アスコリピチェーノが、G2・1351ターフスプリント(1351m)で劇的な勝利を収め、さらなる大舞台への可能性を大きく広げた。
クリストフ・ルメール騎手を背に、同じく日本調教馬のウインマーベルをゴール直前で差し切る鮮やかな内容。『長めの』スプリント戦での自在性を証明し、今後の国際レース参戦にも期待がかかる。
今回の勝利は、2023年のG1・阪神ジュベナイルフィリーズ優勝馬としての真価を改めて示すものとなった。前走のG1・ゴールデンイーグル(1500m)では、オーストラリア・ローズヒルガーデン競馬場の重馬場に泣き12着と敗れたが、ここで完全復活を象徴するようなパフォーマンスを見せた。
「シャティン(香港)やデルマー(米国)のような競馬場もきっと合いそうですね。今日は序盤からスピードを見せて、レース全体を通じていいペースで走れました。どこへ行っても良馬場が理想ですが、1200mから1400m、さらには1600mでも問題なく対応できるでしょう」とルメールはIdol Horseに語った。
この言葉が示すように、アスコリピチェーノ陣営は年末の香港国際競走や、デルマーでのブリーダーズカップ遠征も視野に入れているかもしれない。しかし、現実的な次走としては、国内の牝馬限定G1・ヴィクトリアマイル(1600m・東京競馬場)が有力候補となるだろう。昨年4月にはG1・桜花賞(1600m)で2着、続くG1・NHKマイルカップ(1600m)でも牡馬相手に2着と好走しており、改めて国内G1制覇を狙う選択肢もある。
「ヴィクトリアマイルも選択肢の一つですね。彼女にはもうひとつ国内G1タイトルを狙ってみてもいいかもしれません」とルメールも意欲を見せる。

アスコリピチェーノを管理する黒岩陽一調教師は、2023年の最優秀2歳牝馬をここまで8戦5勝に導いてきた。そのうち、3勝はマイル戦でのものだ。
サウジでの鮮烈な勝利直後には、今後のプランについて多くを語らなかったが「選択肢が広がったので、落ち着いてから次のステップを考えたい」と慎重な姿勢を示しつつも「間違いなく、さらなる挑戦を続ける」と海外遠征の可能性を示唆した。
黒岩調教師は、今回はスプリント戦向けの仕上げが功を奏したと認めながらも「やはりベストの距離はマイルだろう」との見解を示す。それを裏付けるように、今回のレース運びも距離適性の高さを印象付けるものだった。
アスコリピチェーノは好スタートを決め、先行するウインマーベルの直後につける理想的な位置を確保。しかし、1400m戦4勝の実績を持つ経験豊富な牡馬ウインマーベルが直線で2馬身のリードを築くと、一気に差し切るのは容易ではない展開となった。
「ウインマーベルがハナを切った時点で、直線でかなり先まで引っ張ってくれると分かっていました。理想的なポジションを取れたと思います」とルメールは振り返る。
「アスコリピチェーノは普段、スタートがそれほど速くないのですが、今日は3番枠からいい反応を見せてくれました。そのおかげで好位を確保することができました」
アスコリピチェーノは、ルメールの力強い追い込みに応えて、松山弘平騎手が騎乗したウインマーベルをゴール寸前で捕らえ、頭差の勝利を収めた。

「ウインマーベルは非常に粘り強かったですが、アスコリピチェーノも自身の実力を存分に発揮しました。日本でG1級の牝馬だと思っています。今日は馬の状態も馬場状態も良く、枠順にも恵まれ、あとはスムーズな競馬ができれば勝てると確信していました」とルメールはレース後に語った。
一方、レース後の会見で「6月のロイヤルアスコット開催のG1・クイーンエリザベス2世ジュビリーステークス(1200m)はどうか?」との問いに対しては、ルメールは慎重な姿勢でこのように答えた。
「ロイヤルアスコットの直線コースはタフですし、あのレースはスプリントのスペシャリスト向きです。アスコリピチェーノはマイルとスプリントの中間のタイプなので、1400mあたりがより適しているかもしれません」