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2018年9月2日、クロノジェネシスが小倉競馬場1800mの新馬戦を勝利で飾った日から、およそ7年。同じ競馬場で、同じ距離、同じ騎手、同じ調教師、そして同じ勝負服の息子が鮮烈な競馬でデビューを飾った。

7月20日、伝統の夏の小倉開催、最終日に行われた新馬戦に登場したのが、斉藤崇史厩舎のベレシート。母のクロノジェネシスは、牝馬としては史上初の宝塚記念連覇を含め、史上3頭目の『グランプリ三連覇』を成し遂げた名牝。その初仔とだけあって、デビュー前から注目を集めたエピファネイア産駒の牡馬だった。

母とそっくりのプロフィールを持つベレシートだが、性別以外に異なる点がその毛色。クロノジェネシスは黒い芦毛でほぼ黒鹿毛のような風貌で知られていたが、ベレシートは黒鹿毛。時が経っても白くならないのが、母との決定的な違いだ。

また、偶然の一致ではあるが、1ヶ月前の6月13日にゲーム『ウマ娘プリティーダービー』でクロノジェネシスが実装。ウマ娘としての人気が高まったこともあり、その名は出走前からすでに広まり、注目度も日々高まっていた。

母の現役時代のライバル、カレンブーケドールの初仔であるハムタンが札幌でデビュー(2着)した新馬戦から10分後、ベレシートの初陣が小倉で幕を開ける。

しかし、ゆっくりとしたスタートの直後、いきなり躓いて急減速し、最後方からの競馬を強いられる形に。4.7倍の高い人気に支持された一方、まさに「嫌な空気」を感じさせる展開でレースは始まった。

それでも、鞍上の北村友一騎手は無理に追いかけるようなことはしない。先頭を射程圏内に捉えるポジションまで押し上げたのは、レースが最終コーナーを迎えるタイミング。前に5〜6頭ほどを見る位置で直線を迎え、あとはベレシートの末脚がどれだけ伸びるかの勝負だった。

小倉の短い直線、残された293mで先に抜け出したのはロードフィレール。ベレシートは半分を切った時点でまだ4番手、万事休すかと思われた途端、急加速して豪快に差し切り。ラスト1ハロンでの大逆転は、主役は最後にやってきたという表現が似合うレースだった。

レース後、斉藤崇史調教師は「お母さんのときみたいでした」と微笑んだ一方、「幼さや難しさを残しているので、どうなるかと思っていました。遊びながらあの感じですから、持っているものは良いと思います」と課題を指摘。

北村友一騎手も同様の見解を述べ、「操縦性や気性面で難しさがあるので、どうレースを運べるかと思っていました。直線も遊びながらの走りなので、勝ち切ってくれてよかったです」とコメントした。

課題と素質の双方が垣間見えたレースではあるも、時計の面でもその優秀さは歴然。上がり3ハロンは34.5秒で、2位に0.7秒差をつける最速タイム。スローペースからの加速ラップという展開で、末脚の鋭さが際立った。

“同条件” でのデビュー戦ということもあり、どうしても比較されてしまうのが母のクロノジェネシスとの優劣。終盤にかけて加速するラップを豪快に差し切った点は共通するが、前半1000mのペースが2秒近く早いこともあり、母の勝ち時計は1:50.0。7年前の方が2.5秒も早い決着だった。

歴代で比較すると、2021年の新馬戦でドウデュースが似たようなスローペースから1:50.2の勝ち時計を叩き出しているが、これは別格とも言える内容。ベレシートの1:52.5も決して悪い時計ではなく、“合格点” であることは強調しておきたい。

それよりも課題として残るのが、気性面の未熟さ。鞍上が「まだ全能力を出していない」と言うように、この馬の本気を見られたのは最後の1ハロンのみ。夏を挟んで、秋にどれだけ成長した姿で帰ってこれるかが、ベレシートの将来を巡る上で最大の鍵となるのは間違いない。

気になるベレシートの次走だが、夏場は適性のレースが少ないこともあり、秋に持ち越しになる可能性が高い。母の2戦目は、10月に東京で行われるリステッドのアイビーステークスだったが、ベレシートもこのレースに出走する可能性は充分に考えられる。昨年このレースを制したマスカレードボールは、後に日本ダービーの2着馬となっている。

斉藤崇史調教師、北村友一騎手、そして馬主のサンデーレーシングは今年の日本ダービーを制した、クロワデュノールのチームでもある。そして、この3者の絆はクロノジェネシスから始まった。今年の凱旋門賞、さらに来年のクラシック路線、『チーム・クロノジェネシス』の活躍を見る機会はこの先何度も訪れることだろう。

旧約聖書の創世記(ジェネシス)の書き出しは「はじめに」から始まり、その言葉は原典のヘブライ語では「ベレシート」と記される。息子は偉大な母と同じ道を歩むのか、それとも毛色のように母と異なる道を歩むのか。歴史はまだ始まったばかりだ。

今後の展望: 重賞馬となる可能性を秘めたトッププロスペクト

レース映像: 母・クロノジェネシスのデビュー戦

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