世界の馬産地で存在感を示すオーナー、藤田晋氏。日本最大の競走馬セール、JRHAセレクトセール2025でもその勢いに陰りは見えず、月曜日に行われた初日のトップバイヤーとなった。
1歳馬部門が行われたこの日、10億円以上を投じた馬主は2人。先述の藤田氏と、『ダノン』の冠名で知られるダノックス(野田順弘オーナー)のみだった。
藤田氏が落札した7頭のうち、3頭は100万米ドル(約1.5億円)超え。米G2勝ち馬、セルフレスリーの仔となるフライトライン産駒の牡駒が1億9000万円(128万米ドル)、G1馬・パリスライツの半妹となるコントレイル産駒の牝駒が2億8000万円(189万米ドル)を記録。
そして、注目を集めた “ダート王者” フォーエバーヤングの半弟にあたるレイデオロ産駒の牡駒は、3億円(203万米ドル)で落札。兄と同じく、藤田氏の勝負服で走ることが決定した。
セレクトセールの会場でIdol Horseの取材に応じた藤田晋オーナーは、「ダート血統を狙っているのは確かです」とその意図を説明。
「フォーエバーヤングのおかげで賞金は多く稼げましたし、海外に遠征する機会にも恵まれました。海外のダートレースもビッグレースが多いですし、ダート馬を狙っていくのも有りなのではないかなと思っています」
「ケンタッキーダービーではあと一歩とのところまで行きました。やはり勝ちたいレースです。この馬(フォーエバーヤングの半弟)だったり、今日買った馬たちが勝ってくれるかもしれないですね」
早くも期待と注目を集めるダート王者の半弟だが、管理するのは兄のフォーエバーヤングと同じく、矢作芳人調教師。しかし、栗東の名伯楽は同馬をケンタッキーダービー向きというより、芝の日本ダービー向きと見ているようだ。
「藤田さんにはこの馬をぜひと推薦しました」と矢作師。「以前からフォーエバーヤングを芝で見てみたいと言ってきましたが、弟の方も芝で走ってきそうですね。芝でも大丈夫だと思います」

昨年、そのフォーエバーヤングを破って、第150回ケンタッキーダービーを制したミスティックダン。同馬を管理するアメリカのケニー・マクピーク調教師もまた、セレクトセールの会場で一部始終を見守っていた一人だった。
セレクトセール初参加のマクピーク師だが、今回の目的はあくまで “偵察” がメインだったとしつつ、アメリカのジョン・スチュワート氏が落札した高額落札牝馬に着目。1億7000万円で落札された、母フォトコールのキタサンブラック牝馬が、自身の厩舎に来てくれることを願った。
「母フォトコールの牝馬は私たちのリストにも名前がありました。ジョン(スチュワート氏)がうちに預託してくれたら、嬉しい話ですね」
「血統というのは今やグローバルです。たとえば、フォエヴァーダーリングとはアメリカで戦ったことがありますし、今度はその息子のフォーエバーヤングもアメリカにやってきて戦いました。そして、今年はサウジやドバイでも走りました。セレクトセールはずっと来たいと思っていた市場だったので、やっと来ることができて嬉しいです」
「矢作先生と藤田オーナーにもお会いしましたが、KYダービーでの勝った負けたのわだかまりなんてものは無かったですよ!11月のBCクラシックに来てくれたら、うちのミスティックダンかソーピードアンナが大歓迎しますよ」
スチュワート氏はケンタッキー州の自宅からオンライン入札での参戦。セール後の取材に応じたスチュワート氏は、良血牝馬を自身の軍団に加えられることを、大いに喜ぶコメントを残した。
「母系(フォトコール)の血統が決め手でした。このセールは、アメリカから日本に渡った血統を買い戻す絶好のチャンスです。キタサンブラックも産駒が走っている種牡馬ですし、この牝馬は繁殖牝馬としても期待してしまいますね」
「我々が参戦したということは、日本の世界中から良血牝馬や種牡馬を導入してきた努力を評価しているということでもあります。2日目もアクティブに狙っていく予定なので、当歳馬を数頭確保できたら良いですね」
香港ジョッキークラブ(HKJC)が率いる『ザ・レーシングクラブ』も、今年がセレクトセール初参戦となった海外馬主の一人。G3勝ち馬・フェアリーポルカの全弟となるルーラーシップ産駒の牡馬に6800万円、JRAで4勝を挙げたチェリーヒロインの仔であるキズナ産駒の牡馬に5600万円を投じ、2頭の1歳馬を仕入れた。
2頭はHKJCが所有し、ザ・レーシングクラブの勝負服で出走する。ザ・レーシングクラブはHKJCが創設した若手会員向けの組織で、現在の会員数は1700名を超える。『ヤング』の冠名を用いることでも知られており、この2頭も同様の馬名が名付けられる予定だ。
「日本と香港の結びつきは以前から深く、毎年のように優秀な日本馬が香港に来ています」と語るのは、HKJCのレーシング・コマーシャル部門で責任者を務めるジェームズ・ロス氏。今回、セレクトセールで日本産馬を購入した理由を説明してくれた。
「ルーラーシップは香港のQE2世Cを勝っており、そしてソウルラッシュの父でもある種牡馬です。キズナは日本のチャンピオンサイアー、これまで何頭もトップホースを輩出している種牡馬です」
「日本の血統には注目しています。ザ・レーシングクラブでは、素質の高い馬を仕入れ続け、毎年安定した成績を残す戦略を目指しています。香港の番組を考慮し、マイルや2000mで伸びしろがありそうな馬を探しており、今回この2頭に巡り会うことができました。素晴らしい候補たちの中から、2頭を選び抜くことができて大変嬉しく思います」
「ザ・レーシングクラブは会員の皆さまに、将来的に馬主資格を取得する登竜門としての役割を提供しています。すでにシンジケート会員として競走馬を所有されている会員の方も多く、馬主資格取得に向けて動いている方も大勢いらっしゃいます。この1歳馬たちが、オーナーのお役に立てれば幸いです」
この日行われた1歳馬セッションの最高価格は、オーストラリアG1馬のモシーンを母に持つ、キタサンブラック産駒の牡馬。序盤の登場ながら、落札価格は4億2000万円。購入したのは『ネブラスカレーシング』という聞き慣れない名前だった。
一部では、大手アミューズメントチェーン社長の杉野公彦氏の名義ではないかと囁かれている。同氏は馬主としては『エムズレーシング』の法人名で知られている。
母モシーンの1歳馬が初日の最高落札価格を記録したのは、2022年に続いて2回目。当時の最高価格だったモーリス産駒の牡馬は、後にダノンエアズロックと名付けられている。
このセールで目立ったのが、種牡馬キタサンブラックの快進撃。ディープインパクト亡き後を代表する種牡馬として、引き続き高い人気を誇った。この日上場された11頭の落札総額は24億8000万円、平均落札価格は実に2億2550万円を記録した。
10月のG1・凱旋門賞にクロワデュノールを送り出す、ダービートレーナーの斉藤崇史調教師もセレクトセールに来場。自身がよく知るキタサンブラック産駒の “強み” について質問したところ、次のような答えが返ってきた。
「キタサンブラックはいつも真面目で、どんなときも全力を出してくれる馬でした。産駒はどの馬も馬体の造りが素晴らしく、距離適性も幅広いですし、気性も抜群です。本当に良い種牡馬だなと思います。人気が出るのも納得ですね」
セレクトセールは今年も活気溢れる市場となり、米ドル換算での落札価格が100万ドルを超えた馬は23頭に上った。2021年に記録された過去最高記録の22頭を上回り、新記録となる。
10年前は100万ドル超の落札馬がわずか6頭、さらに15年前は1歳馬の最高価格が75万ドルだったことを踏まえると、記録的な価格の伸びと言える数字だ。
JRHAセレクトセールは翌火曜日に当歳馬セッションが行われ、ここでは “ワールドチャンピオン” イクイノックスや、ウエストオーバー、コディーズウィッシュ、エースインパクト、アルカンジェロなどの初年度産駒がお披露目される予定となっている。