2025年、リヤドのキングアブドゥルアジーズ競馬場で行われたインターナショナルジョッキーズチャレンジ(IJC)で永島まなみ騎手はポイントを獲得できずに終わった。しかし、日本を代表する女性騎手にとって、この経験は決して「無意味」なものではなかった。
サウジIJCは総賞金2000万米ドルのサウジカップの前夜に開催され、若手騎手にとっては国際的舞台への登竜門となり、普段は交流のない騎手たちと競い合う貴重な機会となる。
彼女の周りには錚々たる顔ぶれが揃っていた。最終的に4レースすべてを終えてゼロポイントに終わったが、その隣には同じくゼロポイントだった米国競馬の殿堂入りジョッキー、ジョン・ヴェラスケスがいた。キングアブドゥルアジーズ競馬場で行われたこのイベントでは、クリストフ・スミヨン、オイシン・マーフィー、ジェームズ・マクドナルド、ホリー・ドイル、レイチェル・キングといった国際的な名手たちともしのぎを削った。
「世界のトップジョッキーの方が集まっているレースなので、一緒に乗せていただいてその細かな技術も見ることができましたし、初めての競馬場を経験させていただいて、自分の引き出しが増えたかなと思っています」と永島まなみ騎手は、4レースの騎乗を終えた後にIdol Horseに語った。

22歳の永島は穏やかな口調で礼儀正しく、温かい笑顔が印象的だ。オフの時間には料理を楽しみ、日本食を作るのが好きだという。
しかし、そのイメージに惑わされてはいけない。彼女の中には競馬に懸ける情熱と闘志がしっかりと息づいている。園田競馬所属の元騎手、永島太郎氏を父に持ち、三姉妹の次女として育った。10年前には関西地区の『ジョッキーベイビーズ』予選に出場し、3年後にはJRA競馬学校へと進んだ。
現在、永島はJRAの舞台でその実力を示し続けており、今回のサウジ遠征が自身のさらなる成長に繋げたいと目論んでいる。来たる3月6日はJRA初騎乗から4年目を迎える節目だ。
2021年3月6日、小倉競馬場で迎えたデビュー戦では4着。この騎乗で彼女は藤田菜七子騎手以来5年ぶりにJRA競馬学校からデビューした女性騎手となった。初年度は7勝、2年目は21勝を挙げ、その後、着実に勝ち星を積み重ね、2024年7月には藤田騎手に次ぐJRA史上2人目の女性騎手としてJRA通算100勝を達成した。
しかし、一時期は一学年年下の今村聖奈騎手の陰に隠れる形となった。今村騎手はデビューから2年間で旋風を巻き起こし、2022年にはデビュー初年度にいきなり年間51勝を挙げてJRA女性騎手の年間最多勝記録を樹立した。
ただ、その後の1年半の間に今村の勢いはやや鈍化。一方で永島騎手は2023年に50勝を挙げ、記録更新にあと一歩まで迫った。今村は同年5月に6名の騎手とともに、金曜夜から日曜夜までの『調整ルーム隔離期間』において禁止されているスマートフォンを使用したことにより30日間の騎乗停止処分を受けている。もし、これがなければ一体どこまで勝ち星を伸ばしていたのか……そんな『もし』が頭をよぎるのも無理はない。


2024年は32勝、今年はすでに4勝を記録。永島は今、減量特典の縮小、さらに見習い騎手の恩恵が完全に無くなる騎手としての移行期にあることを自覚している。プロとして戦っていくための課題と向き合い、さらなる成長を目指しているという。
「最初は4キロ減から始まるんですけど、4キロ減の乗り方をしてては全然成績も出ないですし、そういった部分で色々試行錯誤はしないといけないなと今の段階で思っています」と永島騎手は語る。
「3、4コーナーで追い上げていくポジションであったり、踏んでいくタイミングを色々、減量変わっていくに連れ踏む場所とかも考え直しましたし、ポジションの取り方も減量があるのと無いのとでは全然違うので、そういったポジション取りっていうのも、色々(考えました)」
これまで影響を受けた騎手として武豊騎手の名を挙げてきたほか、父と同じNAR兵庫出身の岩田康誠騎手を参考にしてきたが、最近ではさらなる高みを目指し、ある2人のトップジョッキーの助言を仰いでいる。
「坂井瑠星さんや、川田将雅さんにはよく騎乗技術を教えていただいています」

昨年6月にはアリスヴェリテでG3・マーメイドステークスを制し、初の重賞タイトルを獲得。次なる目標は、より高いグレードのレースで結果を残すことだ。そして、今回のサウジでの経験がその視野を世界へと広げるきっかけとなった。
「サウジの海外の競馬を経験させていただいたことで、日本ではなく海外でも活躍できるジョッキーになりたいなと改めて思いましたし、その為にはもっと頑張らないといけないなと思いました」