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武豊騎手がアイルランドに現れるのは実に珍しいことだ。ましてや、キルケニー州の丘陵地帯の小道に姿を見せるなんて。だが、今週彼の姿は本当にそこにあった。日本からはるばるジョセフ・オブライエン調教師のキャリガノッグ厩舎を訪れたのは、12日後にパリ・ロンシャン競馬場で行われるG1・凱旋門賞に向けた、この卓越した名手の準備の一環だった。

武騎手は、生涯にわたる凱旋門賞への挑戦を終わらせるために、できる限り運任せにはしないようだ。彼はこれまでこのレースで10回騎乗しているが、そのどれもが程度の差こそあれ、失望に終わっている。1994年のホワイトマズルの外側からの、遅すぎた追い込みから始まるそのリストの中には、誰もが落胆した偉大なディープインパクトの3着とその後の失格も含まれる。

先月札幌で開かれたアジア競馬会議(ARC)で、Idol Horseに対してホワイトマズルについて語った際、「あの時は若かったね」と武騎手は皮肉な笑みを浮かべて言った。

30年経った今、彼は名手であり、日本では生ける伝説だ。今回、彼はオブライエン調教師の管理馬、アルリファーに騎乗することが決まっている。この馬は、凱旋門賞の有力候補の一頭だ。この4歳馬の所有者は、武騎手と親交が深い松島正昭氏で、日本の名手の目標達成を全面的にバックアップしている。そして、この偉大な騎手が55歳であることを考えると、両者とも残り時間が少ないことを知っている。これが最後の大きなチャンスになるかもしれないのだ。

Horse trainer Joseph O'Brien
JOSEPH O’BRIEN / The Curragh // 2024 /// Photo by Seb Daly

そのことを念頭に置いて、オブライエン調教師と彼のチームはある秋の火曜日の朝、武騎手を厩舎に迎え入れた。31歳の若さで凱旋門賞初勝利を目指すこのトレーナーは、今回のこのレースにかかる歴史の重みをよく理解している。

オブライエン調教師は「武豊騎手を我々の厩舎に迎えられたのは本当に光栄でした。松島オーナーも一緒に来てくださったので、彼らと朝を過ごせて嬉しかったです」とIdol Horseに語った。

「厩舎に馬がいることも、レースに出走馬を送り出すことも特別なことです。しかし、日本との繋がりがあり、凱旋門賞が日本の競馬界でどういう意味を持つのかを知っていることもまた特別です。凱旋門賞はアイルランドの競馬関係者にとっても同じような意味を持ちますが、その(日本との)繋がりがあることで少し特別な感じがしますね。そして、武騎手ほどの人が、現実的なチャンスを持って我々の馬で凱旋門賞に騎乗することは、本当にこれ以上ないほど素晴らしいことです」

武騎手はアルリファーと一緒にまっすぐな襲歩を行った。特に速くもなく、激しくもない。ただ体力を維持し、精神状態を整えるための通常の調教だった。

「武騎手はアルリファーに非常に満足して、彼のことを知ることができたと思います。実際に騎乗して感触を確かめる機会を得たことで、レースに向けて自信を持てたのは明らかだと思います」とオブライエン調教師は続けた。


このトレーナーは、若い頃に自身も複数のG1レースを制した元チャンピオンジョッキーだが、武騎手ほどの一流騎手なら、馬を見ずにコースに到着しても騎乗できるだろうと考えている。しかし、レース前の馬と騎手の出会いは有益だったはずだとも信じている。

「武騎手のような経験を持つ人物にとっては必ずしも(事前に騎乗することは)必須ではないと思います。アルリファーに一度も乗らずにレースに臨んだとしても、誰も動揺しなかったでしょう。しかし、役立つとは思うし、明らかに不利にはならないはずです。アルリファーは特に扱いやすい牡馬で、非常に乗りやすいです。彼に関わることは全て喜びです。しかし、武騎手がその繋がりを得ただけでも、良い経験になると思います。レースに向けて彼の感触を掴んだことで、確実に乗り手に自信を与えるでしょう」

Al Riffa wins G1 Grosser Preis von Berlin
AL RIFFA / G1 Grosser Preis von Berlin // Hoppegarten /// 2024 //// Photo by Racingfotos

アルリファーは4戦の2歳シーズンを締めくくるG1・ヴィンセントオブライエンステークスで勝利したが、その後の復帰が遅れたために昨年のクラシックレースを逃した。そしてその後は2回しか出走していない。2回目のドーヴィルでの出走では、その後凱旋門賞を制した無敗馬、エースインパクトと僅差の2着だった。

「フランスでのレースの後、アイリッシュチャンピオンステークスに向かう予定でした。しかし愛チャンピオンSの前日に小さなアクシデントがあり、2週間ほど調教を逃すことになってしまいました。その時期に2週間のブランクがあると、シーズンの残りを棒に振ることになります。そのため、我々は辛抱強く春を待つしかありませんでした」

アルリファーは今期、調子が上向くのに時間がかかったが、3戦目となる7月のサンダウン競馬場で開催されたG1・エクリプスステークスで今季のスター、シティオブトロイの後ろで力強く2着に入った。その後、このオブライエン調教師の管理馬は印象的な5馬身差でG1・ベルリン大賞を制した。そして、父親のエイダン・オブライエン調教師が調教するシティオブトロイは、G1・インターナショナルステークスで素晴らしい勝利を収め、現在世界最高の芝馬としての評価を得ている。

ジョセフ・オブライエン調教師は、シティオブトロイとの対戦成績がロンシャンに向けて自身の馬への自信を高めているかという質問に「そうですね、そう思います」と答えた。

さらに「サンダウンでの走りは素晴らしかったですし、ドイツでそれを裏付けられたのは良かったです」と付け加えた。

武騎手は短いオブライエン厩舎訪問の後、彼は土曜日に中京、日曜日に中山でG1・スプリンターズステークスでオオバンブルマイに騎乗するため日本に戻ることになる。

その後、彼の関心は完全に凱旋門賞に向けられる。そして、おそらくキルケニーの丘の上でアルリファーと過ごした短い朝のひとときが、ロンシャンのゴール前で彼に有利に働くかもしれない。

デイヴィッド・モーガン、Idol Horseのチーフジャーナリスト。イギリス・ダラム州に生まれ、幼少期からスポーツ好きだったが、10歳の時に競馬に出会い夢中になった。香港ジョッキークラブで上級競馬記者、そして競馬編集者として9年間勤務した経験があり、香港と日本の競馬に関する豊富な知識を持っている。ドバイで働いた経験もある他、ロンドンのレースニュース社にも数年間在籍していた。これまで寄稿したメディアには、レーシングポスト、ANZブラッドストックニュース、インターナショナルサラブレッド、TDN(サラブレッド・デイリー・ニュース)、アジアン・レーシング・レポートなどが含まれる。

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