ある勝ち馬リストが、このレースの価値を証明している。香港ダービーは、世界レベルの名馬を輩出するレースとしてその地位を確立したのだ。

Viva Pataca wins the 2006 Hong Kong Derby
VIVA PATACA, CHRISTOPHE SOUMILLON / Hong Kong Derby // Sha Tin /// 2006 //// Photo by Kenneth Chan

このレースは152年にわたり進化を続けてきた。19世紀後半には、香港競馬の年間最大のスポーツイベントとしての地位を確立し、戦前には中国から輸入されたポニーのみを出走可能とする時代もあった(一方、オーストラリア産のポニーは、シドニー近郊の地名にちなんで名付けられたルーティーヒルダービーで競われた)。

また、これまでに1600m(1マイル)から2400m(1マイル半)まで様々な距離で施行され、1月から5月の間の異なる時期に行われてきた。

そして2020年代に入ると、香港ダービーはさらに進化を遂げた。かつては高額で取引された即戦力の輸入馬がレースを席巻していたが、現在では未出走の状態で輸入され、香港で育成された馬たちが主役となり、頂点へと駆け上がるレースへと変貌している。

この先、香港ダービーが再び中国生産馬によって支配される時代が訪れるかもしれない。しかし、一つだけ確かなことがある。それは、このレースが香港競馬のシーズンにおいて『華』となる存在であり続けるということだ。

さて、冒頭の話に戻そう。現在、イギリスで競馬解説をするマグラス氏は、その一方で今も香港競馬の熱心なファンである。2022年の覇者・ロマンチックウォリアーのようなダービー馬たちが世界を牽引する今の時代、きっと彼は「香港の競走馬は世界に誇るべき存在である」と後押ししてくれることだろう。

Idol Horse reporter Andrew Hawkins

Hawk Eye View、Idol Horseの国際担当記者、アンドリュー・ホーキンスが世界の競馬を紹介する週刊コラム。Hawk Eye Viewは毎週金曜日、香港のザ・スタンダード紙で連載中。

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