新シーズンを迎えるに当たって、香港で一から厩舎を立ち上げるデヴィッド・ユースタス調教師。難しい状況からのスタートだが、辛抱強く取り組み、時にはライバルの先輩調教師にもアドバイスを求める姿勢で臨むと語った。
「厩舎に入ってみても、馬は一頭もいませんでした」
アンドリュー・ルジューンが司会を務める、Idol Horseのポッドキャストに登場したユースタスは、新しい土地での厩舎運営への取り組みを明かしてくれた。
「その後一頭だけ来たのですが、当然ながら一頭だけだと虚しい気持ちになりますよね。今では馬房も埋まっており、28頭の競走馬が入厩しています」
香港の新しい厩舎では、15頭の転厩馬、8頭の出走歴のある新馬(PP)、5頭の未出走新馬(PPG)という体制でスタートする。いきなりの『好スタート』が目標というわけではなく、着実に頭数を増やして評判を高めていく慎重なアプローチを目指しているという。
「順調に行けば、厩舎の初出走は9月26日です」
「転厩馬の多くはシーズン終了後に移籍しました。その後、短い休養期間を与えました。そこまでの長い休みは必要なかったので、短い休養ですね」
「何頭かの馬に関しては、番組の関係で9月末のレースを目標にしています。9月3日に最初のバリアトライアルを走らせて、28日に2, 3頭ほど出せればと思っています」

慎重かつ長期的なビジョンで成功を目指すユースタスの姿勢は、数字よりも内容を重視するその姿勢からも見て取れる。
「今シーズンの勝利数はまだ言えないですね。ただ、25~35頭くらいの勝ち馬を出せれば、大健闘だと思います」
「大所帯で始まったわけではないので、結果が出るまでは時間がかかると思います。自分が選んだ馬が期待通りの結果を出して、厩舎を支えてくれるオーナーさんが納得してくれる結果に繋がればと願っています」
「その結果、リピーターを得られたり、新しい馬主の獲得に繋がれば良いですね。もちろん、クラス3のレベルで活躍できるPPが何頭か現われたら嬉しいですね。そうなる可能性がある馬はいると思っています」
他の国では、調教師が幅広いレースの中から優位条件を選ぶことができるが、香港ではそうはいかない。香港独自のハンデ戦とクラス分けシステムの中では、入念な戦略が求められる。ユースタスは、それについても気を配っていると話す。
「PP(移籍前に出走歴がある馬)に関しては、実績のある馬に拘って選んだわけではありません。評判通りの馬か、伸び代はあるかどうかを重視して購入馬を選びました」
「ハンデ戦でレースをする場合、理論上はハンデキャッパーの評価を覆さないと勝てないわけです。それが重要なんです。費用や適応力の問題もあるので、ヨーロッパやオーストラリアで実績のある馬を買い漁れば良いというわけではありません。もし、最初のシーズンで掘り出し物を2頭、3頭、4頭くらい見つけられれば、大成功と言えますね」
香港競馬の競走馬はその殆どが南半球生まれだが、ユースタスはヨーロッパやアメリカといった地域からのスカウトにも可能性を見出している。とはいえ、良い馬を見つけ出すというのは、口で言うほど簡単なことではない。
水面下では多くの作業が行われており、ユースタスは信頼できる情報源に頼って仕事をしている。
「馬選びで重要なことは、人と人との信頼関係です。馬の気性面を知ることが大事になってきますからね。ご存じの通り、香港競馬の環境に適応できるかは気性が鍵となってきます」
「馬を売ろうとしている調教師やオーナーから率直なフィードバックを得られることは、大きな利点となってきます。厩舎の馬たちは自分の調教スタイルにきちんと応えてくれており、その点には満足しています」
ユースタスの馬選びはこれまで築き上げたコネクションに大きく頼っているが、ライバル調教師とのコネクションにも頼っていく姿勢だ。
これまで、デヴィッド・ホール調教師、ジョン・サイズ調教師、デヴィッド・ヘイズ調教師といったベテラン勢からアドバイスを貰ってきた。そして、厩舎の調教スタイルが似ているという点から、若手のジェイミー・リチャーズ調教師やマーク・ニューナム調教師にも話を聞いたという。
「そうしないのは愚かだと思います。長年成功してきた調教師たちに囲まれた環境にいるわけですし、彼らの存在には助けられています」
「大事なのはやり過ぎないこと。それは日々の調教でも明らかです。この環境は馬にとって良い面もありますが、負荷をかけ過ぎるのは悪影響です。それを念頭に置いています。ハードに追い込む調教師ではないので、その点ではいつも通りの姿勢です。今は、周りの人の意見を大事にして取り組んでいます」

ユースタスの厩舎運営でもう一つの大事にしている点は、馬の成績分析だ。オーストラリア時代は数多くの競馬場に管理馬を送り込んだが、香港には2つの競馬場しかない。
昨シーズン後半の香港競馬を観察し、レース選びや騎手選びを学んだと説明する。彼が重要視する要素だ。
何ヶ月にも渡る準備期間を経て、新シーズンに向けて万全の備えが整った。
「自分も良い成績を残したいですね。マーク(・ニューナム調教師)の1年目を見ると、非常に良い成績を残していますし、自分が選んだ馬で素晴らしい結果を出しています」