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「視界は最悪」ミスターメディチが “泳いで” 制したチャンピオンズ&チャターカップ

今週日曜、香港シーズンを締めくくるG1・チャンピオンズ&チャターカップにヴォイッジバブルが挑む。だが、激しい雨の中で勝利を手にしたミスターメディチほど、信じがたいレースになることはないだろう。

「視界は最悪」ミスターメディチが “泳いで” 制したチャンピオンズ&チャターカップ

今週日曜、香港シーズンを締めくくるG1・チャンピオンズ&チャターカップにヴォイッジバブルが挑む。だが、激しい雨の中で勝利を手にしたミスターメディチほど、信じがたいレースになることはないだろう。

1870年にハッピーバレー競馬場で第1回が開催されて以来、チャンピオンズ&チャターカップには数多くの物語が積み重ねられてきた。

このレースはさまざまな競馬場や距離で施行されてきたが、勝ち馬には香港競馬の栄光の系譜に名を連ねる偉大な競走馬たちの名前が並ぶ。ここ50年間だけでも、スーパーワン、シルバーライニング、コータック、クイッケンアウェイ、リバーヴァーデン、インディジェナス、ヴェンジェンスオブレイン、ヴィヴァパタカ、ワーザー、パキスタンスター、エグザルタントといった名馬たちが勝利してきた。

だがドラマという点でいえば、2010年のミスターメディチの勝利に匹敵するチャンピオンズ&チャターカップはほとんどないだろう。この年のレースは、最高レベルのメンバーが揃っていたわけではなかったかもしれない。だが、そのレース映像を何度見返しても記憶に残るのは、何よりも凄絶な豪雨の中で施行されたからである。

当日、香港全域の降水量は2〜20ミリ程度で、週の前半は比較的乾燥していた。しかしシャティン競馬場だけは局地的な集中豪雨に見舞われ、コースには130ミリ以上の雨が降り注いだ。雨はレース開始直前から降り始め、開催を通して止むことはなかった。その結果、番組後半の2レースは中止に追い込まれた。

この集中豪雨によって、シャティン競馬場は厚い雨の幕に覆われ、コースの大部分が視界から消えた。世界でも最高水準の排水性能を誇るシャティン競馬場でさえも、この日の雨量には太刀打ちできず、馬たちは巨大な水たまりの中を走るという、異様な光景が広がった。

記憶に残っているのは、リプレイのカメラアングルが次々と切り替わったことだ。普段どおりの映像アングルで撮影されていたら、レースの大部分は映像に収められなかったはずである。

イギリス出身の実況アナウンサー、ダレン・フリンダル氏は、シャティン競馬場を一周強する距離のレース中、視界がほとんどないなかで必死に実況を続けた。これまで数々の名場面をマイクの前で実況してきた彼にとっても、あのレースはまったく別格だった。

「双眼鏡の向こうで、あれほど視界が悪かったことは他にありません」とフリンダルはIdol Horseの取材に語った。「あの日のような条件でレースを実況したことは、後にも先にもありません」

ヴィヴァパタカは、G1・クイーンエリザベス2世カップ2勝目を挙げたばかりの状態で、単勝2.1倍の1番人気に支持されていた。彼にとってこのレースは5回目の出走で、2006年、2007年、2009年に優勝、2008年にはパッキングウィナーの2着に敗れていた。

そのパッキングウィナーもこの年に再出走しており、出走馬7頭には他にも、香港ダービーでワンツーを決めたスーパ―サテンとスーパーピスタチオ、香港クラシックカップ勝ち馬キングダンサー、クイーンマザーメモリアルカップ勝ち馬のファットチョイイチバンが名を連ねていた。

出走馬の多くは不良馬場の経験がなく、シャティンで例年通りの良馬場を期待していた。実際、過去10年間で香港開催が不良馬場となった例は2度しかない。だがミスターメディチのジェラルド・モッセ騎手とピーター・ホー調教師の陣営は、むしろ雨を心待ちにしていた。

「正直言って、ここまで降るとは思っていませんでしたし、期待以上の量でした」とモッセはレース後に語った。

「でも、彼は本当によく対応してくれました。直線で加速してからは止まらなかったし、先頭に立った時点で後続には絶対に捕まらないと確信していました」

勝ちタイムは2分38秒49で、前年のヴィヴァパタカのタイムより11秒以上、同馬が持つレースレコードよりもほぼ14秒遅かった。

ミスターメディチはその年の後半にオーストラリアへ遠征し、コーフィールドカップではデスカラードの6着、メルボルンカップではアメリケインの10着と善戦した。いずれも重馬場でのレースだったが、シャティンでの豪雨ほど極端ではなかった。

Idol Horse reporter Andrew Hawkins

Hawk Eye View、Idol Horseの国際担当記者、アンドリュー・ホーキンスが世界の競馬を紹介する週刊コラム。Hawk Eye Viewは毎週金曜日、香港のザ・スタンダード紙で連載中。

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