その喜びが、全てを物語っていた。
ジョアン・モレイラ騎手がゴール板を駆け抜けたとき、彼は馬上で立ち上がり、拳を握りしめて雄叫びを上げた。喉を引き裂くような「Yes!」という声、高らかな叫び。安堵と喜びに満ちた瞬間だった。
モレイラにとっては、ワールドオールスタージョッキーズ(WASJ)の優勝を決めた瞬間でもあった。トレードマークでもある魔法のような手綱捌きを披露し、第4戦でエゾダイモンを勝利に導いた。しかし、これにはWASJ優勝以上の価値があった。JRAで再び騎乗するために必要となる、短期免許の申請資格を獲得した瞬間でもあったのだ。
WASJはJRAチームと選抜チームの合計12人が対戦し、最多得点を獲得した騎手に賞金300万円が贈られる、毎年恒例の騎手招待競走だ。しかし、今年はモレイラにとって、トップ5入りが大きな目標となっていた。JRAの短期免許資格を得られる、『ゴールデンチケット』の条件だったからだ。
仮にトップ5入りが果たせなかった場合、絶好のチャンスを失い、短期免許の基準を満たすことに苦労する事態になっていただろう。今年初めの来日期間では、G1・桜花賞をステレンボッシュで制したものの、『期間中にG1・2勝』という条件にあと1勝足りなかった。
JRAは数週間前に『上位5位以内』というボーナスオプションを追加し、モレイラも早速それを活用できたことを喜んでいる様子だった。
「できれば4位、もしくは3位以内に入れればと思っていました」
Idol Horseの取材に対し、モレイラは思いを語ってくれた。第3戦が終わった時点で4位に付け、最後の第4戦は3番人気の馬に騎乗。当時はやや危うい状況に置かれていた。
「良い結果を残せば、また日本で騎乗できるチャンスを得られるかもしれないことは分かっていました。幸運にも、勝つことができました。この上ない喜びです」
The Magic Man secures his return ticket to Japan: #WASJ winner Joao Moreira talks through his thrilling win on Ezo Daimon and shows his love for Japanese racing and its fans, paying tribute to the incredible atmosphere at Sapporo.#競馬 #WASJ #モレイラ pic.twitter.com/tie95zOWnB
— Idol Horse (@idolhorsedotcom) August 25, 2024
今年のWASJは金曜の夜、札幌の京王プラザホテルでの歓迎会から始まった。スーツ姿の騎手たちは皆、ビュッフェの周りで見守る少数の関係者や招待客、そして部屋の隅にロープで囲まれた報道陣エリアで取材する国内外のメディアの前で紹介された。
紹介が終わると、JRAの騎手たちは48時間に渡る『調整ルーム生活』に向けて会場を去ったが、現チャンピオンのクリストフ・ルメール騎手、地方競馬リーディングの吉村智洋騎手、そして海外の招待騎手は、報道陣エリアで短いインタビューを受ける機会があった。
全員が「招待されて光栄です」と述べ、礼儀正しい様子でベストを尽くすと話した。このようなイベントでは、恒例となっている対応だ。この2日後に繰り広げられる、血が騒ぐような本物のドラマとは対照的な光景でもあった。
WASJの4レースは、2日間に分けて2レースずつ行われる。開催地は北海道の札幌競馬場、家族向けのピクニックのような雰囲気がある心地良い競馬場だ。毎年8月、夏の1ヶ月間のみ競馬が開催される。

負傷したリサ・オールプレス騎手の代わりに招待されたカリス・ティータン騎手が、第1戦で早速勝利を挙げた。モレイラが騎乗する1番人気のコーティアスマナーを、ティータンが乗るクファシルがゴール寸前で差し切り、この日2勝目を手にした。
両者の明暗は分かれ、香港を拠点とするティータンにとっては幸先の良い結果、モレイラにとっては残念な結果となった。モレイラはWASJの4戦の中で、最もチャンスがあると見られていた馬で勝利を逃した形となった。
第2戦はさらに厳しい結果が待ち受けていた。ルメールがシュバルツクーゲルで勝利を収めた一方、元香港王者のモレイラは8着に終わり、この時点でダミアン・レーン騎手と並ぶ5位タイとなった。
しかし、モレイラはこの日の最終レースを1.9倍のヴァルドルチャで勝利し、残念な結果に終わった初日を良い形で締め括った。後に待っている、忘れられない日曜日を予感させる勝利でもあった。
中間成績で首位に立ったティータンは2日目に失速し、第3戦と第4戦はそれぞれ6着と5着に終わったが、総合順位では5位に食い込んで短期免許の資格を手にした。来年の夏、香港競馬のオフシーズンに短期免許で来日するチャンスも得た。
「良い馬と良い枠に巡り会うこと、これがこのような大会の全てです」とティータンは語る。
「初日は最高の騎乗ができたと思うので、後はもうベストな結果を祈るのみでした。代役として招待されたのですが、2勝を挙げることができて、日本の皆さんと繋がりを持てたことを嬉しく思います」

日本が誇る偉大な騎手、武豊騎手は日曜日に2勝を挙げた。第3戦は単勝41.3倍のティアップリオンで勝利し、大歓声を送るファンの期待に応えていた。彼は総合順位では2位に入ることになるが、最終戦を前にして豪華な余興のG3・キーンランドカップが待っていた。
このレースは、メルボルンチャンピオンジョッキーのレーンが制した。G1・スプリンターズステークスを目指すサトノレーヴを1馬身半差の勝利に導き、2位にはモレイラのエイシンスポッターが入った。
一方、WASJ以外のレースで活躍したもう一人の海外騎手は、香港のヴィンセント・ホー騎手だ。彼は昨年の夏、日本での落馬事故で数週間の療養生活を余儀なくされた。それ以来の来日となる今回は、2日間それぞれで『アンダーカード』での勝ち星を手にした。
「ノーザンファームが多大なサポートをくださったので、期待に応えられたら良いなと。少なくとも、『ボス』のために勝利を手にすることはできましたし、いくつか入着もゲットできました」
「またここに来られたこと、ファンの皆さんに会えたことが本当に嬉しいです」
しかし、ショーの主役はやはりモレイラだった。ミッキークイーンの娘で期待を集めたミッキーマドンナ、レイピカケ、そしてWASJ最終戦のエゾダイモンで勝利を収め、2日目は3勝をマークした。エゾダイモンは、彼が乗って2019年と2021年のG1・香港ヴァーズを制したグローリーヴェイズの3/4半弟でもある。

モレイラが戻ってくると、観衆からは拍手や声援が飛び交い、「モレイラ!モレイラ!」という呼びかけやサインを求める声が次々と上がった。レース後、彼はそれに応えてサイン対応に追われていた。
「日本の競馬ファンは素晴らしいです」
「日本の人々が作り出す素晴らしい雰囲気は、レース中も伝わってきます。この場所が大好きだと常日頃から言っています。だからこそ、この優勝トロフィーを持って帰れるのは嬉しいんです」
このトロフィーには、日本へのチケットというオプションが付いている。これこそがモレイラと彼のファンが何よりも待ち望んでいた、WASJの報酬なのだ。