2025 宝塚記念: G1レビュー
競馬場: 阪神競馬場
距離: 2200m
総賞金: 6億5100万0000円 (452万2041米ドル)
日本のレジェンド・武豊騎手が、メイショウタバルを完璧な逃げに導き、2006年のディープインパクト以来19年ぶりの宝塚記念制覇を果たした。これで武にとっては宝塚記念5勝目、今年の日本競馬の春シーズンを鮮やかに締めくくった。
史上最年少でJRAG1を制した武は、今度は史上最年長勝利という記録にも王手をかけていた。しかし、今年の宝塚記念は例年の6月下旬ではなく、2週間早い日程で施行されたため、記録達成まで『あと一日』というところでの快挙を逃すこととなった。
勝ち馬・メイショウタバル
今から10年前、ゴールドシップが宝塚記念に3度目の挑戦を試み、スタートで大きく出遅れた一件は『120億円事件』として語り継がれている。そのゴールドシップの産駒であるメイショウタバルが、父の雪辱を晴らすかのような圧巻の逃げ切りで頂点に立った。
メイショウタバルのこれまでの戦績を見ると、父譲りの気まぐれな一面も垣間見える。今回で11戦5勝となったが、敗戦時は1着馬に大きく離されたレースが多く、一方で勝利時は後続を突き放すような内容が目立つ。
とはいえ、これは気性の問題というよりも、逃げを基本とする彼のレーススタイルによるところが大きい。ペース配分さえハマれば手がつけられない反面、タイミングを誤れば自滅するリスクも孕んでいる。
その点、武豊はペース配分の名手である。レース序盤こそ勢いよく飛ばしてハナを奪ったが、阪神の直線を一度通過してからは、1000m通過が59秒1という理想的なペースに持ち込み、1600mから600mの間をほぼ12秒フラットの均等ラップで刻んだ。残り600mを切ってベラジオオペラが迫ってきた局面でも、過剰にペースを上げず、冷静に対応した。
その結果、他の追随を許さずメイショウタバルが最後まで主導権を握り、初のG1タイトルを手にした。これにより、今後の選択肢は日本国内にとどまらず、世界中に広がることとなる。

勝利騎手・武豊
この40年間で武豊について書かれてきたことに、いまさら何を加えられるだろうか。
武は1988年、スーパークリークとのG1・菊花賞制覇で『JRAG1最年少勝利(19歳236日)』という金字塔を打ち立てたが、その記録は今も破られていない。今春、その座を脅かすかに見えたのが新星・吉村誠之介騎手で、G1・朝日杯フューチュリティステークスではランスオブカオスで3着、先週の安田記念ではガイアフォースで2着に入った。
しかし、次に組まれているG1・スプリンターズステークスの施行時点で吉村は19歳と267日。記録更新はならなかった。
一方で、今回の宝塚記念で武が目指していたもう一つの大記録がある。それは『JRAG1史上最年長勝利』だ。武はこの日、56歳92日。惜しくもその記録に届かなかった。現在の最年長記録は、昨年横山典弘騎手がダノンデサイルで東京優駿(日本ダービー)を制した際の56歳93日である。
つまり、この秋以降のG1で勝利すれば、武は最年少と最年長、双方の記録を保持する可能性を持つ唯一の存在となる。その事実だけでも、彼のキャリアがいかに前人未到であるかがよくわかる。
加えて、彼は宝塚記念の歴代最多勝騎手でもある。最初の勝利は1989年、当時20歳でのイナリワンとのコンビ。そして今回のメイショウタバルで5勝目を挙げ、65年のレースの歴史において単独最多勝騎手となった。

勝利調教師・石橋守
武豊より2歳年上の元騎手、石橋守調教師にとって、メイショウタバルによる今回の勝利は調教師として初めてのG1タイトルとなった。
石橋は、1996年のドバイワールドカップに出走した初の日本人騎手で、ライブリマウントとのコンビで6着に入っている。あの記念すべき第1回で鞍上を務めた11名のうちのひとりであり、他にはジェリー・ベイリー、ゲイリー・スティーヴンス、パット・エデリー、フランキー・デットーリ、ダミアン・オリヴァーら世界の名手たちが名を連ねていた。
現役時代のハイライトはメイショウサムソンとの3つのG1勝利、2006年の皐月賞、東京優駿、そして2007年の天皇賞(春)であり、興味深いことに、同馬で唯一彼以外に手綱を取ったのが武豊だった。
2013年に騎手を引退した際、そのキャリアを後押ししてくれたのが、メイショウタバルの馬主・松本好雄氏だ。そこから始まった縁が、12年の時を経てG1勝利という形で実を結ぶこととなった。

2着馬・ベラジオオペラ
最終コーナーでの手応えを見る限り、1番人気ベラジオオペラが差し切るかに思われた。直線入口ではメイショウタバルにクビ差まで詰め寄ったが、最後は伸びを欠き、猛追してきたジャスティンパレスを何とか抑えて2着を確保するのが精一杯だった。
これでベラジオオペラは2000m超の距離で5度目の出走となり、その内訳は宝塚記念で2回の好走(いずれも2着)、有馬記念と東京優駿での4着、そしてG2・京都記念での2着。距離延長にも一定の対応は見せているが、やはりベストは2000m前後と見られ、次走もG1・天皇賞(秋)を視野に入れる可能性が高い。
敗れた有力馬たち
オーストラリアを拠点とするマイケル・ディー騎手とダミアン・レーン騎手は、それぞれ短期免許での滞在を終えるにあたり、騎乗馬の奮闘で納得のいく形となった。
ディーは今開催中にG1勝利こそなかったが、ジャスティンパレスでの鋭い末脚による3着は、NHKマイルカップでチェルビアットとの3着に続くG1での2度目の入着。初のJRA滞在としては立派な成績だ。
一方、チャックネイトは今回の短期滞在中にレーンが騎乗した馬の中でも最も人気薄で、単勝オッズは三桁に迫る大穴だった。それでも7歳馬は粘り強く脚を伸ばし、4着争いでショウナンラプンタにハナ差迫る走りを見せた。ショウナンラプンタもまた、天皇賞(春)の好走に続く善戦で健在ぶりを示した。
ソールオリエンスは最後方から脚を伸ばして6着まで押し上げた。一方で、注目を集めたロードデルレイ(8着)、ドゥレッツァ(9着)、レガレイラ(11着)、アーバンシック(14着)、ヨーホーレイク(17着)らは、それぞれ精彩を欠き、期待を裏切る結果となった。

レース後コメント
武豊騎手(メイショウタバル・1着)
「嬉しすぎますね。涙が出そうになるくらい嬉しかったです。馬がつないでくれる縁というか、人がつなぐ馬との縁というか、そういったことを感じますし、いろいろな思いがあります」
「基本的には先手を取りたいと思っていました。ただ、どれくらいのペースで行ったらいいのか、どれくらいの感じで馬が走るというのはスタートしてみないと分からなかったので、いろいろな迷いもありました」
「(1000m59秒1のペースは)それ以上は速くしたくなかったですし、スローも望んでいなかったので、ちょうど良いくらいの入りかなと思いました。馬の状態はとにかく良かったと思いますし、こういう馬場状態も気にはしなかったので、いろいろとうまくいったかなと思います」
横山和生騎手(ベラジオオペラ・2着)
「もしかしたら夏負けの兆候があったかもしれません。一歩目が昨年ほどではありませんでしたが、進みの悪さというか、鈍かったです。それでも上手に競馬をして、外に出して早めに捉えに行きましたが、馬場も相手の好きな馬場で、こちらが止まっているというより、勝ち馬が伸びている感じでした。距離もこなせないわけではありませんが、守備範囲から少し外れていたかもしれません」
マイケル・ディー騎手(ジャスティンパレス、3着)
「調教の成果もあり、ゲートの中はおとなしかったです。スタートもしっかり切れました。ブリンカー効果もありました。道中もハミをしっかり取ってくれました。ポジションは馬のリズムに合わせて運びました。アーバンシックが見えたのでそれをターゲットにしながら、直線では良い進路に出したいと思いました。それに応えて、最後はいい脚で伸びてくれました」
戸崎圭太騎手(レガレイラ・11着)
「ポジションは良いところを取れて、道中はリズム良く運べましたが、3~4コーナーぐらいから手応えが怪しくなりました。前にベラジオオペラがいたのでちょうど良いかと思いましたが、脚が溜まっている感じはありませんでした。緩い馬場がもうひとつだったのか、久々もあったのか、はっきりしたところはわかりませんが、また改めてですね」
クリストフ・ルメール騎手(アーバンシック・14着)
「いいリズムで運べましたが、3コーナーから忙しくなって、進んでいかなくなりました。ギアが上がりませんでした。馬場の影響もあったのかもしれません」
今後は?
メイショウタバルは、今回の勝利によってG1・ブリーダーズカップ・ターフ(デルマー・芝2400m)への優先出走権を獲得。また、G1・コックスプレート(ムーニーバレー・芝2040m)への遠征費用全額補助付きの招待も手にした。
いずれの競馬場も、メイショウタバルのように自由に先手を奪って自分の形に持ち込むタイプにとっては適したコースと言えるだろう。
あとは2040m(コックスプレート)に距離を短縮するか、2400m(BCターフ)に延ばすか、陣営の判断次第となる。
他にも、ジャスティンパレスやショウナンラプンタといった馬はコーフィールドカップ~メルボルンカップ路線の適性が見込まれ、ソールオリエンスもまた、BCターフで通用しそうなタイプである。